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悪役令嬢は推察する

「でたらめだ!誰かが我が侯爵家に対して濡れ衣を着せているに違いない!」


先ほどまでの余裕をかなぐり捨て、レンブラント家当主が声を荒らげる。

貴族社会においては声の大きい者、人の噂話を上手く使う者の話が正しいと思われることが多い。


ましてや当主は王妃の父親。

常日頃であればその声を無視する者はいなかった。


しかしこの場では違う。


見守る貴族の誰もが当主を疑いの眼差しで見ている。


「正式な手続きによって取り寄せた書類、そして鑑定した結果に対して物申すと言われるか?」


裁判長の問いかけに当主が言葉に詰まった。


「反論するというのであればそれに足る証拠が必要です」


裁判長が鋭い眼差しで見つめる先、当主の顔色はすぐれない。

何度か口を開け閉めしているが、しかしついぞその口から言葉が出ることはなかった。


さすがにこの状況では王妃も父親をかばえないよね。

視界の端にとらえた王妃はダグラスを憎々しげに見ている。


それでも反論はしなかった。

いや、できないのか。


下手なことを言えば諸共に罪に問われかねないから。


「裁判長、先ほどの証拠につけ加えてもう一点申し上げます」


そんな中、さらなる追求の声をダグラスが上げる。


「うかがいましょう」

「レンブラント家は事件に関わった使用人を領地にあるカントリーハウスにほぼ軟禁状態にして召し抱えています。私は侯爵家当主暴漢事件の際に実行犯の傭兵を事件現場まで馬車に乗せたという御者の証言を得ました。これに関しては後ほど証拠を提出いたします」


暴漢事件に関しては暗殺ギルドの契約書でも十分証拠になる。

記録のアーティファクトにおさめられた御者の映像には、その事件の他に領地に飼い殺しにされていた使用人に関する証言も含まれていた。


ダグラスはあの映像も王妃を糾弾する際に利用するつもりだろう。

そのためにも今の段階では公に開示することなく、証拠の提出を後回しにしている。


「承知しました。この件について、レンブラント家の当主は何か異議申し立てがありますか?」


裁判長の問いかけに、当主は唇を噛み締めたまま何も言うことができない。


「特に異議申し立てが無いようですのでここまでとします」


裁判長の言葉が場内に響いた。

そして多くの貴族が固唾を呑んで見つめる中、その結審が伝えられる。


「レンブラント家当主を側妃殿下の実家である侯爵家当主に対する暴漢事件の被告人として拘束します」


裁判長が言い終わると同時に近衛兵が入ってきた。


腕を拘束され周りを近衛兵に囲まれて連れていかれるだなんて、今日この場に来た時には想像もしなかっただろう。

それはレンブラント家の当主にしても王妃にしても同じはず。


非常に大きな権力を有し、黒を白と言いくるめることも通るような生き方をしてきたレンブラント家にとって今回の告発は衝撃的だったに違いない。


「冤罪だ!私は誰かに陥れられたんだ!!」


連行されながらも言い張る声が聞こえる。

しかし誰もその声に応えることはなかった。


そうしてレンブラント家の当主は強制的に退場させられたのだった。


あまりにも大きな出来事に直面して辺りが静まり返る中、裁判長がダグラスに向き合う。


「さて。ダグラス殿下においてはもう一件告発があると伺っています。引き続き次の事件に移ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんです」

「では、側妃殿下毒殺事件についての告発をお願いいたします」


もはや会場内には咳一つできないような緊張感が高まっている。

誰しもが裁判長とダグラスの言葉を一言も聞き漏らさないように耳を澄ませていた。


「まず、私の母である側妃殿下は毒によって殺害されたことをここに申し上げます。事件当時、陛下は国内の混乱、また、王宮内での影響を鑑みあえてその事実を伏せました」


ダグラスの話す内容は貴族諸公にとって今まで知ることのなかった新たな事実だろう。


「側妃殿下はそれまでも命を狙われることがありました。陛下は私も害されるのではないかと恐れ、守るために私の存在ごと秘匿したと聞いています。そうして見えない敵から身を隠すように暮らしていたにもかかわらず側妃殿下は殺害された」


ダグラスが母の死に言及するたびに、室内の空気はさらに重くなっていく。


「私にとって王宮は籠の鳥であることを強いられる場所でした。母が亡くなり、このままの状況で生き続ける意義を感じられなくなった私はその後王宮を出ました。今日この日まで皆さまの前に現れることがなかったのもそのことに起因します」


ダグラスの説明は、陛下が言った『なぜ今までダグラスが公の場に出てこなかったのか、そもそも第一王子として発表されなかったか』の答えだ。


「ではそもそも側妃殿下は誰に毒殺されたのか」


ダグラスの話が当初の側妃殿下毒殺事件の告発に戻っていく。


一旦言葉を切ったダグラスの、黒く光る瞳が辺りを見回した。

一呼吸おいたことによってこれから言うことに対して人々のさらなる注目を集める。


「側妃殿下を毒殺した事件の首謀者は王妃殿下である。ダグラス・グラントの名においてここに告発します」

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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