悪役令嬢は自分の能力に気づく
本の表紙は厚紙でできていて前世でいうところの文芸書のような装丁だ。
表紙は焦茶色。
内容を表すような絵が描かれていることもなく、金色のインクで文字だけが記されている。
そして見るからに年月を重ねてきたことがわかる程度には古びていた。
アーティファクト事典。
つまり、世の中に出回ったアーティファクトを網羅して本にした物だろうか。
もしそうだとしたらかなり貴重な本ということになる。
そんな物が存在しているとは知られていないし、もしかすると偽物かもしれないけれど……。
「これは……なんて書いてあるんだ?」
デュランの声に私の意識が思考の海から浮上する。
「俺にも読めませんね」
続いてダグラスが答えた。
……え?
情報ギルド長のデュランは情報を扱うだけあって言語に堪能だ。
自国のグラント国の公用語だけでなく近隣国の言語も問題なく操るし、なんならマイナーな言語も知っていたりする。
ダグラスはダグラスで、おそらくは王子教育で言語に関してかなりの知識を持っている。
王宮から出て以降はいろいろな国に行ったこともあってか少数民族の言葉も多少なら知っていた。
その二人が表紙の言葉を全く読めないと言う。
……え?
私には問題なく読めるけど?
『アーティファクト事典』
何度見てもそう書いてある。
どういうこと?
「お二人は表紙に何が書かれているかわからないということでしょうか?」
「ああ」
「エレナ嬢はわかるのか?」
二人にはわからなくて私にしかわからない言語なんてあるの?
どう考えてもエレナの世界は二人の経験してきた世界よりも狭いはずだ。
王太子妃教育は受けていたが、それが二人の知識以上の物だったとは思えない。
……もしかして。
これはチート能力なんじゃ?
てっきり私のチート能力は、前世の記憶とゲームの知識があり今世でのエレナの記憶を引き継いでいることだけだと思っていたけれど。
じっと表紙の文字を見つめ、次に裏表紙をめくると奥付を確認する。
奥付にあたるページには特に何も記載はなかった。
書かれているのは誰かの名前と思しき手書きのサインと日付だけ。
その日付もグラント国の使う暦ではない。
この本は古代語で書かれている。
私は自然とそう確信した。
もしこれが私のチート能力だとしたら、私は古代語がわかるということだろうか?
それともどんな言語も頭の中で自動的に翻訳されるとか?
言語チートって転生物でよく見かけるし。
正直そこら辺がどうなっているのか気にはなったが、とりあえずまずはこの本の解読だろう。
「ここ」
ルークがちょうど真ん中くらいのページを開いた。
「これは!」
「……!」
ダグラスやデュラン同様私も息を呑む。
ルークが開いたページには、さっきデュランが持ってきた紙に書かれていた物と同じような物の絵が描かれていたからだ。
『隷属のアーティファクト』
一番上のタイトルにもそう記されている。
正しくレオに使われているアーティファクトについてのページだった。
書かれているのはさっきデュランの言った内容を含む使用方法だ。
私は目を皿のようにして隷属した者の解放方法がないかを探した。
「お嬢さま、この文字が読めるんですね」
そんな私の様子を見てダグラスが言う。
「この本に使われているのは古代語ですわ。古代文明が栄えていた時に使用されていた言語」
「お嬢さまが古代語に精通しているなんて初めて知りましたが?」
「能ある鷹は爪を隠す、ですわ」
少しでも時間が惜しい私は適当に誤魔化した。
誤魔化し方が雑と言われればそうだろう。
……無い。
書かれた文をページの端から端まで読み進めていくが、解放方法に関する内容はどこにも記されていなかった。
利用目的を考えるにそもそも解放を必要としていないのだろう。
それでも何かヒントがないかとページをめくった時、『それ』は私の目に飛び込んできたのだった。
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