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15/19

千優

いつ頃の話だったのだろうか。

正確には、思い出せない。


為すべき事を為せず、居場所と自分の意義を失った。

されど、自分が描いた夢を捨てきれず、そんな未練がましい私は、放浪の旅に出た。


ーーー否、正確には、旅に出る他、選択肢は残されていなかった。


今、思えば、氏を剥奪されて以来、選択肢など常に無かった。


なれば、この道も必定だったかもしれない。

けれど、その選択は、長らく待ち望んだ自由でもあった。

だから、出立時の心境は、晴れやかとはいえないが、一縷の望みも無かったと言えば噓になる。


これから待ち受ける困難への不安と、成し遂げる成果への期待が入り混じる、そんな出始めだった。


ーーー私が世界を変える。


そんな事を思い描きながら地に足を踏みしめたこともあったっけ、、、。


そんな願望と裏腹に、旅は、想定はしていたものの、苦難の連続であった。

そして、本当の意味での、孤独を思い知る。


何から何まで全て自分で対処せねばならない。

そんな当然が、酷く辛く、寂しいものだと知った。

そして、己が非力で脆弱な存在だと気づいた時には、手足が動かなくなっていた。


灼熱に照り映える太陽のもとで、砂漠に伏せるように力尽きた。

そんな、瀕死の状態で、脳裏に諦めの文字が過った時、雨音に出会った。


奇跡的と言えた。


水を差し出す彼女は、後光が差して、女神かと思われた。


助けられた。

救われた。


もし、彼女の身に何か危険が被るのであれば、私が身を挺してでも、彼女を守ると心に誓った。


ーーー誓った筈だった。


しかし、今となっては、どうか。

奪還を果たせたとは言え、彼女は取り返しのつかぬ、大きな傷を心に負ったのだ。

それでは、救えたとは言えない。

寧ろ、謝罪すべきである。

だが、その咎を謝罪だけで済ませえるのは、他ならぬ自分が許せなった。

その罪に見合った成果を上げてかつ、誠心誠意な謝罪をしてこそ、正式な赦しを得られるのだと、私は思う。


兎に角、謝ったら許されると言うのは、嫌なのだ。


だから、危険も承知で、祭壇に舞い戻った。

教徒が秘匿する情報を暴くことこそが、それに見合うのではと、思ったからだ。

たとえ、私の咎が全て清算されずとも、少しでも罪滅ぼしになるのであればと思ったからだ。


そう意気込んで、祭壇に眠る何かを詮索した。


だが、勢い込んだものの捜索は難航する。


飛散した鮮血に、酷い腐臭。

その光景は、今にも気が狂いそうになる。


時折、外に出て、新鮮な空気を取り込む休息を挟むため、なかなか捗らない。


それでも、催す吐き気を堪えながら、詮索を続けた。


それから、程なくーーー奴が目を覚ました。


突然の出来事だった。


不自然なまでに、床が隆起し、かと思えば、地下の天井を突き破るのですら、飽き足らず、真上に位置する神殿までも倒壊して、砂色の巨大な何かが出現した。


視界に収まりきらぬソレは、あまりに悍ましい。

瞬時にソレが、先日、雨音を捕食しようとした悪しき存在だと理解した。


「ーーーーーーーーーーーーーーー。」


咆哮。


耳を劈き、鼓膜を破りかねない轟音である。

そして、化物は、あろうことか、村に向けて進みだした。


あの化物が村に解き放ったらどうなるか。

祭壇での二の舞。

いや、その比ではない。


私ですら状況をよく読み込めていないと言うのに、無関係な一般人は、殊更状況を理解できないであろう。


となれば、被害の数は数倍で収まるどころじゃない。


ーーーーー村が滅びかねない。


背筋が凍る。


そんな、目も当てられない状況は、何としても塞がねば。

罪なき人々が死に至るなんて暴挙、許せる筈もない。


彷彿とした怒りを込めて地面を蹴り上げる。

全速力で化物を追随する。

しれば、難なく追いついて、横並びになる。

が、その後の手立てが思いつかなかった。


この巨躯を頽れさせるとなれば、それ相応の威力をもった攻撃を放たねばならない。

しかし、放つとなれば、村を巻き込みかねない。

それでは、本末転倒である。


であるならば、化物の討伐を試みるよりも、村人たちの避難を最優先すべきであろう。


彼等が無事であることが一番であるし、充分に離れた距離に逃れてくれたのであれば、気兼ねなく能力を行使できる。


だが、思いの外、化物の動きが早い。

細工を仕込んだ私なら、化物を追い抜かすなど造作もないが、一般人からすれば、逃げ切るのも一苦労であろう。


ーーーーー急がねば。


一段ギアを上げた。


一足先についた私が目にした光景は、混沌というしか他ない。


異変に気付いた村人達が、自分本位で逃げ惑うものだから、村全体が錯乱状態。


中には、状況に理解が追いつかない者もいるようで、闇雲に逃げる者もいる。


至る道で逃亡者に溢れ、長蛇の列となり、最後尾の者達が、暴動を起こしかねない程に憤る。


完全に、混乱状態に陥っていた。


これでは、逃げることすらままならず、ここで、果ててしまうオチだろう。


それだけは、何としても避けねば、ならない。


家屋を伝って先頭に躍り出て、先導を受け持つ。


これぐらいでいいだろうか。

ある程度、距離が取れた所で、踵を返す。


だが、連れてこれたのは、所詮、一部のものだけ。

全員の避難を完了するには、程遠い。


されど、幸い、化物は足止めを食らっているようで、此方を追ってくる気配はない。


彼方で何が起きているのか知らないが、避難を済ますのであれば今しかない。


遅れて逃げる者を誘導し、一時的な避難所まで送り届ける。


そして、恐らく最後の一人であろう村人の避難が完了した。


家屋に挟まれて動けない状況の者がいないかもしれないが、それらを言っていたらキリがない。

それに、この豪雨下での避難である。

恐らく、数日として持たない。


元凶である、あの化物を討伐せねば、一時的に繋いだ命の数々も無に帰してしまうだろう。


なれば、即刻、あの化物を仕留めねばならない。


その決意が、自分に課された正義だと信じ、千優は、避難所から踵を返し、化物の元へと駆ける。


道中目にした光景は、散々な有様であった。


幾つもの家屋が立っていた場所は、綺麗さっぱり平らになりて、その家屋は円弧を描くように外周に押し寄せられ、朽ち果てている。


どうして、こうなったのか。

どうしたら、こうなるのか。


自分には到底理解が及ばない。


あの化物が、異次元な存在であることをヒシヒシと感じていた。


だが、同時に、好機であると思えた。

この瞬時に村を破滅に導く、この悪しき化物を、淘汰したならば、それこそ、咎に見合った成果なのではないか。


それに、この化物は、雨音を取り込もうとしていたようにも見えた。

その時点で、私には赦せる筈もない存在である。


怯えよりもなお、怒りが勝った。


ーーー気づけば、指先に殺意が籠っていた。


それに呼応するように、降りしきる雨が指先に集い、水弾が形成されていく。


狙いは、、、定めるまでも無い。


あんな巨躯なれば、目を閉じたとて、命中するだろう。

それに、虚空に集中がいって、此方の様子に気が付く様子もない。

これ以上の絶好な機会は無いと言えた。


弾丸の鼻先をより鋭利に、そして、重量が増すよう密度を濃くしていく。

これ程の強度であれば、打ち砕けない魔獣はいない。

必ずや、あの化物を貫いてくれよう。


指先に込めた殺意を解き放たとう、とした瞬間であった。


「おい、何をしている。」


焦燥と驚きが入り混じる男の声がして、形成した弾丸が、何の弾みもなく塵とかす。


横槍を入れたのは誰かと振り向けば、あの、いけ好かない男であった。


男は驚愕と困惑の色を浮かべ、私の行動が信じられないとでもいいたげに呆れ果てている。


どうも驚きを隠せないようだが、本当に驚きたいのは、突然、妨害された私の方である。

割って入ってこられた事実を思い返していると、怒りが彷彿と湧いた。


「そっちこそ、何なのよ。邪魔しないでくれる。」


当然の怒りを、目前の男にぶつけた。


「それは、此方のセリフだ。どうして、こうお前は、、、邪魔立てばかりする。」


その男は、非があるのは男自身ではなく、私にあると、さも当然の如く言う。


それに、面倒な相手をするような口調が、私の怒りを加速する。もはや、平静など、保てない。

怒りのままに、不満を口にする。


「アンタねえ、その口調が逆撫でるのよ。どうしてわかんないのかしら。それにねえ。どうして、アレ動き出してんのよ。アンタに任せれば、大丈夫と言ってたじゃない。」


この男が、責任を持って1人で片付けると言ったから、素人に掻き乱されると面倒だからと拒絶しから、信用して、村の平穏を託したのだ。


にも拘らず、この有様である。

さて、どう弁明するのか。

私には、見ものだった。


「ああ、そう誓った。だが、失敗した。全て俺の不手際によるものだ。咎めるのであれば、存分にするといい。」


男は、抑揚もなく、淡々と告げる。

この男に限って、赦しを乞うような無様な姿を晒すとは思わなかったが、自身の過ちを、過ちとすら認識していない口調は、度肝を抜くものであった。


「ア、、、アンタ、自分のせいで、多くの人が犠牲になったこと自覚してる?」


焦りだとか、罪悪感だとか、そういう感情は湧かないものなのだろうか。


やや沈黙があって、男が口を開く。


「ああ、分かっている。」


それは、酷く冷淡な声色で感情というものが、一切籠もっていない。


やはり、この男とは反りが合わない。

会話していると頭が痛くなってくるし、そもそも会話が成り立っていない。

この男との対話など、時間をドブに捨てるも同然だと理解し、男を無視して、化物目掛けて、走り出す。


が、、、その動きを又もや妨げられる。


「ねえ。邪魔しないでくれる?」


私がここまで憤りを覚えたのは、初めてだ。

いつになく、激しい口調で、どくよう促す。


だが、それに抗戦するように男も口を開く。


「この状況を招いたのは、俺の不注意だ。ソレについては、弁解する余地も無い。だが、アレに手を出すような奴は、見過ごせない。」


相変わらずな平坦な口調であるが、幽かに闘志に燃える言葉に聞こえた。


「アレには、関わるな。あんなもので、命を無駄にするな。」


それは、アレについて、酷く知り尽くしたからこその言葉なのだろう。

何とも言い難い重みがあった。

けれども、私にだって譲れぬ箇所がある。


「ただ、傍観していろと? 多くの人達が犠牲になったというのに? そんなの、平然としていられるわけ無いじゃない。アレはね。何としてでも討伐しなくては、ならないの。」


そうでなければ、亡くなられた、罪なき人々が、あまりに報われない。

突如、訪れた理不尽なまでの悲劇を少しでも慰めるのが出来るのは、今この場にいる、私だと熱弁する。


「それに、アレを放って置くなど出来るはずもないわ。いつ何時、再び、村を襲うかわからないのよ。早く、対処しないと、折角避難できた村人達がまた犠牲に遭うわ。」


突然な避難で、充分な用品を携えていない上に、この大雨で気分はだだ下がり。村人たちの体力面と精神衛生面の両方を鑑みても、素早い処置を施す必要がある。

11

そうとなれば、一区画であるが、脅威からして、実質全体を支配する化物から、村を奪還しなくてはならない。

11

もし、討伐を延期しようとて、村の復興及び、安泰な生活を望むのであれば、いずれ、あの障壁にぶち当たることとなる。

怪物の討伐は、どうであろうと避けて通れぬ道であった。


そう訴えたにも拘らず、男は頑なに否定する。


「それでも駄目だ。何としてでも、手を出すな。アレは、そういう奴なんだ。」


男は、何処か核心を隠すような、はぐらかして告げる。

尚も続ける。


「もし仮に、俺が引き留めていなければ、お前はいったい、どうするつもりでいたのだ?」


率直な疑問だろう。

だから、私も素直な返答をした。


「どうするって。そんなの正面から叩き潰すに決まっているじゃない。」


意気揚々と答えた。

だが、男の反応は芳しくない。

寧ろ、大袈裟なまでに溜息をつき、呆れを隠そうともしない。


「どうして、こう、、、お前は、こう、、、阿保なんだろうか。」


「なっ、、、。」


覆い隠そうとも、悪気も見えない、真っ向からの罵倒に絶句する。

当然、私には、聞き捨てならない言葉であった。


「馬鹿にするのも大概にしてくれる。私はね。本気で、アレを倒すと心に決めてるの。」


私の力量を浅く見積もられたことに、怒りが湧き、突っかかるようにして答える。


すれば、男がいつになく、鋭い口調で咎める。


「なあ。本気で倒せると、そう思っているのか?」


ドクンと心臓が跳ね上がる。

核心を突かれたかのよう。

怪物を制覇できると信じて止まないけれど、自分のどこかでは、無理だと諦観しているのではないか。将又、討伐できると豪語するのは、単なる虚栄ではないか。


男の凍てついた目が、私の動揺を見破らないか、不安でならなかった。


だが、その憂慮を丸め込んで、こう答える。


「ええ。勿論じゃない。」


その返答に、男の目が幽かに眇めるのが、見て取れた。

だが、男は、私の虚心に気付いたわけでもなく、ただ呆れたと言わんばかりに盛大な溜息をつく。


「あのなあ。アレは、俺達には、どうしようもない存在なんだ。お前では、歯が立たん。」


侮辱の言葉に、憤りを覚え、反論しようとしたが、男が手で制してきた。


「だが、勘違いするな。それは、俺にもあては当てはまる話だ。ようは、お前が弱いんだと言いたいんじゃない。アレが強すぎるって話だ。」


だから、気に病むことも、落ち込む必要は無いと。

だから、無暗矢鱈と命を賭すようなことは、止めろと男は忠告する。


「それにだ。アレは、今、空にご執心だ。再び、村を敵対するようなことはないだろう。珍しくもだな、刺激を与えず、あの状態のまま放置するのが一番最善なんだ。」


男は、淡々と現状の最適解を述べていく。


「分かってくれたか。」


確認を取るように、男は質問を投げかける。


男は、私を馬鹿にしたいわけではなく、戒めたいのだろう。


もっとマシな言葉選びがあるだろうと思うものの、私を心配しての言動なのだろう。


それに、今現状、あの化物が無害だと、完全には、信じ難いものの、全く持って嘘という話ではないだろう。


蹂躙を辞めてまで、空を固執する。

一理ある話だ。


きっと、無知な私が無茶をするよりも、この男に一任した方が最善なのだろう。


だが、たとえそうだとしても、素直に、首肯出来なかった。


「でも、それでは、駄目なのよ。どの道、アレを倒さない限り未来はないわ。」


もし、ここで敵を討つのを諦めたとしよう。

確かにそれで、これ以上の犠牲は防げるかもしれない。


だが、しかし、それは、安易に、化物の下につくことを認めたことになる。


あの化物は、いつ、人類を標的になるか分からない。

そんな、恐怖を抱きながら、ここの人々は、生活を営む羽目となる。


それでは、一向に安泰な生活を望めない。


故に、怪物の討伐は、どうであろうと避けて通れぬ道。

いずれ、障壁となるのであれば、速やかに処置を下すほうが良策なのではないか。


その思いの丈をぶつける。


「どうして、お前は、そこまでこの村に肩を持つのか、、、。」


呆れ果てた口調で男が吐き捨てる。

そして、かったるそうに口を開く。


「あのな。もし仮に、お前に、アレに見合う力があったならば、腕試しだか、なんだかと皆して、放って置いても良かったのだ。だが、誰かの為にその身を擲つのだろう?それは、看過できん。

それに、如何せん、お前は力に恵まれていない上に、知識も無い。それでは、どれ程死力を尽くそうと、虚しい結末に終わるだけだぞ。」


相変わらず、口調は逆撫でるものだが、諭そうとしているのだろう。

だが、そうだとしても、怒りを抑えられるものでは無い。


「何?何が言いたいわけ?もしかして、私が弱い存在だと見くびってるわけ?」


「違う。何度も言わせるな。お前が弱いわけではない。この世には、どう足掻こうと、太刀打ちできない存在がいるって話だ。」


「そんなの、実際にやってみなきゃ分からないじゃない。」


そう告げると、男は、驚きをみせた。

だが、すぐさま元の冷淡さを取り戻し、話始める。


「お前は何一つ、アレの脅威を分かっちゃいない。アレはだな、気候そのものを変えうるんだぞ。いってしまえば、自然そのものを相手にするようなもんだ。敵う筈がない。」


こうして、諦めるように誘導している可能性も捨てきれないが、男の言葉は、はったりだとは思えなかった。

無理な解釈であるが、アレは、天気を巡って雨と争奪戦をしているとも見做せなくもない。


ーーーでは、アレはいったい何なのか?


この男と話すたびに、謎は深まるばかりである。


「何も、微弱な自分を恥じろと言っている訳ではない。ただ、受け入れて、諦めろと、そう言っているだけだ。」


その言葉だけは、聞き捨てならなかった。

胸の内に、またも、沸々と怒りが込み上げる。


「いいか。難しい話ではない。この世にはな、覆くつがえせない理不尽が多々存在する。身近な例であれば、「死」だとかな。」


男は、事も無げに酷く淡々と告げていく。


「そんなもの妥協して、受け入れて、諦める他ないだろ?

それと何ら変わらない。この際、諦めるのが賢明だ。」


私は、この男の口調を、話を、耳にすると、無性に苛立ちを覚える。

どうしてこう、この男は悲観的にしか物事を捉えられないのか。

聴いてて、耳が痛くなる。


「もしかして、この場から去ることを恥だと、そう気に病んでいるのか?その必要は全くないぞ。俺に、そんなことを言いふらす悪趣味はないし、まずまず、誰がその行為を咎めると言うのだ。だから、お前は、アレを見なかったことにして、全てを水に流してしまえばいい。」


「簡単だろ。」


男は、挑発的に加えた。


その言葉が限界だった。

あの男からすれば、優しく諭した思いやりと誤解しているかもしれないが、私からすれば、紛れもない侮蔑である。


強大な敵を目の前に、引けと命じられるなど、なんたる侮辱か。

そんなことも分からない、この男にはホトホト呆れたものである。


「私が、それで、「ハイハイ、ワカリマシタ。」とでも言うと思ったわけ?甘く見られたわね。そんなわけないじゃない。そんな、分かり切ったこと、試さないでくれる?」


まだまだ、怒りが収まり様がなく、留めどなく押し出されていく。


「それにね。どうして、そんなに悲観的なのよ?負ける前提で話す、アンタのそういう所が、ホンッッット、気に食わない。」


これまで堪えた思いの丈を、ありったけぶつけて尚も続ける。



恥ずかしいと思わないわけ?


「それにね。これと、死は別物じゃない。死は、確かに、どうやっても免れないものって、無意識下にまでしみついて諦めてしまっているわ。でもね。あの脅威から目を背けると言うのは、意識下において、諦めるのでしょう?自分で、決断を下して、身を引くのでしょう?なら、それは、全く別のお話じゃない。」


「はぐらかさないでくれないかしら。」と、きっと鋭く睨む。


「おいおい、待て待て。どうしたら、そう拗れる。

あのだな。どうして、こう気に食わんのか全く訳が分からんが、意識の有無など、微々たる差でしかないだろ。」


トホホと男は、呆れ尽くす。

やはり、この男とは、会話が通じない。

意を決し、この男の腐った根性を叩きなおすように告げる。


「自分から諦めるってのは、凄く後悔するものなのよ。私はね。そういう後悔は、もうしないって決めてるの。」


そう誇り高く告げ、化物目掛けて、加速する。


「オイ、、、この馬鹿野郎。」


男は、突如の千優の動きに反応できずにいたが、加速においては、誰とて負けない足がある。即座に、追いついて、特攻する千優の腕を掴み、無理に引き留めた。


「離して。」


「わかった。わかった。わかったから。もう、勘弁してくれ。いや、ホント。」


心からの拒絶を示したのにも、拘わらず、男は、相変わらずの呆れ切った態度。そんな気の抜けた返事にもかかわらず、掴まれた腕を解けない。


「もう、頼むから、いったん落ち着いてくれ。ようはだな、アレを倒さずして、この場を収める策があるんだよ。」


我ながら、手を出さなかったのは、良く頑張ったと思う。

だから、怒りを声で発散した。


「だったら、先に言いなさいよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

男は、そうして淡々と、事の概要を語ってくれた。


私が分かった範囲で要約すると、この豪雨は、『厄』ってのが、どうたらこうたら作用して、生み出されたものらしい。

だから、それを止めるべく、厄を患った者を始末するらしい。

だが、その人を突き止めるのに、この村の人々、一人ずつ調べていては、話にならない。

そこで、雨11を懇願した者が聞き出して、時間短縮を狙うらしい。

そして、いつの間にやら、その聞き出す責務を任された。


私には、どうも専門的で部分的な理解しかできず、にわかに信じがたい話だった。


だが、そんなことは、どうでもいい。


本当に、気に食わなかった部分は別にあった。

恐らく、男は、口調に出すまいと努力していたのだろう。


だが、それでも、渋々だとか、面倒という感情が滲み出ていた。


そして、聞いていた途中でふと疑念が過ったのだ。


あの男は、懇切丁寧に私に説明しているのではなく、なにか裏の狙いがあるのではないかと。


そう疑うと、不思議とそうとしか聞こえなくなってくる。


だが、よくよく考えれば、見過ごせない、おかしな点が一つ。


もともと別策があったのなら、始めから共有しておけばよかったのに、という疑念だ。


始めから、素直に伝えてもらえれば、ここまでの、いざこざに、ならなかった筈なのに。どうして、そうしなかったのか?


まさか、止めに入った際に、ピンと閃いたのか?

いや、それは、恐らくない。

そんな即興であれば、こんなにも説明できるはずがない。


それでは、どうしても開示したくなかった情報だったのか?

だが、結局、今のように話してくれているのだ。


本当な企業秘密であれば、命を賭してまで秘めるであろうが、一度バラしている以上、その線は薄い。


となれば、、、私に釘を打つため?


私は、あの時、男の指示を聞かずに、飛び出した。

その突如、あれ程までに渋っていた情報を、人格が変わったかの如く話始めたのだ。

あまりに不自然である。


じゃあ、このように情報を開示したのは、私がアレに突撃しようとしたせいなのではないか?

何をしでかすか分からない私を、留める為ではないか?


悔しいが、これなら素直に頷ける。


恐らく、この男は、策を明かさずに、私を丸め込もうという魂胆だったのだろう。


だけれど、私が暴走しだしたから、渋々、仕方なく、不本意に、打ち明けてくれたのだろう。


そう思うと、腹が煮えくり返ってしょうがない。


だが、私は聞き遂げた。

本当に、よく耐えたと思う。


兎に角、アレに介入しなければ、男の癪に障らないのだろう。


拳を握りしめるに留め、何故か課された責務を果たしに、避難所の方に足を進めた


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