悪役令嬢はヒントを得る
「ただ、それだと何かの都合でまた新しい所有者が現れた時にレオは囚われの身に戻るということですよね」
ダグラスの冷静な突っ込みが入る。
「たしかに……そうですわね。それに王妃の元からどうやってそのアーティファクトを手に入れるかという問題もありますわ……」
まさか盗むわけにもいくまい。
せっかく良いアイデアが思い浮かんだと思ったのに。
やはり根本的に解決する方法を探さないといけないということか。
「暫定的な方法としてはあり得るが、いつまたそれが覆るかを考えると手放しでは喜べないかもしれないな」
そうよね。
やはりそう簡単には解決できないか。
「疑問なんだが……エレナ嬢はなぜレオを解放したいんだ?」
さっき言いかけて止めた質問はそれだったのだろうか。
デュランがどことなく遠慮がちに聞いてきた。
「理由はいくつかありますわ」
「というと?」
「レオは王妃のかなり近いところにいる存在。打算的な話をするのであれば、隷属者から解放することで恩を売り、こちらの味方につけることができないかという理由ですわ」
「なるほど。で、打算的ではない理由は?」
私は部屋の隅でミラと遊んでいるルークを見た。
「ルークへの思いやりのある行動、虐げられて尚優しさを失わないその精神、そもそもが隷属させられていること自体が間違っていることも考えれば、自ずと答えが出るかと」
「ふーん。俺はまたレオに対して特別な感情でもあるのかと思ったよ」
なんと!?
情はあっても恋愛感情はないよ!
あああ。
ダグラス、怖い目でこっちを見ないで!
「レオ、困ってるの?」
そんな大人たちをよそに、突然ルークが会話に入ってきた。
「あー、そうだな。困ってるかもしれないな」
それこそ困った感じでデュランが答える。
「さっきの紙に書かれていた絵のことが知りたいの?」
ん?
どういうこと?
私だけでなくダグラスもデュランも困惑げにルークを見る。
「僕見たことあるよ。あの絵」
見たことがある?
隷属のアーティファクトの絵を?
デュランのところで見た、という感じではなさそうよね。
ルークは元々口数がとても少ない。
端的に物を言うから言葉の間から意味を汲み取る必要があった。
でも今回に限っては違う。
はっきりと『見たことがある』と言った。
「どこで見たか、聞いても?」
ドキドキしながら問いかけると、ルークはおもむろに自分の鞄を引っ張ってきた。
あれはスラム街から移ってきた時にも持っていた鞄だ。
ウェルズ家にいる時は身につけていなかったからどこかに置いておいたのだろう。
それを今日はなぜ持ち出してきたのか。
ルークが鞄から引っ張り出したのは四六版くらいのサイズの本だった。
「おっちゃんから誰にも見せるなって言われてたんだ。だけど、レオが困ってるなら必要ってことだよね」
おっちゃんというのはスラム街でルークのことを面倒見ていたレンブラント家の老人のことだろう。
私が知る限りルークはちゃんと約束を守る子だ。
そのルークが世話になったであろうおっちゃんとの約束を破ってまでもその本を見せてくれる。
その理由はレオがルークを大切にしていたからなんじゃないか、どうしてもそう思えてしかたがなかった。
「見せてくれるの?」
「……うん」
返事まで一瞬の間があいたのはおっちゃんとの約束を違えることへの躊躇いだろうか。
受け取った本からはかなりの年季を感じた。
机の上に置いたところでダグラスとデュランも覗き込んでくる。
「これは……」
……アーティファクト……事典?
表紙にはたしかに、そう書いてあった。
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