悪役令嬢と護衛
「お嬢さま、今日の件旦那様はご存じではないですよね?」
「あら。告げ口でもする?」
情報ギルドからの帰り道にダグラスから問いかけられる。
「いえ。面倒なので」
そうでしょうとも。
今日のギルド行き、防犯の観点からも一人で行くのは難しかったけれど、ダグラスが護衛につくというなら気が楽だった。
なぜなら、彼は報酬、つまりお金以外に興味が無いからだ。
もちろん、もしバレたら私の行動を止めずに裏通りに行かせてしまったという点は責められるかもしれないが、私が強固に行くと言えば立場上護衛は断れない。
これで何かあったら責められるのは護衛なんだからその点は割に合わないと思うけれど。
でもダグラスは気にしないだろう。
彼は余程のことでない限り私を守り切るだけの実力があるし、逆にもし万が一何かあったとしてもそれはそれで仕方がないと割り切ってしまえるから。
つまりとてもドライな性格なのだ。
今の私にとっては願ってもない護衛だった。
さっきの言葉だって私を心配したとか、お父様に知られたらどうしようとかではなく、ただ単に事実確認だし。
今後もダグラスが護衛についてくれるなら私としてはとてもやりやすい。
「ボーナスでも出しましょうか?」
「今後も秘密裡に暗躍するのを黙ってろってことですね?」
勘が悪くないのは尚いいわ。
「暗躍だなんて物騒ね。私はとても平和主義よ」
「そうですか。俺には数日前からお嬢様が別人に見えますけどね」
あら。
突然重要なことを突っ込んでくるわね。
「私は私よ。何も変わっていないでしょう?」
「そう言い切ってしまうのがすでに別人なんですが」
ダグラスの黒々とした眼が私を見つめる。
いくらでも見なさいな。
どこからどう見ても姿形はエレナのままなんだから。
「まぁ、俺にとってはどうでもいいことですけどね」
ふいっと視線を外してダグラスが言葉を続けた。
私に対する違和感が気にはなったけれど、同時にそれを追求するのは面倒だと思ったのだろう。
それにしても、周囲の言いなりで大人しかったエレナはこの個性的な護衛が苦手ではなかったのだろうか。
どちらかというと合わないタイプに思えるのだけど。
なにせゲームはヒロイン目線で進められるから、他の登場人物のそういった細かい心情までは描写されていなかった。
冤罪で断罪された悪役令嬢、エレナ・ウェルズ。
本当はどんな子で何を思っていたのか、私はここにきて少し気になっていた。
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