悪役令嬢の皮算用
ウェルズの邸宅に戻ってきてから、私はノートを前にまた考えている。
とりあえずデュランに繋ぎはつけたし、このまま妹を救出できればあちらとの契約は問題ないだろう。
デュランとの契約で重要だったのは、情報収集と情報操作のできる環境を持つこと。
それと収入源だ。
ゲームが始まって以降、学園内に限らず社交界や果ては市井の中でもエレナが悪役令嬢であることが広まっていた。
大勢の声というのはとても力を持つ。
王太子と恋に落ちた可憐な男爵令嬢、対して立場が弱くか弱い彼女を追い詰める悪女である公爵令嬢。
そんなお伽噺のような話を聞いた庶民は、立場の弱い男爵令嬢に肩入れしてエレナを糾弾した。
その実情など何もしらず。
だからこそ、外でどんな情報が出回っているのかを知ることは重要だし、場合によっては情報の方向性を修正することも大切だ。
その手段としての情報ギルドとの契約だった。
そして新聞や情報誌のような物を刊行してそれが売れれば、もれなく私は収入を得ることになる。
これは断罪後を見据えた大事な手段でもあった。
貴族令嬢には自身だけの立場というものは無い。
あるのは父親に付随する立場、そしてその後は結婚した相手に付随した立場だ。
自分で収入を得ることもできず、せいぜいが夫に任された場合に領地を運営するくらいで、求められている一番重要なことは子を産むことだし、その後は社交界で上手く立ち回ることだった。
もし貴族としての立場を奪われた場合生きていくこと自体が困難になる。
修道院へ行って神に仕えるか、平民になり自ら労働して賃金を得るか。
そのどちらも、貴族令嬢だった者には厳しいだろう。
私ならなんとかなりそうだけど。
前世は普通に働いていた日本人だし。
なんなら同世代の子たちよりたくさん働いた経験がある。
一般的な家庭に生まれ、両親の離婚で母親について行き、そして母親のネグレクトから施設へ。
施設は18歳で出ていかなければならないから高校生になってからはアルバイト漬けだったし。
それでも、環境に負けたとは思いたくなくて奨学金とアルバイト代でなんとか大学に滑り込んで卒業までした。
就職先は普通の事務だったけれど、これからは自分の楽しみを見つけようとしていた矢先にこの有り様だ。
あれ?
そういえば、奨学金の返済まだ全然終わっていないけれど大丈夫なのかしら?
そもそもあちらでは私の扱いってどうなってるのかな。
失踪者?
まぁ、誰も探す人なんていないだろうけど。
別に友人がいなかったわけでも、人間関係が無かったわけでもない。
でもいざいなくなった場合に必死になってでも探してくれる相手が思い浮かばなかった。
普通は失踪したら親が探すんだろうけどね…。
いや待って。
転生したってことは私向こうでは死んでるんじゃ…?
ええ…。
死んだ記憶なんてないんだけど。
…そんな記憶覚えていない方がいいんだから良かったのかも?
考えているうちに思考がだいぶズレてきた。
まずは目の前のことから一つずつ。
そう思って。
私は先ほど書き上げた手紙を出すためにメアリを呼んだ。
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