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14、エピローグ

 二人を見送ったあと、セファーは女神デューデのいる神界に訪れていた。

 彼女に会うのは、アダンの時以来だ。彼女は変わりなく、セファーを見て微笑んでいた。



「セファー、辛い役目を負わせましたね」

「あれくらい大丈夫。エーヴァちゃんは地上への恐怖心があったせいで、あのまま魔法陣に乗っていたら死んでいただろうし。まあ……ちょっと荒療治だったかもしれないけどね。」

「……そちらもそうですが、彼らへの説明の件もありがとうございます。人間好きの貴方のことです……胸を痛めていたのでは?」



 労るように見つめるデューデの視線に耐えられなかったのか、セファーはそっぽを向いた。

 その頬は少し赤くなり、一筋の涙が頬に伝う。



「うん。正直割り切ってはいるけど、その場面が来ると、胸が締め付けられるよね……。だけどこの行動も僕のためでしょう? 神から堕落して天使になってしまった僕を、神に戻そうと信仰心を集めてくれているデューデに報いたいし」

「……」

「それにデューデは地上に干渉できるけど、干渉すれば僕と同じように堕落する可能性もある。そうすると事前に神託で防ぐ事ができなくなるもんね……」



 セファーの言う通り、デューデは地上に干渉しようと思えば、干渉する事ができる。

 彼女ならあの装飾品の毒霧を消滅させる事もできただろう事をセファーは知っていた。だが、彼女はそうしなかった。


 デューデは水鏡に映っているエーヴァとアダンを見つめた。

 


「彼らが選んだ道です。私は軌道修正するつもりはありません。他の神が管理している国では、『神の顔も三度まで』なんて諺もあるみたいですが、私は二度までしか警告しない、それだけです。まあ、関わっていない民には理不尽に思えるかもしれませんが……。それに、今の世界は長く生きすぎました……女神への信仰心が薄れておりましたし。信仰心を利用して世界を救ったところで、それを上回る信仰心は得られないのですから……潮時だったのでしょう」

「……」

「セファーは私を全知全能の女神と言いますが、私はそう思いません。神として……欠陥品だと思っています」



 彼女の耳にかけられていた長い髪がこぼれ落ちる。無表情ではあるが、セファーから見れば少し悲しげに見えた。


 

「それはなぜ?」

「本当は全てを平等に扱い、贔屓などするべきではないのです。手放したらその行く末を見守る、それが私の仕事。ですが……貴方を神に戻す、と決めて地上へと介入する私は……全てを平等に扱っていない時点で神として失格だと思います」

「それだったらそもそもの話、僕は神として失格さ。自らの力を使って、人類を助けようとして堕落したのだから」

「セファー……」



 彼が天使になったのは、数万年以上も前に人類が滅びるのを防いだためだった。その時に大量に力を使いすぎたのだ。

 セファーは己が堕落した事よりも、人類が亡くなった事を悲しみ、生き延びた事を喜んだ。

 そんな彼を見て、デューデはこんな事が起こらないように……とある泉の奥底へ街を作る。最悪地上の人類が滅びたとしても、ここから送ればいいと。


 本当は人類が滅びない事が一番だ。

 だが、全知全能でない人間が滅びの道を進むのは仕方ないといえよう。

 セファーも数万年の時を経て、そこは割り切る事ができるようになっていた。

 


「最初は何故貴方が人類を救おうとしたのか……分かりませんでした。ですが、今なら分かります。私が貴方を助けようとしているように、貴方は人類を助けたかった……慈しんでいたのですね」



 セファーは彼女の顔を見て少し驚いた。彼女も微笑んでいたからだ。

 彼女の微笑みを見たセファーは更に微笑んだ。



「……デューデ、僕を助けようとしてくれてありがとう……」

「……セファーこそ、ありがとうございます」

「……そろそろ時間か、それじゃあまた会おうね。……次は二千年後くらいかな?」

「ええ、それくらいかもしれません……それまでお元気で」



 眷属といえども、天使は神の領域に長くいる事ができない。

 セファーの身体は粒子となって、湖底の街の書庫へと戻っていく。


 最後の粒子が消えてなくなると、デューデは顔を水盆へと戻す。

 神界にあるこの水盆は女神が願えばあらゆる場所を覗き見る事が出来る。現在だけではなく、未来を覗くこともできるが、未来を覗くには信仰心を使う必要があるため、普段未来視をする時は、人類滅亡の未来だけを確認していた。


 地上では偽の記憶を植え付けられたエーヴァとアダンたちが毒霧で滅亡した王国の跡地に辿り着いている。

 二人の仲睦まじい様子に微笑ましくも、胸が少し痛んだデューデだったが、気を取り直して未来視のため準備に取り掛かった。

 


 後ろを振り向けば水晶玉のような透明な丸い玉の中には、キラキラと輝く液体のようなものが入っていた。

 この液体のように見えるものが、人間の信仰心なのだ。

 現在水晶玉には三分の二ほどの信仰心が溜まっている。これを満杯にするまで、あと数万年は掛かるかもしれない……。



 デューデは玉に手を乗せ、信仰心を少しだけ得る。すると彼女の手がきらきらと輝いた。

 そして彼女は水盆へと戻り願った。「人類が滅亡する未来を見せて」と。


 ――だが、水盆は何も映さない。


 このような事態が初めてだったデューデは、首を傾げる。

 手に取った信仰心の量からして、一万年先を把握できるくらいの力はあるはずだ。


 つまり一万年の間、人類は滅亡しないという事だ。



 デューデはハッと水鏡にある事を願う。


 鏡には見慣れた部屋が映っていた。そう、この水鏡のある部屋だ。

 そこにはこちらに背を向けて水鏡を見守っている二人の姿があったのだった。

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

 最初考えていた内容から少しかけ離れてしまいましたが(笑)完結まで投稿できた事嬉しく思います。

 次は長編を投稿したいと思いますが、投稿日は未定です。もう少し書き溜めてから投稿しますね。


 この作品にブックマーク、評価等頂けると嬉しく思います。

 これからもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] アダムとイブの人類創世記だったのですね。なるほど納得しました。最後の最後にしっかりざまあで癒されて、デューデ様も幸せになりそうでよかった。
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