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悪役令嬢は真相を知る

レオがその言葉を発した瞬間、背後に立っていたダグラスからなんとも言えない圧力を感じた。


怒り、悔しさ、やるせなさ、悲しみ、ネガティブな感情を圧縮したものが。

息苦しさを伴うような張り詰めた空気の中、レオが続けた。


「側妃殿下は離宮で手厚く保護されていた。かつての侯爵様のように暴漢に襲わせるのは現実的ではない。そこで王妃は時間をかけ何ヵ所も経由して自分の手の者を側妃殿下の侍女として送り込んだんです。その侍女に、毒を盛らせるために」


ひりつくような緊張感が所長室を包む。

唾を飲む音さえも響きそうだ。


「レンブラント家には外に知られていない秘せられた毒薬があります。その毒薬については三代前の当主が書庫に残された古い文書を見つけたところから始まります。今ではほとんど流通していない薬草や一般的ではない調剤方法など、かつての製法に則った方法でしか作り出せない毒薬でした」


ここで、側妃に盛られた毒薬が出てくるのか。


「レンブラント家は秘密裏にその毒薬の精製に取り組み、前侯爵の代でそれに成功した。そこから、レンブラント家の暗躍は加速していったのでしょう」


……なんだか側妃殿下の事件だけでなく他にも何か起こしてそうな言い方だよね。


「王妃は時間をかけ手を回し、とうとうその毒薬を側妃殿下に盛ることに成功した。その後は皆さんもご存じの通り、側妃殿下は亡くなり第一王子は王宮を出ていき、王妃は意のままに宮中を操る力を手に入れたのです」

「陛下はそのことをご存じだったのだろうか?」


ルドが静かに問いかける。


「おそらく。あまり知られてはいませんが、宮廷内では国王派と王妃派で派閥は分かれています。側妃殿下が亡くなって以降、陛下は王妃を忌避している。陛下も事件の真相を王妃が握っていると思っているのでしょう。ただ、証拠が無ければ罪を問うことができない」


私は常々不思議に思っていた。

陛下はその政治手腕を見る限り決して愚鈍な王ではないのに、なぜ問題だらけのライアンをあのまま放置しているのかを。


王妃を忌避しているのであればライアンを正すことなく放ってあるのも理解できるけど……。

間違った考えを植え付けられ、誰にも正されることなく育ったライアンはある意味かわいそうな存在なのかもしれない。

まぁ、私にかわいそうなんて思われたくないだろうけどね。


そして、陛下はおそらくどこかの段階で王太子の座をダグラスにすげ替えるつもりだったのだろう。

そう考えればダグラスの動向を影を使って常に把握していた理由がわかる。


父親としてはどうなんだって思うけどね。

王としては正しい判断だったのだろうか。


「事件の経緯はわかった。しかし陛下が王妃を罪に問えていないように、証拠が無ければ我々もどうすることもできないだろう」


ルドの言うことはもっともだ。

王妃も、どれだけ自分が疑われようとも証拠さえなければ問題ないと考えているに違いない。


「証拠だけじゃない。そもそも当時はまだ子どもでしかなかったはずのお前がなぜそこまで知っているのか、その理由を聞かせてもらおうか。お前の話を信用するかどうかはそれ次第だ」


ルドに続いてダグラスが言う。

自身が当事者であるダグラスの表情は硬い。


「仰ることはごもっともですね」


半分疑うように言われたにもかかわらずレオの返答は冷静だ。


答えながら一瞬私の方を見たその瞳に、何かしらの感情の揺らぎが見えたのは見間違いだろうか。


「たしかに、事件当時の私はまだ子どもでしかなくその詳細を知っていることに疑問を持つでしょう」


あ。

またレオの一人称が『私』になってる。

どうやら王妃に関わること、そして過去のことを話す時に『私』になって、素を出したり素直に自分の感情を出す時には『僕』になっている気がした。


「ではなぜ知っているのか。それはただ単に王妃の相手をした後の寝物語に聞かされていたからです」


……王妃の相手。

……寝物語。

……え?


「そもそも王妃にとって使用人なんてそこらへんの家具と同じような物でしかない。ただ自分に従うもの。使用人にも意志があるなんて考えもしないでしょう。特に私は隷属のアーティファクトで縛られていた存在だった。気分にまかせていろいろなことを話しても口止めさえしておけばどこにも漏れることはありません」


つまり、どういうこと?

レオはいったいどういう扱いをされてきたというの?


頭ではわかっていた。

レオが王妃にどう扱われていたかなんて。


でも。

生まれ落ちた時からずっと、自分の意志を、その心を奪われ続けてきたことを思えば呆然とするしかなかった。


そして王妃は。

レオの心だけでなく身体までも支配下に置いたということだろう。


本当、反吐が出るほど人間性が最低だ。

それがこの国の王妃だなんて、冗談が過ぎるわ。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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