悪役令嬢は今後の展望を描く
王妃の刑が執行された。
私はそれを事後報告で知ることになる。
その日ウェルズ家の応接間には今回の断罪に関わった人が集まっていた。
両親がいた頃は我が家に集合なんて無理だったけれど現在の当主は兄である。
ダグラスが王太子になった今、頻繁には共有街に行きづらくなってしまったことを考えればウェルズ家に集まれるようになったのはちょうど良かったのだろう。
しかしものの見事に男だらけだよね……。
今日集まったのはダグラスを筆頭に、情報ギルドマスターのデュラン、商会を任せている商会長のリック、共有街詰所所長のルドと所員のロキ、そして専属護衛のレオ、最後にウェルズ家の兄妹である兄と私だ。
集まったメンバーの中でリックだけがまだ全員と会っていなかった。
「今日は今後のことを相談したいと思って集まってもらった」
ダグラスが口火を切る。
「これから俺は王太子として表舞台に立つことが多くなる。今までのようには自分の足でいろいろな所へ出歩くのは難しくなるだろう」
これからダグラスの戦いの場は王宮内になる。
今回の王妃とライアンの断罪は本人たちのやったことがやったことだったので誰からも異論は出なかった。
しかし政治の面でも軍務の面でもすべての貴族がダグラスに好意的なわけではない。
特に王妃派でライアンを推していた家の者たちはどんな態度を取ってくるかわからなかった。
「しかし国を治めるには王宮内のことにばかり意識を向けていればいいというわけではない。そこでこれからも協力してもらうために集まってもらったというわけだ」
ウェルズ家は私がダグラスの婚約者になることもあってすでにダグラス派とみなされている。
今後私に近づいてくる令嬢はそこを踏まえて寄ってくるだろう。
だからこそ、派閥に関係なく情報を得るためにも協力者は必須だった。
「共有街でわかることに関しては今後も協力しよう」
まずはルドが協力を申し出てくれる。
「ついでに、ロキは俺との連絡係も兼ねてダグラスの影としてつけようと思うが、どうだ?」
「それは陛下もご存じで?」
「いや。隠し球はいくらあってもいいだろう?それに影は王家から付けられる者とは別に自分でスカウトすることも可能だったはずだ。なんせ王家の影は守ってもくれるが場合によっては情報漏洩もするからな」
つまり、陛下から付けられる影は場合によってはダグラスの情報を陛下に流すということか。
「たしかに。しかしロキは影としての特別な訓練は受けてないだろう?」
「そこはほれ、俺がみっちり仕込んでおいてやるよ」
ルドの言葉にロキの顔が若干引き攣ったように見える。
「まぁ俺も気心が知れたロキが付いてくれる分には安心できるが」
ダグラスさん。
さらっとそういうことを言っちゃうから私にたらしって言われるのよー。
現にロキは訓練に対する恐ろしさとダグラスに期待されている喜びでなんともいえない複雑な表情になっちゃってるじゃない。
「では私の方では何か必要な情報があったら優先的にその情報を収集する協力をしましょう」
「報酬は払う」
「それはありがたいですね」
情報ギルドのマスターにとって情報は商品だ。
報酬を払うのは当然のこと。
「それなら私の方では、王都内に広めたいことや何かしらの情報操作が必要なことがあればご協力しますわ」
デュランに続けて言った私の言葉に、ルドとロキがその顔に疑問を浮かべる。
「ご令嬢同士でのお茶会などでは情報を広められる範囲が限られると思うのだが?」
「ああ。まだ申し上げていませんでしたね。私は王都だよりを発行している会社を経営しておりますの」
「……は?」
ルドが驚きに目を見開いてこちらを見ている。
ロキにいたっては口がカパっと開いていた。
口にゴミが入るよーっと思ったけれど、もちろんそんなことは言いません。
「ですから、私が会社を所持しているということですわ。貴族の娘が持つ会社ともなるとなかなか信用していただけませんので、商会を設立して運営していますの。その商会長をリックに担っていただいていますわ」
令嬢が会社を経営するなど、この世界ではほぼ考えられない。
だからルドとロキの驚きも当たり前といえば当たり前だ。
「俺はエレナ嬢はダグラスの婚約者だからこの場に同席しているのだと思っていたが……それだけではなかったということか」
ルドの呟きに私はにこりと微笑むことで答えた。
「皆さまはリックにお会いするのは初めてですわね。表立っては彼が動きますので、これからよろしくお願いしますわ」
「リックです。普段は裏通りでカフェの店長をしていますが……最近は商会での仕事が増えてきましたのでそろそろ商会の仕事に専念しようと思っています」
私の紹介でリックが挨拶をする。
「リックは情報ギルドでも優秀なギルド員です。今後ギルドの仕事に就くのは難しいかもしれませんが、必要があれば動くことも可能かと」
デュランがリックの情報を付け加えた。
「なるほど。なかなかに優秀ということだろう」
そしてルドが感心したように言う。
これであらかたの意志の擦り合わせはできただろう。
「お兄さまはダグラスの側近となるのかしら?」
「そうだ。俺には幼少期から付けられる側近候補もいなかったし、今回の事情もほぼ知っていることからも適任だろう?」
「まぁ、ダグラス殿下にはこれから頑張っていただかなければならないし、殿下の活躍はエレナの安全に繋がるからな」
兄よ。
それはいわゆる妹バカなのでは?
そう思うものの、ゲーム内でのエレナや今までのことを思うと、兄と今こういった関係性が築けていることを嬉しく感じた。
「レオは今後も変わらずエレナの専属護衛を務めると聞いているが……まさか王宮に上がってからもついてくるつもりか?」
「当然です。エレナ様からはお許しをいただいておりますので、こればかりはダグラス殿下に何を言われようとも引き下がりません」
レオは真剣だ。
その表情からも絶対に引かない決意がうかがえる。
ちらりとダグラスの視線が流れてきたので私は頷いておいた。
「……わかった」
その一言にどんな感情が込められているのかはわからなかったけれど、ひとまずダグラスの許可は得られたと思っていいのだろう。
こうして、ウェルズ家に集まった男たちはお互いの意志の確認を済ませたのだった。
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