悪役令嬢は舞い踊る
エマが身にまとったドレスはライアンの髪色に合わせたプラチナブロンドだった。
少し濃いめの生地に繊細なレースが重ねられている。
そして散りばめられた小さなダイアモンドがシャンデリアの光を反射して煌びやかに輝いていた。
アクセサリーのイヤリングとネックレスはロイヤルブルー。
これでもかというほどエマの身につけている物にはライアンの色だけが使われている。
一方のライアンはエマと同色の燕尾服、そしてラペルピンとカフスにエマの瞳の色のアクアマリンを取り入れていた。
二人そろうとまるで結婚式のようだ。
「あり得ませんわ……」
クレアが呆然として呟く。
ドレスショップで遭遇しているから、エマとライアンが衣装をそろえて来ることは予想できただろう。
しかし二人がここまであからさまな色にするとは思わなかったのかもしれない。
私としては予想通りなんだけど。
さて。
ライアンはどのタイミングで断罪劇を始めるのかしら。
ゲーム内では会場に登場してすぐだった。
ただ、今回はライアンが階段を降り切ったと同時に楽団が曲を奏で始めてしまっている。
このまま曲を中断するよりは一曲踊ってから、という方が可能性が高そうだ。
エマとしても着飾った自分を思う存分見せびらかしたいだろうしね。
本来の舞踏会は主賓が一言挨拶してから曲が始まるものだけど、思わぬ事態に楽団も焦っているのかもしれない。
いや、たとえ挨拶なしに踊り始めたとしてもあの格好がなくなる訳ではないんだけど。
「お兄さま、せっかくですので準備運動代わりに一曲いかがかしら?」
「相変わらず肝が据わっているな」
いつの間にか兄のエレナに対する印象が悪化している……。
令嬢としては肝が据わっているというのは褒め言葉ではないのでは?
まぁ、本来であれば男性からダンスを申し込まれ女性が承諾するという流れが必要だということを思えば、男女逆転状態でのお誘いをしている時点で普通ではないのだけれど。
元のエレナに対していささか申し訳なく感じつつ、私は兄にエスコートされながら足を踏み出した。
会場を見渡せば当たり前のようにライアンとエマは真ん中で踊り始めている。
なし崩し的に始まってしまったものの、ライアンがそれで良しとしているのであれば他の生徒としては従うしかない。
戸惑いの表情を浮かべた生徒たちはお互いのパートナーの手を取って少しずつダンスに参加し始めた。
視界の端ではクレアとソフィも踊っている。
クレアの表情が明らかに憤慨していて思わず嬉しく感じてしまったのは内緒だ。
素直で腹芸があまり得意ではないクレアの性格は、貴族令嬢としては欠点になり得るけれど私としては好きだった。
クレアがその辺が苦手な分、いつも一緒にいるソフィが案外得意だからいいのかもしれない。
逆にソフィは性格が大人しい分なめられやすいけれどクレアといる限り変に絡まれることもないだろう。
オーウェンとベイリーを含めて良い関係が築けているのは何よりだ。
そんなことを考えながらも私は兄のリードに合わせて優雅に舞う。
自慢じゃないけどエレナはダンスも上手だ。
中身がダンス経験ゼロの私であっても曲を聞けば自然と踊れるのだから、おそらくかなり練習をつんでいるはず。
そして今まであまり目立ってはいなかったかもしれないけれど兄も相当踊れる。
ライアンとエマが自分たちが主役とばかりに見せつけるというのであれば実力でその上をいくだけ。
ひらりひらりと私が舞うたびにダンスに参加せずにいる生徒たちから感嘆のため息が聞こえた。
ホールの真ん中で踊っていたエマにもその様子が見えたのか、得意げな顔に不満が浮かんでくる。
エマはエマで腹芸ができないよね。
底意地の悪さが出ちゃってるからクレアとは全然違うけど。
「そろそろ一曲が終わるが……殿下はどうするかな?」
しっかりと踊っていても兄も私も息は切れない。
「エマ様がご不満げでしたから、この一曲で中断するのではないかしら?」
かくして私の予想通り、一曲が終わったタイミングでライアンがスッと手を上げて楽団の演奏を止めた。
「学園の皆が集まったこの場で、発表したいことがある」
とうとう、この時がきた。
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