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悪役令嬢は所内に招かれる

ダグラスは閉じた扉の向こうで少し話をしていたが、しばらくすると扉をノックしてきた。


「お嬢さま、開けてもいいですか?」

「よろしくてよ」


扉が少し開くと、伏せたままの視線の先に大判のストールが見える。


「詰所の備品ですので品質はいまいちですが、これで顔を隠せば移動できるかと」


なるほど。

保護された女性とかに配られたりする物なのだろう。

泣き腫らした顔を晒すくらいならこのストールを頭から被って隠した方がいい。


本当、これだけの気遣いをどこで覚えてきたのやら。


「ありがとう。お借りするわ」


そう言って私はストールを被ると、ダグラスの手を借りて馬車を降りた。


このまま馬車は詰所の人が綺麗にしてくれるらしい。

血の汚れを家の使用人でもない人に掃除させるのは気が引けるが、彼らはあまり気にした様子がなかった。


もしかして慣れていたりするのだろうか。

詰所に持ち込まれるトラブルなら血を見ることも珍しくないのかもしれない。


ダグラスと先ほどの男の人に連れられて、私は詰所内に入る。

共有街にある詰所に貴族令嬢というのはやはり不似合いなのだろう。

身なりで平民ではないとわかるため顔を隠していても興味津々の視線を感じた。


それに気づいたのか、すぐにダグラスと男の人の間に挟まれる形となり体格の良い両側の二人のお陰で視線を感じずにすんだ。


「ようダグラス。彼女を連れてきたんだって?」


入り口に入ってすぐに低い声が揶揄うような言葉をかけてくる。


「ルド。そうじゃないとわかってるでしょう」

「まぁまぁ。ここにお前が女性を伴ってくるなんて珍しいからな。他の連中も気になってるんじゃないか?」

「好きで連れて来た訳じゃないですよ。事件に巻き込まれたのでその報告に」


ルドと呼ばれた男はダグラスよりも縦にも横にも大きかった。

上背があり全体的にがっしりとした体格だ。

髪の毛も目も焦茶色で特別目立った色ではないか、瞳に宿る意志の強そうな光が印象的だった。


「なるほどな。じゃあその事件についての詳細は所長室で聞かせてもらおうか」


そう言うと、ルドはダグラスと私ともう一人の男の人を所内の奥まった場所にある部屋へと通した。


「そうそう、そこの男はロキと言う。この後の話にも参加するだろうからよろしくな」


ルドは私に対して軽い感じでロキという男を紹介した。


え?

それだけ?

ダグラスとの関係や、この詰所ないでどういう立場の人とか、そういった紹介は全然なし?


驚いたけど、どうやらここではそれも普通のようだ。

ちなみにロキもルドに負けず劣らず背が高い。

体格的にはルドよりも細身だが、鍛えられた筋肉がついていることは見るだけでわかった。

茶色い髪に少し黄みがかった瞳はこの国ではよく見る色合いだ。


所長室内は機能的に整えられていた。

見た目脳筋に見えるルドは、それでいて実務能力も高そうだ。

余計な物が置かれていないスッキリと片づけられたデスクがそれを物語っている。


室内には所長の机の前にテーブルとソファが置いてあった。

誰かお客さんが来たらここで対応するのだろう。


「悪いがお茶なんぞは出せない。まぁ出せたとしても公爵令嬢の口には合わないだろうけどな」


その言葉で、ルドがすでに私が誰なのかを知っていることがわかった。


「名乗らずに失礼しましたわ。エレナ・ウェルズです」

「よく分かりましたね」


私の挨拶に続いてダグラスが言う。


「お前が連れて来た時点でだいたい予想はついた。それに、紋章は外してあるがあの馬車は公爵家のものだろう」


馬車は家によってデザインが違う。

ルドは公爵家の馬車だから知っていたのだろうか。

それとも主要な貴族家の馬車のデザインをすべて覚えているのか。


まさかね。

伯爵家以上だけでもかなりの数の家があるわけだし。


「で?事件に巻き込まれたって?」

「ええ、そうです」

「詳しいことを聞こう」


いったいダグラスとルドはどういった関係なんだろう?

ただの知り合いと言うには親しそうだし。

ダグラスは丁寧に話してはいるが、少し砕けた感じもする。

そしてロキと紹介された彼との関係もわからない。


少なからずお互い気心が知れた間柄に見えた。


そうやって私が三人を観察している間もダグラスの説明は続いていく。

まずは簡潔に事件のあらましを伝え、その上で自身の見解も加える。


その見解は、私の背筋に冷たいものが走る内容だった。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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よろしくお願いします。

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