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神の脅威

貫いた感触が、紛れもない手ごたえが、確かに右手に感じた。


ドサリ


黒い閃光が(ほとばし)り、巨大な砂塊が瓦解する。


バランスを損ねた神は、なし崩れに(くずお)れる。

自分でいうのもなんだが、これ以上にない完璧な一打であった。


空を駆けた状態から地に降りる。

急激に奮起させた筋肉が休息を求めて弛緩する。

一息ついて、転倒した神を見据えた。


そこには、俺の何十倍、何百倍という規模の砂塊が散乱していた。

原型を留めていない、その状況に、ある種の達成感を味わった。


されど、喜びを感じられるのは、束の間。

散逸された筈の塊の数々が、まるで意思をもつかのように、集い合って復元されていく。

始め、無作為に合体したと思われたおびただしい数の塊が、見事な秩序を保ちはじめ、気付けば元の姿を得ていた。


ーーー治癒再生。


それは、即ち、神が司る異能。つまり、膨大なマナを所有する神だからこそ実現可能な能力だ。

その効果は、言わずもがな、負傷部位を完治することである。

こと、神においては、回復速度が凄まじい。

俺の渾身の一撃でさえ、ものの数秒経過してしまえば、この有様である。

まるで、何事も無かったかのように、きれいさっぱりと、完全回復を果たしている。


この甚だしい回復量が、戦闘において、厄介極まりない。


余談になるが、人類が手を尽くして神に挑んだとて、気付いて貰えないのは、まさしくこの異能の所為である。

より詳しく言えば、傷を負わすと同時に治ってしまうからである。

それでは、神に気づいてもらえない。

ようは、並みの人の手が下す制裁など、神からすれば、掠り傷にすらならないわけだ。

即ち、脅威に値せず、戦闘の相手とすら認識されない。

故に、人は神に及ばない、、、。


そんな思考に耽っていると、神が状態を起こしたように()()()

復活した神が吹き飛んだ砂塵で姿を纏ったのだ。

正確な様子を拝めないが、挙動からして、そう()()()


何故だか、睨まれた気がした。


「ーーーーーーーーーーーーー。」


咆哮(ほうこう)


今回ばかりは、明後日の方向に向けられたものではない。

紛うことなき殺意。

俺という異物の存在に対し、敵対を示す、意思表示以外の何物でもなかった。


されど、それは裏を返せば、俺という、ちっぽけな存在を神が認識したという意味でもある。

故に、俺は今、ようやっと、()()()()()()()()()()()()


残響が未だにビリビリと空気を揺すり、気の狂いそうな張り詰めた空気が漂う。

息すらもままならない。

並々ならぬ殺意を浴びる中で、突如、神が振りかぶった。


脳が理解を示すより、尚早く体が、その射程の外へ向かう。


刹那。

棍棒に似たビルに劣らぬ巨大な砂岩の塊が、力の限りに振り下ろされた。


ドゴン


途轍(とてつ)もない轟音と、地震と判別つかない揺れが砂漠を襲う。

力の限りに扱われたソレは、地面と衝撃と同時に散り弾け、爆散した。

吹き飛んだ、砂岩の欠片は、容赦なく残存する家屋を倒壊へと誘った。


ふう。


すんでの所で躱しからいいものの、もし潰されていたかと思うと、身の毛がよだつ思いである。

他にも、建築物があるとなると戦場に不向きかと思われたが、遮蔽物とならねば、今や俺も貫かれていたことだろう。

本当に恐ろしい。


住居が、否応なしに全壊する中で、不幸中の幸いというべきか、犠牲者という犠牲者は見られない。

村人達は、一足先に逃げ切れたらしい、、、。


知識として神には、力及ばぬものと、理解しているものの、いざ格の違いを見せつけられるとなると、些か足が竦んでしまう。


振え気味な足を手で押さえ込んだ。

そうでもしない限り、奴の雰囲気に飲み込まれそうであった。


その弱気が見抜かれたのか、将又、態度として体に現れていたのか、隙をつくかのように、その巨体を揺すり、腕のような巨大な二本の柱を振り下ろす。


すれば、砂漠そのものに意思をもったかのように、一面が()()

その反動で、絶えず隆起と沈降が繰り返され、砂の波が形成。

その波が、神を中心として、波紋状に外へ外へと押し寄せていく。


初動の波は、飛び跳ねて躱せるほどの可愛いものであったが、すぐさま背丈を抜かす程のものとなり、その脅威は、津波のソレと変わりない。


常識外れの現象に、驚きを隠しきれずにいた。

混乱のあまり、対抗する手段を見いだせず、空を駆って波の届かぬ宙でやり過ごした。


そこから俯瞰(ふかん)すると、砂漠自身が躍動しているようにも見える。

倒壊した家屋の数々が、砂のもずくと、なりて漂う。

その光景は、地獄絵図としか言いようがない。


砂の洗礼そのものの、桁違いなその攻撃は、不用意に近づいたものから、砂の餌食となるのは、誰であろうと見るだけで分かる。

神の特性の一つである、排除という面からすれば、何よりも秀でて見えた。


弛まぬ鍛錬を積んだとは言え、当然、何時間もの間、滑空できるわけではない。


いづれ、力尽きて地に落ちる。

実のところは、あの奇襲に、ごっそりと体力をもっていかれたのだ。

今にも地に足を着けたいところである。


底切れしそうな体力を振り絞り、波の範囲外へと目指す。


着地地点を眺めてみれば、そこら周辺には、瓦礫と化した数々の家が波に運ばれて集積されていた。

その中から、足場のマシな位置を探り、そこに舞い降りる。

地に足を下ろした状態で、一息つき、右手を神に差し向けた。


ーーー閃光


黒いソレは、幾度となく迫りくる波を、風穴を穿いて猛進し、神の元まで出でた。

そして、見事なまでに、着弾した。


、、、されど、照射した筈の箇所に傷が見られない。


結局、手負わせることの出来ず、まごついていると、神の拝見を拒むように、次なる波が風穴を塞ぐ。


・・・遠いか、、、


神に傷一つ負わせられなかったのは、再生に勝る傷を与えられなかったのだろう。

着弾は、確認できたのだ。だとすれば、()()()()()()()()()()()、そう見なすのが自然であろう。


俺の異能は、消滅。

この手に宿る『黒光』を放つことで発動し、照射されたならば、如何なものであろうとも消滅に至る。

その過程は、腐敗及び、風化の作用を促進し、原子レベルの崩壊を招いて粉砕、最終的には無に帰すもの。

それには、例外は存在せず、ありとあらゆる物体に作用する。

たとえ、それが、生という動きの伴うものであろうとも変わらない。

手始めに死へ誘い、骸に成り果ててしまえば、物体と同じ結末に帰結する。


更に、現象といった具体的なものでもなく作用する。

例えばであるが、他の異能と正面衝突し合った場合、俺の異能の効力で相手の異能を掻き消す。

故に、人災による砂岩の攻撃も悉く、砂塵へと 散り散りに往なせたわけである。


結局、万物であれば、如何なものさへ消滅させられる。

ようは、そういう、異次元な光である。


しかし、異能という強大な力には、必定なまでに、欠点というものがつきものである。

当然、この『黒光』というものも例外などではない。


如何なものさえ掻き消す時点で生活面において不都合極まりないものだ。

余談になるが、普段は、特殊素材を使用した手袋を嵌め、黒光が漏れないようにして生活している。

それで、ある程度、誤射を防げているわけだが、手袋生活は至る所でままならないものである。


また、戦闘面においても短所が存在する。


端的に告げてしまえば、範囲という限度が設定されている。

要は、距離減衰だ。

初速、性質に違いあれど、既存の銃弾とそう違いない。


まあ、仮に限度が無ければ、座したまま世界征服も夢ではない。

そういう意味では、制限が課されているのも頷ける。


厳密な話に戻そう。

奇襲をかけた初撃は、紙一枚の隔たりも無く、ゼロ距離で照射できたのに対し、先ほどの射撃は、幾分距離がある。

普通の万物であれば消滅の呪いは発動した筈だが、如何せん敵は、マナという防弾チョッキを纏った神である。


つまり、この距離では、俺の異能ですら敵わない。


直接、接触できる距離、、、とは言わないまでも、手を伸ばせば届く程の至近距離にまで、接近せねば、話にならないわけである。


されど、砂波は暴れ狂う荒波のソレ。

しかも、水という流体ではなく、砂粒という一種の固体の集合であるが為に、尚重い。


身を盾にした突進は、あまりに無謀。

されど、距離を詰めねば話にならない。


ーーーなれば、波が押し寄せる度に照射して、道をこじ開けるまでのこと。


脚に力を込めて、勢い良く地を蹴った。

既に、背丈の数倍を超えた波は、高潮と相違ない。

あろうことか、眼前を埋める勢いの波と、しきりに降りしきる雨が相まって、視界の悪さといったらありゃしない。


されど、全ての波を超えた先にしか、神と立ち会えないのだ。

立ち止まれる理由はない。


尋常じゃなく荒れる脅威な波に対し、果敢無く挑む。


波に呑まれぬよう、黒光で波を穿つ。

こじ開けた穴に、まるで糸を通すように、体をすり抜けて、神の元へと辿る。


ーーーあと、ひと波。


迫りくる最後の波を潜り抜け、握り拳をつくっては、右腕を振りかぶる。


衝突すると同時、その腕を振り下ろした。


ーーー閃光


重い一撃が繰り出され、衝突した箇所を抉る。


すれば、被射部からボロボロと崩壊が始まり砂が瓦解し、又も支えを失った神は、正面からグシャリと頽れた。


ドカンと衝撃音が鳴り響き、辺り一面に砂塵が舞う。

されど、一撃目程の手ごたえはない。


装甲を穿てども、肝心の内部にまで刃が届いていないと言ったところか。

攻撃が当たったとはいえ、()()


予見通り、命がけで粉砕した功績も虚しく、欠けた砂岩の破片が、ひとりでに集積し始め、いつのまにやら、元の姿を取り戻していた。


・・・くっ


これ以上の打撃は見込めない。

それに長期な接近は危険を伴う。


撤退すべきと判断し、反撃を繰り出される前に踵を返す。

充分な距離である、砂波の範囲外にまで出て体制を整えなおした。


・・・どうしたものか。


正直、途方に暮れていた。


神を討伐しようだなどと、巫山戯(ふざけ)た幻想を抱いたわけではない。

少なくとも時間を稼げば、何かしら糸口を見いだせるかもしれないと、淡い希望を抱いただけだ。

されど、それすら叶いそうにない。


この体が果てるのは時間の問題だ。

この村が朽ちるのは時間の問題だ。


万策尽きたも同然。


・・・やはり、神になど挑むべきではないか、、、


歯噛みした。

強く、強く、、、。


すれば、次の瞬間。


その心境に、更に追い打ちをかけるように、雨の度合いが激しくなる。

その勢いは、スコールのソレ。

衣服に付着した泥を洗浄する程の激しさである。

気づけば、渇きに飢えるはずの砂漠が、水でヒタヒタになっていた。


これ程までの異常な雨が、文字通り俺等の戦闘に水を差す。


足場は、緩みに緩み、地を蹴るのもままならない。

これでは、理想とする速度にまで加速できないであろう。

自分の得意とする機動力が封じられた以上、神に歯向かえる筈もない。


ただ、一つ、予想外を上げるとすれば、この雨には、神ですら気をそらされるものらしい。

あれ程、砂漠を荒らした砂波が、消え失せ、雨を心底憎むように、空に向けて咆哮を轟かす。


あまりに不可解なその仕草から、既に神が俺になど()()()()()事を悟る。


すえば神は、正面に存在する数多な砂と泥を、一粒残さぬ勢いで吸い込んで、練り上げていく。

恐らく、強度の上がったソレは、棒状に形どられていき、まるでスペースシャトルかのように、次々と装填されていく。


その規模は、一つ取ったとしても、人災の針や氷柱の比ではない。

たった一つだとしても、この世の終焉を悟る脅威に満ちているにも関わらず、それが無数に存在する。


攻撃への準備を終えたのだろう。

神は、虚空に睨みを利かせ、咆哮した。


刹那。

装填された数々の棒状のソレが空高く打ち上げられ、雨の源泉、雲へと向けて加速する。

そして、対流圏を到達するや否や、厚い暗雲を次々に、突き破っていく。


穿たれた箇所から、太陽が顔を覗かせ、光を通す。

されど、雲も濃いようで、即座に覆い隠す。


その光景は、まるで、宙に舞う不可視な敵と空の支配権をかけて、戦闘しているよう。

あまりに、異様な光景で、言葉を失った。


程なくして、我に返り、自分の為しえるべきことを思案する。

すれば、俺は、神を見張っている場合ではない。


ほんと、不幸中の幸いと言うべきか、何というべきか。

神は、空にしか興味がないらしい。


よって、俺への敵対を解かれた。

神に遠く及ばなかった悲観もあるが、安堵が数倍勝る。


神を放置するのは、あまりに危険な行為であるが、人類や村を標的にしていない分、被害は留まるだろう。

俺の憶測からすれば、あれらの暗雲がある限り、神はこの場に釘付けとなって動かぬであろう。


思いがけず自由を得られたわけだ。

手早く、次なる処置に移ろうと、決心したところであった。


視界の端に、酷く目立つ赤い髪の少女が映る。

その彼女の手先には、水弾が形成され、その切っ先には、神を捉えている。


ーーー冗談じゃない。


神は、今、空に、ご執心なのだ。

にも拘わらず、その攻撃が直撃すれば、再び人類が標的に成りかねん。


勿論、あんな少女に、神が見向きするほどの威力を内包するとは、思えないけれど、彼女の扱うソレは、正しく異能だろう。

であれば、神にとって、排除対象になりかねん。


結局、神の機嫌を損ねる恐れがある限り、止めねばならない。


地を鳴らすように蹴り出して、今にも放たれそうな水弾を防ぎに走った。

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