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悪役令嬢は覚悟を決める

「裁判長、二枚目に事件に使用された毒薬の製法が書かれた書類があります」


ダグラスの言葉に裁判長が書類をめくる。


「レンブラント家の、秘薬……?」

「そうです。側妃殿下に使われた毒はレンブラント家の秘薬と呼ばれるもの。グラント国の国内には流通しておりませんが、主に隣国に向けて薬品の一部としてレンブラント家より輸出されています」


秘薬の製法は王妃の私室に隠されていた証拠類の中に含まれていた。

ダグラスは遠回しに王妃の実家が側妃殿下の事件に関わっていると言っている。


「王妃殿下、このことについて何かありますか?」

「たしかにわたくしの実家は薬品を他国に輸出しております。その薬の存在も知っていますわ。しかしグラント国内への流通がまったく無いわけではありません。定期的に薬屋へ下ろすことをしていないだけで、国内でも手に入れることは可能でしょう」


嘘をつくときはある程度の真実を織り交ぜるとバレにくいという。

王妃の戦法はまさしくそれだ。


薬品を他国に輸出している。

薬の存在は把握していた。


ここまでは真実だろう。


しかし『国内でも手に入れることが可能』というのは嘘だ。

なぜなら危険性のある薬に関しては国への届け出が必要だから。

もし届け出をしていないにもかかわらず売買していたとしたら、それは違法取引となる。


「その薬は効能を考える限り毒薬の扱いになるでしょう。国への届け出が必須となりますが、調べた限りレンブラント家からそのような薬の届け出はありませんでした」

「まぁ!」


ダグラスの言葉に、王妃はいかにも驚いたかのような声を上げる。


「届け出に関してわたくしは関知しておりません。薬の取り扱いは実家の家業ですので。貴族の娘は家の仕事とは無縁ですし、王妃となって以降は他の家との平等性を欠いてはいけませんのでレンブラント家の仕事に関しては存じ上げませんわ」


レンブラント家の毒薬によって側妃殿下が毒殺されたともなれば大スキャンダルだ。

見守る貴族たちの頭の中で、レンブラント家はほとんど黒に近いグレーだと認識されただろう。

しかしそのことに王妃が関わっていたのかどうかは話が別になる。


先ほどの暴漢事件も記憶に新しい状況では、もしかすると王妃は何も知らずすべてはレンブラント家の当主が企てたことなのではないかと思う者も多くいるだろう。


蜥蜴のしっぽ切りのように切り捨てるつもりね。

私は自分の背後に意識を向ける。

背後にはレオが立っていた。


今回の告発において、公の場でニールセン家の罪まで問うのかどうかは意見が割れた。

ニールセン家の話に触れないのであれば王妃に対して人身売買の罪は問えないかもしれない。

しかしその罪まで問うのであればレオのことに触れないわけにはいかないだろう。


同様に、今後証拠として公表する各種書類の多くは王妃の私室から盗ってきた物だ。

出どころを問われた時にどうするのかは悩ましい問題だった。


そこを誤魔化してしまうと証拠への信頼性に欠ける。

しかし正直に答えればレオは王妃の私室からの窃盗という罪を被ることになるだろう。


レオは告発すればいいと言ったけれど、私はレオが罪を問われるのは我慢できなかった。


だって、元はといえば王妃が、レンブラント家が、そしてニールセン家が悪いのに。

なぜレオまでもが罪に問われなければならないのか。


『それでも、王妃の私室から窃盗をしたというのは事実ですから』


憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔をしたレオにそう言われて、私には返す言葉がなかった。

せめて公の場ではなく告発後に内々で済ませられないか聞いたけれど、それは難しいだろうと言われてしまった。


どうにかしてレオを救う方法を考えないといけない。

そんなことを思っていたら、またしても王妃がダグラスに反論し始めた。


「ところで、側妃殿下の事件の際に使用された毒薬がレンブラント家の秘薬、とのことでしたが、そもそも使われた薬がそれであったという証拠はあるのでしょうか?」


たしかに、今のダグラスは毒薬=レンブラント家の秘薬として話している。

そのまま話が通るかと思ったけれど、さすがに王妃は細かなところを突いてきた。


「側妃殿下が毒殺された時、陛下は王宮の薬師の総力を上げてその薬について調べました。その製法、使われた薬草、そして効能のすべてを。だがその時にはレンブラント家の秘薬まで辿り着くことができなかったと聞いています」


陛下が毒薬について調べていた。

そう聞いた時、初めて王妃の顔にはっきりとした動揺が走った。


そこにどんな思いがあったのだろう。

事件の真相が発覚する恐れか、それとも愛憎混じりの感情か。


少なくとも王妃が陛下に対して複雑な想いを抱いていることが感じられた。


「ダグラス殿下、王妃殿下がおっしゃるように、事件の毒薬がレンブラント家の秘薬であったとの証明をお願いします」

「承知しました」


ダグラスが覚悟を決めた顔をしている。

後ろに立つレオから緊張が伝わってきた。


すべては白日の下に。

暴くのは事件の真相だけでなくその痛みまでも。


ならば私は責任をもって見届けよう。


そして、レオが罪を償うのであれば諸共に。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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