悪役令嬢は腹をくくる
「そもそも陛下の影の任務についた時から辞めるつもりなどなかったのだが、側妃殿下が亡くなってダグラスが王宮を出ることになり、陛下は俺にダグラスと共に行くことを望まれた」
「それは影の任務を継続したままでも可能なのでは?」
「いや。側妃殿下の事件の犯人が捕まらない限り、陛下とダグラスの繋がりはわからない方がいい。犯人の目的が何かははっきりしていなかったが、一番可能性があるのは後継者争いだと思われた」
離宮から出ず、その存在を隠された王子が後継者争いに関与なんてすると思うもの?
「そもそも側妃殿下を狙っている時点でダグラスの存在は犯人に知られていただろうし、陛下が王妃よりも側妃殿下を寵愛していたことは周知の事実だ」
……王妃は敬称無しで、側妃には『殿下』つきな辺りにルドの本心が透けて見えるわね。
「陛下に見限られ、後継者争いの舞台に立つことはないと思わせておいた方が安全だと判断した。もちろん陛下はその裏でダグラスを守れるように手配はしていたがな」
ということは、正式な影としてはその時点で辞めているが実際はそうではなかったということよね。
身分が影のままでは何かあった時に都合が悪い。
だから一旦は偽装してでもその立場を降りたのだろう。
「そして当面は王城から離れた方がいいということで遠方の公爵領へ逃れた。側妃殿下の事件の犯人が捕まればまた戻るつもりだったのだが……」
未だその犯人は捕まっていない、ということか。
「そう思いながら時間だけが過ぎていく中、ダグラスが王都に戻ると言い始めた。それを知った陛下が、王都内で動きやすい環境が必要だろうとこの詰所の所長の役職を俺に押し付けた、その結果が今というわけだ」
押し付けられたって言っちゃってるよ。
ルドはかなり自由な人らしい。
というか、それだけ陛下に信頼されているということだろう。
そもそもダグラスを託せる相手というだけでもそれはわかった。
「経緯はわかりましたわ。つまり、ルド様はダグラスの味方であり、敵にはなり得ない相手、ということですわね。ではそちらのロキ様はどういったお立場で?」
「こいつは元々俺が影の時に引き取って育てていた奴だ。年的にもちょうどダグラスと近いし、今後のことを考えてもダグラスには信頼できる相手が必要だと思った。王都を離れる時にこいつも一緒に行くと言ったから、一緒に連れて出てダグラスとはそれ以来のつき合いになる」
つまり、兄弟みたいなものだろうか。
もしくは幼馴染?
だからこそのあの対応なのだろう。
最初に詰所に来た時の二人のやりとりには気の置けない者同士の親しさがあった。
「ルド様もロキ様も、ダグラスにとっては家族のような相手、ということですわね。私はまだあなたたちについて何も知りませんが……ダグラスがあなたたちを信頼している、その点でもってして信用することにしますわ」
まぁ、家族でも時には敵対するし家族だからこそ拗れることもあるんだけど。
一般的に言う、愛情で繋がっている家族的関係だということだろう。
「さて。俺たちに関してはある程度わかってもらえたと思うのだが、エレナ嬢はどう判断する?」
このルドという男は人を試したり、その反応を見て相手がどういった思考を持っているかを判断する習性があるらしい。
これって影特有のものなのかしら?
それともルドだけ?
「そうですわね……」
私の心はもう決まっていたが、ルドに対してある程度発言権のある立場で居続けるためにも、一旦言葉を濁す。
「私にもお話ししておいた方がいい事実がありますわ」
私の言葉にダグラスが反応する。
パッと顔を上げるとこちらを凝視してきた。
「どういうことですか?ルドが言ったように思い当たることがあると?」
「そのお話をする前に、オルコット学園にいる兄を呼んでいただきたいのですが」
「いいだろう。すぐに使いを出す」
ルドがそう言うとロキが部屋から出て行く。
きっと誰かに兄への使いを頼むのだろう。
部屋にはダグラス、ルド、そして私が残った。
兄が来たらこの前父の書斎で見た手紙のことを話そう。
私も腹をくくるべき時がきた、そういうことなのだ。
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