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2、身代わり令嬢

 入れ替えの話をされた後、エーヴァが妹リリスに見えるようにと、彼らは力を入れ始めた。

 

 引き続き寝泊まりする場所は物置ではあったが、まず食事の量が増えた。

 だが今までパンとスープだった彼女がフルコースを与えられても、全て食べられるはずがない。

 半分ほど残して食事を終えた彼女の皿を下げにきた侍女は、目を見開いた後「旦那様の指示だ」と言って完食するまで無理やり食べさせるようになった。

 

 それだけでなく週に一度侍女が訪れ、彼女の身体をマッサージをするようになる。

 その侍女も「臭い」だの「鶏ガラ」だの嫌味や悪口ばかり言いながら、時々痛みを感じるほどの強さで身体を押すため、見えないところではあるが幾つか痣になってしまった程だ。

 

 後は数日に一回だった身体の清めが毎日に変わったくらいか。

 物置に近い使用人用の扉の前に大きなワインの樽が置かれ、その中に水が入っている。

 エーヴァは毎日それに入るよう指示された。必要経費だと割り切っているのか石鹸も使うように指示され、以前よりも非常に綺麗な身体になっていた。


 それが一ヶ月ほど続いた頃。

 

 物置でぼうっとしていたエーヴァの元に執事が訪れ、公爵や義母義妹の元に連れて行かれた。

 入ってきた彼女を上から下まで舐めるように見る三人の視線に気持ち悪さを感じつつ、エーヴァは無言で立っている。

 最初に声を上げたのは公爵だった。



「ふむ、こいつに少しでも金をかけるのは嫌だったが……あの時よりは大分マシになったな。これなら入れ替わった、と言われても気づかないだろう」

「これなら上手く進みそうですわね、お父様。……義姉様、喜びなさい? 私が昔着ていたドレスを下げ渡してあげる」

「ああ、生贄なのだから宝石類はつけさせないわよ? お前になぞ勿体ないもの」


 

 ニタニタとした笑みでエーヴァを見下す三人。彼女は「仰せのままに」と頭を下げる。



「お前に言う必要もないと思ったが……今後の予定を伝えてやろう。登城は明日となった。そしてすぐに泉へ行き身を投げる事になるだろう」

「承知いたしました」

 


 そう言ってまた頭を下げれば、彼女が死に動じなかった事が不満だったのか、リリスはエーヴァの顔を覗きながらねっとりとした口調で話し出す。



「義姉様、貴女は明日生贄になって死ぬのよ? 怖くないの?」


 

 現実を見させてやろうと思ったのか、改めて彼女の行く末について言及したリリスだったが、諦め切っているエーヴァには届かない。

 それが面白くなかったのだろう、彼女は眉間に皺を寄せて怒り出した。



「もっと泣き喚くかと思ったのに、面白くないわね?! 命乞いしなさいよっ!」



 苛立ちからリリスは手を振り上げる。

 きっと頬を叩かれるだろうと静観したエーヴァは、そっと目を瞑った。だが、いつまで立っても衝撃が来ない。

 訝しげに思ったエーヴァが目を開けると、彼女の振り上げた手を掴んでいたのは公爵であった。


 リリスはきっと父に顔を向け、苛立ちをぶつける。



「お父様! 何故止めるのです?」

「顔に痕が残ったらどうするつもりだ? 叩かれた痕ができたら、リリスの悪評を全て押し付ける計画の成功率が下がるだろう?」

「確かに旦那様の言う通りね。私たちの可愛いリリスへの悪評は他家の嫉妬から流されたのでしょうが……その悪評が無くなるならこれ以上の幸運はないわ! それに大丈夫よ、リリス。顔以外なら問題ないでしょうから、後で折檻部屋に入れておけばいいわ。それにしても、叩かれる事に気づいても微動だにしないなんて……本当に気味の悪い悪魔の娘だわ」



 母の言葉に納得したリリスは掴まれていた手を下ろした後、仁王立ちをして鼻を鳴らす。

 


「ふふん、止めてくださったお父様に感謝することね。ああ、でもどうせ明日あんたは死ぬのよ。ショーを楽しみにしているわ」

「そうね。悪魔の娘と顔をあわせるのも後1日よ。清々とするわね。ああ、そこのお前、後ほど悪魔の娘を折檻部屋に連れてきなさい。最後の思い出作りよ」

「お母様! 私もよろしいですか?」



 義母とリリスは喋りながら執務室を退室する。弾むような声色に、彼女の死を本当に望んでいる事が見て取れた。一方執務室に残った公爵は未だにエーヴァを睨みつけている。

 義母と自分を引き裂いた悪魔の娘だと思っているのだろう。愛しい恋人と引き離されて、政略を結ばれた公爵は残念だと思う。

 だが、そんな事は社交界でも当たり前である。それでも愛を貫きたいのであれば、そもそも母と結婚しなければ良かったのだから。この男はきっと楽して望むものを手に入れたかったに違いない。


 過去は変えられない。現状に期待する事に疲れたエーヴァは、頭を下げた後執務室を退室していった。

中盤の公爵、夫人の会話を修正しました。

修正:「リリスの悪評を全て押し付ける計画の成功率が下がるだろう」

追加:「私たちの可愛いリリスへの悪評は他家の嫉妬から流されたのでしょうが……その悪評が無くなるならこれ以上の幸運はないわ!」

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