悪役令嬢は第一王子と相対する
よく考えたら大事な本題からかなりそれたところを兄妹で言い合っていたわけだが、それだけ兄と私は混乱していた。
兄は妹の不貞を疑い、私は身の潔白を説明するのに忙しい。
そんな大混乱の兄妹を、現実に連れ戻したのはダグラスがついた大きなため息だった。
「まったく、お嬢さまはびっくり箱のような人ですね」
何が飛び出してくるかわからない。
そう続けて呟いたように聞こえたのは気のせいだったのか。
「そろそろ隠し続けるのも難しくなってきたところだったので、いい頃合いなのかもしれません」
そう言うと、ダグラスはおもむろに自身のパンツの腰の部分に指を入れると少しずらした。
がっしりとした腰骨の上に、鷲を抱く盾に剣がクロスした痣が見える。
グラント国の王家の紋章だ。
わぁ。
男のくせになんで腰に色気があるのよ。
スタイル抜群だから?
腰からつながる筋肉の問題?
…くっ。
鍛えられた体って美しいのね。
何だか悔しいー。
「お探しの第一王子とは俺のことですよ」
色気のある腰は目の毒だわ。
突然のセクシーな腰の登場に動揺しまくりだった私の脳みそは、少ししてやっと戻ってきた。
だって、悲しいくらいに免疫がないのよー。
下手したら淑女と言われているこの世界のご令嬢よりも免疫がないからね。
「まさか我が家の護衛が第一王子だったとは…」
私は先に知っていたからショックは少ないけれど、兄はとにかく驚いている。
そりゃあそうだよね。
だって第一王子を使用人として使っていたということなんだから。
ダグラスを雇用したのは両親だから兄に責められるところはないのだが、立ち直るのには少し時間がかかりそうだ。
とりあえず王子とわかったダグラスを立たせたままというわけにもいかず、兄が椅子をすすめる。
さて。
第一王子を探そう!と意気込んですぐに本人が見つかったわけだけど、今後どうするのがいいのか。
「あー…ダグラス殿下…あなたはいったいなぜウェルズ家の護衛に?」
今まではその名を呼び捨てていたものの、ダグラスの本来の立場がわかったからには敬称無しにはできない。
そんな気持ちが透けて見える兄の呼びかけに、ダグラスは悪い笑顔を浮かべた。
「リアム殿、俺はまだ当面ウェルズ家の護衛を辞めるつもりはありませんので敬称は不要です。外で急にその呼び方をしたら怪しまれるでしょう?」
ダグラス…兄の動揺を楽しんでるわね。
しかもちゃっかり兄への呼びかけは『様』から『殿』に変わっているし、真面目な兄は戸惑うだろうなー。
「…お言葉に甘えさせていただきます」
兄の困惑が手に取るようにわかる。
「そうですね。これからのことを考えるとある程度の事情の開示は必要でしょう」
さっきまでの悪い笑顔を引っ込めて話し始めたダグラスは、思った以上に真剣な顔をしていた。
ダグラスルートを攻略しておらず、攻略本とか特集本を読んでいたとはいえそこの事情は私もまだ知らない。
そんなウェルズ家兄妹を相手に、ダグラスがゆっくりと話し始めた。
その内容は、何とも胸に痛い話だった。
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