悪役令嬢は救出する
部屋を開けてすぐに目に飛び込んできたのは、三男を足蹴にするダグラスの姿だった。
部屋の隅に置かれたベッドの陰になるところに1人の少女がへたり込んでいる。
おそらく彼女がデュランの妹だろう。
部屋は見た感じゲストルームのようなところだった。
監禁場所にベッドがあるというのは穏やかでは無いが、妹の様子を見る限り最悪な事態は免れたようでそこだけは安心する。
「ダグラス、女王様のようよ」
私の一言に毒気が抜かれたのか、不意をつかれたような顔をした後、珍しくもダグラスは苦々しい表情を浮かべた。
「こんな程度の低い下僕はお断りです」
あ。
気になるのはそこなのね。
「調教してみる?」
「遠慮します」
即行断られたわ。
そんな軽口を叩きながら、私はベッドの陰にへたり込んでいた少女の前に膝をついた。
上から見下ろすと彼女が怯えるのではないかと思ったからだ。
「天使さま?」
私を見た彼女がつぶやく。
あらいやだ。
何この子可愛いわ。
連れて帰っちゃダメかしら?
「お嬢さま、妹さんをちゃんと送り届けてあげるまでが依頼ですからね」
ダグラス、人の思考を読まないように。
「残念ながら天使ではないわね。人間よ。あなたを助けに来たのだけど、私と一緒に来れるかしら」
「天使さまじゃないの?そう。私死んじゃって天使さまがお迎えに来たのかと思ったの」
ああ。
そう思うしかないくらいに追い詰められていたのね。
ダグラスの足元をチラリと見る。
「お嬢さま、この男はお嬢さまが足蹴にする価値すら無いゴミです」
だからダグラス、人の思考を読まないように。
「そうね。そんな男を踏んだら私の足が汚れてしまうわ。この後警備隊が入ってくると思うから引き渡してちょうだい。暴れられると面倒だから、縛っておいた方がいいかしら?」
「縛る必要もないくらいにはしておきましたが、この後運ぶにも縛っておいた方が便利ですね。念の為拘束しておきます」
ダグラス、縛る必要がないってどういうこと?
しかも便利って。
気にはなった。
気にはなったが、賢明にも私はそのことについて追及するのを止めた。
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