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天神地下街の妖精

 福岡天神に位置する探偵事務所に依頼が舞い込んだ。


「妖精を探してほしい」

「妖精、ですか」

「ちょいちょい天神地下街で目撃されている男がどうも妖精らしい。天神地下街に面した探偵事務所のあんたなら、すぐに見つけてくれるかと思ってね」

「まあ……うちなら簡単に見つけられますが」


 探偵はジャケットを整え、背筋を伸ばす。

 一般的な社会常識ではあるが、古来さまざまな土地から文化がごっちゃに流入してきた福岡には三大都市圏にはない奇怪不可思議な怪異がちょいちょい起こる。

 先月は人魚がドームのライブで激しいモッシュで鱗が剥がれたとSNSで大騒ぎし、ちょっとしたニュースにもなったのは記憶にも新しい。

 依頼人の男は妖精を探しているのだという。

 念の為、探偵は確認した。


「妖精って本物の妖精ですか?」

「本物といえば本物」

「ってのは?」

「いい年した大人の男が妖精の羽つけて天神地下街闊歩してたらそりゃ本物だろ」


 二人の間に流れる沈黙。

 探偵の男は、ごほんと咳払いした。


「……で、なんでその妖精の姿をした男を探しているんです」

「うち、天神地下街に通じた場所で飲食店を経営してるんだけど、この間集団感染起きちゃって」

「もしかしてその妖精が」

「陽性だったんじゃないかって」

「なんば言いよっとですか、あーた」

「あっ博多弁! 初めて聞いちゃった」

「博多弁じゃないです俺大橋生まれなんで」

「博多じゃないの? そこ」

「博多はいわばヴァチカン市国のようなもんですよ、福岡の大体はローマです」

「なるほど〜」


 男はお茶を飲んで、そして遠い目をして言った。


「いやあ俺、チェーン店の店長として福岡に赴任してまだ半年だけど、まだ怪異とか妖怪とか妖って見たことないんだよね」

「いつでも会えますよこの街なら、慌てなくても」

「ハッ……こないだ空港線でストゼロ飲んでたおじさんももしかして」

「それはただの酔っ払いですね。たまによくいます」

「あはは、治安どうなってんの」


 男は立ち上がり、前金をペイペイ払いして頭を下げた。


「ではこれで。とにかく探偵さんお願いします。妖精の男を俺は見たいんです。集団感染的な意味でも、怪異を見てみたい転勤者としても」

「かしこまりました。んじゃあその妖精の姿をした男、しっかり調べときますね」


 バタン。

 期待に満ちた顔をした依頼人は去っていった。

 探偵はジャケットを脱ぐ。

 そこからぴょこんと可愛らしい羽根があらわになった。


「あーびっくりした。俺のこと探してるのかと思った」


 そして探偵は電話をかけ、該当する天神地下街をうろつく妖精姿の男の身元調査に乗り出した。

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【連載開始しました!ご当地あやかし異類婚姻譚です!】
身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。―福岡天神異類婚姻譚

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