表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/14

11、入水後の話③

 そんな世を嘆き悲しんだのは、女神の泉に建てられた教会で祈りを捧げていた教皇である。

 彼は女神像の前で祈りを捧げ、この世が泰平になるようにと願った。

 

 そして発症から二週間ほど経った頃、リリスの婚約者であった王子が亡くなったのである。


 嘆き悲しんだ国王と教皇が二人で女神像に向かい、王子の追悼を捧げていたところ――女神像から声が降りてきたのである。



『愛しき我が子たちよ』

「……女神デューデ様!」



 最初に気がついたのは教皇だった。祈りが通じたのだと気づいた彼は、歓喜の声を上げる。

 教皇の喜ぶ姿を尻目に、国王は姿勢を変えないまま祈るように声をかけた。



「デューデ様、ご無礼をお赦し下さいませ……私は当代の国王でございます。今、我が国では原因不明の病が流行しており、我が息子までもが亡くなりました。このままでは人類が死に絶えるのも時間の問題でございます。ですから、我々人間にどうか慈悲を戴けないでしょうか……」



 隣で苦しそうに話す国王を見て、教皇もはやる気持ちを抑えてから再度祈りの姿勢を執る。

 

 

「デューデ様、我らに慈悲をお与えくださいませ――」

『……それは無理だ』

「「何故!」」

 

 

 二人はバッと顔を上げて女神像を見つめた。

 その石像の表情が物悲しく見えるのは気のせいではないだろう、と教皇は思う。



『其方らは我が神託に逆らった。神託に背いた際は大厄災が発生する、という話はお前たちなら知っていただろう? この病は我が神託を聞き入れなかったお前たちの結果だ』

「ですが、巫女として指名されたリリス嬢は既に湖へと入水しておりますが……」 



 何を言っているのか理解できない教皇は、既に巫女を入水させたと主張する。

 隣にいた国王も首が取れるのではないか、という程上下にぶんぶんと首を振っている。



『我はお前たちに警告もしている。それに気づかなかったお前たちの問題だ。少しでも健やかに過ごせるよう我は祈っている』



 そう告げた後、声は聞こえなくなってしまう。

 未だに祈る姿勢のまま呆然としてた二人だったが、ハッと気づいた教皇が声を荒げた。


 

「警告……? も、もしかして……リリス嬢が岩に乗った際に出てきた光に意味が?! 誰か、あの本を持ってこい!」

「は……はいいいい!」

 

 

 鬼のような剣幕で怒声を飛ばす教皇に怯えた司教は、大急ぎで奥の図書室に置かれていたある一冊の本を抱えていた。

 司祭が教皇に渡すと、鬼のような形相のまま彼は床に本を置く。そして目にも留まらぬ速さで頁をめくり始め、そしてある頁に辿り着くと、彼はそこに書かれている文字を丹念に読み始めた。

 それを見ている国王は、彼の形相の恐ろしさから立ち上がり一歩後ろに後ずさる。


 静寂な教会の中で、荒い息遣いだけが聞こえる。

 そこまで長くない時間が経った頃、教皇は音を立てて本を床へ置いた。

 その姿は涙しているようにも見える。

 


「教皇殿、何が判ったのだ……?」



 不安げに尋ねる国王に、教皇は言った。

 


「我らは選択を間違えたのだ。巫女として入水した彼女は、巫女に指名された女性ではない」



 俯きながら話す教皇の言葉に、彼は驚く。



「なんだって?! 巫女はリリス嬢ではないというなら、誰なのだ? そして本当のリリス嬢は……まさか……」

 

 

 青褪めた顔で国王は膝をつく。

 


「まさか、婚約者のエーヴァ嬢……か……?」



 ――彼らは真実に気づくも、既に手遅れであった。




 国王と教皇が床に手をつき、エーヴァへと謝罪しながら泣いている姿を彼女は黙って見ていた。

 そのうち彼らは護衛や司祭の手を借りて、教会を出ていく。彼らが出ていくまで彼女は無表情で彼らの背中を見つめていた。


 教会の扉が閉まり、礼拝堂に誰も居なくなった頃、ふと後ろに誰かが現れたような気がして振り返る。

 そこに居たのは、微笑みを湛えているセファーだった。



「セファーさん、これは貴方が見せてくれたのですか?」

「うん。そうだよぉ。ここは夢の中だねぇ。勝手に入り込んじゃってごめんよ〜。あ、あとさっきはキツく言ってごめんねぇ〜」

 


 以前あった冷たい雰囲気はどこへやら。いつもの彼に戻っている。

 

 

「……いいえ……現実を見せてくださったお陰で理解しました。私は自分を癒すのではなく……嫌な記憶を押し込めていただけだったんですよね。あのまま地上に行っても、私は同じ事を繰り返すだけだった気がします。ありがとうございました」



 セファーは少し驚いた顔をして……首を振った。



「僕は少し手伝っただけさ〜。エーヴァちゃんがきちんと自分の心に向き合えたから、僕もこれを見せられたんだよねぇ。あそこで気が付かなければ、アダンとも離れ離れだったよ。気付いてくれて良かった〜」



 満面の笑みで答える彼に、エーヴァも微笑みを返す。

 心にあった重しが、いくつか無くなったようなそんな感覚だ。

 セファーもその事に気付いたらしい。笑いながら言った。

 


 「あ、そうそう。続きもあるけど、どうする〜?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ