悪役令嬢は真相に迫る
「そもそもことの起こりは側妃殿下の父親である侯爵様が暴漢に襲われて亡くなられたところまで遡ります」
レオがゆっくりと話し始める。
ああ、やっぱり。
話を聞いた時にも思ったのよね。
側妃の父親の事件は果たして偶然だったのか、と。
「当時陛下の婚約者に相応しい家柄で年頃の娘は現王妃と側妃殿下だけでした。王妃は幼少時からずっと自分こそが王妃になるべき立場だと言ってはばからなかったようですし、本人も父親である侯爵もそう思っていたのでしょう。それが実際に選ばれたのは側妃殿下だった」
うーん。
レオも王妃には敬称なしで側妃には敬称をつけるのね。
「それは陛下の希望だったのでしょう?家柄としても側妃殿下と王妃は同じ侯爵家。なぜ王妃は自分こそが選ばれると確信していたのかしら?」
私の疑問に関してはルドが答えてくれた。
「王妃の父親は政治の中枢である宰相を務めていました。対して側妃殿下の父親は特別な役職についていたわけではなかった。もちろん侯爵家当主として領地を堅実に治めていましたし、人柄も申し分なかったのですが」
なるほど。
王妃にしてみれば、同じ家格の令嬢ならば父親が宰相を務めている自分が選ばれて当然だと思っていたということね。
「ところが、王妃とその父親の考えに対して前陛下の考えは逆だった。下手に政治に絡んでいない方が、成婚後に外戚として王家に対して変に口出しをしないだろうと考えたのです。まぁ、一番の理由は陛下が側妃殿下のことを望んだからですが」
全然関係ないけど、ルドの言葉遣いが以前よりも丁寧なのは公爵令息の兄がいるからだろうか。
それにレオにはルドが陛下の元『影』だったと言うことをまだ言ってなかったわ。
そんな私の考えをよそに、ルドの言葉を受けてレオがさらに続ける。
「このままでは娘が正妃の座に就くことができない、そう考えたレンブラント家が側妃殿下の父親を暴漢に襲わせて亡き者にした。貴族の令嬢はその親の地位に属するものですから、後ろ盾を無くした令嬢では相応しくないということを理由に婚約者が変更されたと聞いています」
レオはそこで一旦言葉を切った。
「もっといえば、側妃殿下の生家は権力への執着が薄かったために他の家とのつながりがあまり強固ではなかった。つまり、側妃殿下を推す貴族よりも王妃を推す貴族が多数となり、王家としてもその声を無視できなかったのでしょう」
「でもその後陛下は側妃殿下を娶られていますわよね?」
「それはあくまで側妃だから許されたのです。ましてや父親を亡くし後継である弟はまだ成人前。残念ながら側妃殿下の血縁にはその時点で跡を取れるような者がいなかった。普通の貴族令嬢としても厳しい立場に立たされていたはずです。陛下としてはそのままにしておけなかったのでしょう」
レオは淡々と事実を述べていく。
つまり、陛下としては一度は自身の妻に、と望んだ側妃を放ってはおけなかったってことね。
前に兄も言っていたけど、きっと陛下と側妃は想い合っていたのだろう。
「ことがそこでおさまれば、あるいはその後の悲劇は起きなかったのかもしれません」
「というと?」
レオの言葉にルドが続きをうながす。
「陛下が側妃殿下を娶られることに対して王妃はかなり反対したと聞いています。しかしそのことに関して王妃に権限はない。ましてやその時点ではまだ後継となる子どもがいませんでしたので、陛下を止めることができなかったようです」
すでに男の子を産んでいたのなら意見も通ったのかもしれないけど、ということよね。
「そして側妃殿下を娶って以降陛下の寵愛は側妃殿下にそそがれ、結果として第一子を身籠ることになる」
それがダグラスだ。
あ。
そういえばダグラスがその第一王子だということもレオにはまだ伝えてなかったよ。
「さすがに正妃よりも側妃殿下が先に懐妊し、結果生まれた子が第一王子というのは国内に混乱を招くと考えたのでしょう。陛下はその後正妃との間にも子どもをもうけ、正式にそちらを後継者として指名しました」
その後継者がライアンね。
「陛下は正妃が側妃殿下に対して良からぬ気持ちを持っていることを察していたのだと思います。そのため第一王子は秘匿され、側妃殿下と共に離宮で育てられた」
ここら辺は以前兄に聞いた話にもあった。
「陛下は自分との間の子を後継者に指名したが、心は側妃殿下の元にある。ましてやあちらには自身の子よりも先に生まれた王子もいる、となれば王妃としてはその状況自体が許せなかったのでしょう」
少し遠くを見ながら話していたレオが、ここで私たちに視線を合わせる。
「側妃殿下を亡きものとする計画を、立てたのです」
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