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10、入水後の話②

 恐る恐る目を開けると、もう既に光は消えていた。


 次に立っていたのは見覚えのある廊下だった。

 床には赤い絨毯が敷かれ、白を基調とした縦筋の入っている太い柱が何本も奥に向かって並んでいる。そして左側には庭があるのか薔薇が咲き乱れていた。


 そこまで見てエーヴァは思い出す。

 ここは王宮。女神の泉はこの廊下を歩いた最奥にあるのだ。


 キョロキョロと周囲を見回すと、見覚えのある令嬢――リリスが右手の廊下から歩いてくる。

 彼女の左側には男性がおり、仲睦まじい様子でこちらに向かっている。多分隣にいるのは婚約者である王子だろうか。


 二人の後をトコトコと着いていくと、たどり着いたのは宝物庫だった。

 王子は懐から鍵を取り出し、侍従に扉を開けさせる。そして扉が開いた瞬間、リリスは驚きの声をあげる。

 


「えっ、この中から貸し出していただけるなんて恐れ多いわ……」

「僕は嬉しいよ。君が母を見習って王家で保管している物を身に付けたい、と言ってくれるなんて。母と父には了承を得ているから、普段使いの物と結婚式に使う物……ふたつ選んでいいよ」

「……そんな悪いわ。結婚式で貸していただけるのも申し訳ないのに……」

「両親もそんな謙虚な君だから貸したいと思うんだよ。ほら、遠慮しないで」

「……ありがとう、嬉しいわ!」



 満面の笑みで返すリリスに王子は照れ臭いのか、頭を掻いている。

 その様子を微笑ましい表情で見つめる護衛や従者たちに見守られ、二人は楽しそうに中へと入り、装飾品を探し始めた。

 

 

 そこからどれくらい経ったのだろうか。

 宝物庫の奥を探していたリリスが「あっ」と声をあげる。



「エーヴァ、どうしたんだい? 何か見つけた?」

「ええ……この装飾品は使用しても良いのでしょうか」



 それは宝石が嵌められた箱に収められていた装飾品だった。

 真ん中に手のひらの半分ほどの大きさの赤い宝石が埋め込まれ、周囲には親指の爪ほどの宝石がいくつも付けられている。それを包み込む石座や留め具は金で作られており、非常に派手な作りをしていた。


 それを見た瞬間、エーヴァはピンと来る。

 あの装飾品は毒霧を封印した宝石が使われているものであると。


 許可を得たリリスは宝箱を従者に預け、結婚式用の装飾品を探し始めた。

 その後すぐに結婚式用の装飾品も決めた二人は、そのままどこかへ歩いて行く。エーヴァもその後ろを着いていくのだった。



 二人が次に訪れたのは執務室のようだ。

 そこには泉にも訪れていた国王陛下と宰相がおり、書類の山と格闘しているところだった。

 最初に二人の訪問に気づいたのは、宰相だった。



「おや、殿下。どうしましたかな?」

「先程宝物庫で装飾品を探してまいりました」

「おお! エーヴァ嬢のか! して、良い物は見つかったか?」

 


 書類の山の横から顔を出し、国王陛下も宰相も手を止めて王子の話を聞いている。

 彼は装飾品を持っている従者を前に立たせると、その中身をローテーブルの上に置かせた。



「結婚式はダイヤモンドをふんだんにあしらったこちらを使用させてください」

「おお、これは儂の母が命じて作らせた装飾品ではないか! 王妃も婚約式でこの装飾品を使用しているはずだ。エーヴァ嬢が良ければ、使ってやってくれ」

「代々伝わる素敵な装飾品を身につけられるなんて、私も嬉しく思います!」

 


 この場にいる全員が嬉しそうに笑っている。

 その中で王子はもうひとつ――箱の中に入っている装飾品を二人に見せた。



「これは……?」

「儂も初めて見た装飾品だ」

「宝物庫の奥に眠っていたようです」



 国王陛下が不思議そうな顔で見ている時に、宰相は後ろにある鍵付きの棚から一冊の本を取り出す。

 その本は宝物庫の目録で、二人が持ってきた装飾品を調べ始めた。

 

 

「ふむう、こちらは箱のみの記載になっておりますね……記載のし忘れでしょうか?」

「その可能性もあるな。まあ、折角だ。エーヴァ嬢、身につけてみると良い」

「ありがとうございます!」



 そう言ってリリスは首飾りを身に付けた、その途端――。

 黒い霧のようなものがリリスの周りを覆い、周囲に拡散していくのが見える。


 これが毒霧だ、とピンと来たエーヴァだったが、彼女以外の人間はその霧に気づいていないようにみえた。



 それから毎日リリスは婚約者へと会いに王宮へ向かう。その時には許可された首飾りをつけて。

 周囲は仲睦まじい光景を微笑ましく見ていたが、結婚式の日程が近づいてきたある日、婚約者の王子が昏睡状態に陥ってしまう。


 大急ぎで宮廷医師を呼びつけるが、原因が判明しなかった。

 

 彼が倒れてから数日後、王子の手足には湿疹のようなものが現れ、次第に手の先から黒くなり始める。

 黒くなり始めた部分は血が通ってないのか、異常な冷たさだった。

 王子自身は痛がることもなく、ただただ眠っているかのように穏やかな表情を湛えていた。


 そして少しずつではあるが、王子と同じような症状の患者が現れ始めたのである。


 

 最初は流行病かと考えた国王陛下は名医と呼ばれる者たちに王子の病状を診させた。しかし彼らは一様に首を振るばかり。

 次第に王宮だけではなく、城下町に暮らす平民たちにもその症状が現れる。


 平民の中でも病弱だった者は進行が早く、足と手が黒くなったのち眠るように亡くなっていく。


 いつの間にか、奇病を治す事ができないとの噂が町を駆け巡り、人々は町の教会で祈りを捧げるようになった。

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