悪役令嬢は証拠の在処を知る
レオのショッキングな告白につかの間沈黙が落ちた。
そんな中最初に立ち直ったのは年の功なのかルドだった。
「レオ殿が事件の詳細を知っている理由はわかった。あまり言いたくなかっただろうことを口にさせてしまい申し訳ない」
「いいえ。問題ありません」
対してレオは常と変わらずの態度だ。
動揺も狼狽もない。
それは精神が達観しているからか心を失っているからか。
後者な気がしてならないよね。
それでも、さっきのレオの瞳は『無』ではなかったと思う。
あの揺らぎは何かしらの感情がよぎったせいだろうから。
「話を続けよう。今大事なのは事件の証拠なわけだが、レオ殿には何か心当たりがあるのだろうか?」
ルドはただのおじさんの振りをしているけどやっぱり違う。
話をまとめるのも問いかける質問も無駄がない。
「あります」
レオの返答に、場の緊張が一気に高まった。
「卑怯で臆病な者は自分に都合の悪い物をどうすると思いますか?」
不意に問い返されて、ルドが目を見張る。
「王妃が卑怯で臆病な者だということか?……そうだな、手元に証拠があれば見つかる危険が上がる。証拠も、なんなら事件の関係者もまとめて隠滅、つまり処分したんじゃないか」
ルドの考え方は妥当とも言える。
証拠は少ない方が見つかりにくいはずだ。
「普通であればそう考えるでしょうね」
レオはもたれていた窓枠から少し身を起こした。
「側妃殿下毒殺事件にしても、その前の侯爵様が暴漢に襲われた事件にしても、関わった人の数が多い。事件なんてものは関わった人間が多ければ多いほど真相が漏れていく確率が上がります」
人の口に戸は立てられぬっていうもんね。
ましてや側妃殿下の事件は侍女一人とってもその立場に辿り着くまでにたくさんの人を介したはずだ。
「人を縛るものはいろいろあります。契約、感情、そして……脅迫」
脅迫。
物騒すぎる。
「王妃はすべてのやり取りの証拠を残してあります。それは王妃の弱点となりますが、裏を返せば共犯者への脅しにも使える。諸刃の剣であったとしても、証拠があると思えば共謀した者たちも迂闊には動けなくなるのです」
そこで初めてレオはその顔に表情をのせた。
嘲るような、侮蔑するような、そんな表情を。
「古くは私に関する契約書もありますよ。隷属のアーティファクトを施された子どもを譲渡する、そしてその見返りに何を貰うのかが記載されている、そんな契約書が」
「それはニールセン伯爵家と交わした契約書ということかしら?」
「そうです」
それは……言ってみれば人身売買の契約書ということなんじゃ……。
「人身売買はこの国では禁止されているだろう」
「ダグラス殿、たとえ禁止されていたとしても法を犯す者は気にしません。表沙汰にならなければいいと思っていますから」
うん、そういう人たちがいるのはわかっている。
なんなら今集まっている人の中でもデュランはこのことについてあまり踏み込みたくはないだろう。
犯罪は犯していなくても、情報を取り扱う上で法スレスレなことをする場面もあるだろうから。
「つまり王妃の手元には、表に出せばその罪を問えるだけの証拠がたくさんあるということです」
過去の事件の証拠が処分されることなく今でも存在している、それはこの場において何よりも求められている答えではあるけれど。
問題はその証拠がどこにあって、どうやって手に入れるかだろう。
「レオ殿はその証拠の保管場所を知っているのだろうか?」
「ルド殿、王宮内で王妃にとって一番安心できて他者の介入を避けられる場所はどこか、と考えれば自ずと答えは出るかと」
「つまり、王妃の私室、ということか」
「ご明察です」
王妃の私室か……。
証拠を隠すには妥当な場所ではあるけれど、こちらがその証拠を手に入れるには難しい場所だよね。
「陛下や陛下の影であっても王妃の私室は不可侵の場所。証拠があるとわかっていて手が出せないのは……厳しいな」
室内に沈黙が落ちる。
誰もが証拠を手に入れるにはどうしたらいいか頭を悩ませたその時、レオがあっさりと告げた。
「証拠入手は、私がします」
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