表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/205

悪役令嬢はヒロインの存在を思い出す

当たり前の話だけどそう簡単に所有者の変更なんてできない。

そもそもが隷属のアーティファクトは王妃の元にあるわけで、王宮に入ることも探すことも難しい。


ライアンの婚約者として王妃の元に探りを入れに行くことも提案してみたけれど、危ないからダメだと却下された。


たしかに現時点では王妃がウェルズ家に対してどう思っているかわからないし、父親に届いた手紙のことを考えるとすでに敵対しているとも思えた。


うーん、八方塞がり。


とりあえずデュランの諜報部隊とダグラスの影がアーティファクトの保管場所を探すように動いてくれることになったけど……。

保管場所がわかったとしても勝手に持ち出せば王族に対する窃盗という大罪だし、譲ってもらうように持ちかけるとしてもあの王妃が簡単に手放すとも思えない。


どうしたものか。


そんなこんなで考え事をしていたせいか、学園の廊下の角を曲がったところで人にぶつかりそうになった。


そばに控えていたダグラスがとっさに私をグッと引っ張ってくれたのでぶつかることはなかったけれど。


おっと。

びっくりしたー。

……ダグラス、安定感あり過ぎでしょ。


人とぶつかりそうになった驚きと急に背中に感じたダグラスの体温とで私の心臓は大忙しだ。


「きゃっ!!」


すでに私はダグラスの腕の中にいて、実際はぶつかってもいないしタイミング的には遅いにもかかわらずぶつかりそうになった相手がわざとらしく悲鳴を上げる。


え?と思う間もなくキンキンとした声が目の前の少女から発せられた。


「エレナ様ひどいですわ!いくら私のことが憎いからってわざとぶつかってくるなんて!!」


よく見ると相手はエマだった。


久しぶりすぎてすっかりその存在を忘れていたよー!

いや、正しくは毎日同じクラスで顔を合わせてはいるし、何かと絡んでくるから久しぶりなわけではない。

それでも、ここ数日の学園外での出来事が大きすぎてエマの存在が私の中ですっかりと薄れていた。


「誤解ですわエマ様。それに、そもそもぶつかってはいませんわよ」

「嘘ですわ!エレナ様がぶつかってきたから私は転んだんですよ」


たしかにエマは尻餅をついたような体勢からこちらを見上げている。


「エレナ嬢、ぶつかったのなら謝罪すべきだと思うが?」


エマの後ろからライアンが声をかけてきた。


お前はエマの腰巾着か。

思わず心の中で罵倒してしまい、心を落ち着けるために深呼吸する。


「ぶつかっていませんので謝罪の必要を感じませんわ」


言った言わない、やったやっていないって不毛な言い合いだよね。


「私の方からはぶつかったように見えたが?」

「それであれば目の前で見ていた私はぶつかっていないと証言しますが」


ライアンの言いがかりにダグラスが応戦する。


「エレナ嬢、あなたの護衛は不敬だな」

「敬うべき相手に対してはちゃんと敬意を持って接しております」


それって言外にライアンは敬う対象ではないと言っているような……。

ダグラスの言葉にライアンがその表情を変える。


「王族に対して失礼だと思わないのか?」

「学園では学ぶ者はみな平等を理念にしているかと思いますが、その中においてあえて王族であるとおっしゃっているのでしょうか?」


なぜこの二人がやりあうことになっているのか。

ある意味呆気に取られていると、エマが横槍を入れてきた。


「あの!ダグラス様、私はいつもエレナ様にいじめられているのです!!」


……は?

いやいやいや何言ってるのこの子。

頭おかしいの?


「ライアン様が私のことを気にかけてくださるからか、エレナ様が嫉妬なさっているみたいで……私いつも嫌がらせを受けておりますの!」


ええー。

正直ライアンのことなんてどうでもいいし、エマにいたってはうっかりとその存在を忘れかけていたくらいなのに。

っていうか、ダグラスはいつも私の側に控えているんだからいじめたり嫌がらせなんてしてないってわかってるに決まってるでしょー!


まったくもってエマの思考回路がわからない。

むしろわからな過ぎて未知なる生き物を眺めている気分だ。


「エレナ様、そろそろ授業がはじまりそうです」


そんなエマを丸っと無視してダグラスが促してくる。


あれを無視できるなんてダグラスもなかなかだわ。

なんとなく見当違いな感想を抱きながら、私は促されるまま席までエスコートされる。


ダグラスに無視されたエマは明らかに不機嫌だし、言い負かされた格好になったライアンもまた苛立たしげだ。


しかしそのタイミングで教師が入ってきて授業が開始する。


そして私は授業中に気づくのだ。


あれ?

さっきのってもしかしてゲームのイベントなんじゃない?


悪役令嬢のエレナに廊下でぶつかられるヒロインのエマ。

そこに攻略対象のライアンがやってきてヒロインを庇う。


そんなイベントがたしかにあった。


あのイベントって、物語のタイミングとしてどれくらいの時だったっけ?


気づけばだいぶ薄れつつあるゲームの記憶をひっぱり出してきて考える。

たしか廊下でぶつかるイベントの後に中庭の池に落とされるイベントがあった。

そこでエレナはハンカチを落とし、それが断罪の場で他の生徒の証言と共に決定的な証拠となるはずだ。


あ。

まずい。

襲撃のこととかレオのこととか王妃のこととかにかまけていたけれど。

そろそろ自衛対策をしなければならないタイミングだわ。


私は大金を出して手に入れたアーティファクトのことを思い浮かべる。

これからは毎日あれを持ち歩かないと。


エマが断罪の場で証拠とするものを、逆に私の方が証拠として使うのよ。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録や評価などしていただけるととても励みになります。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ