悪役令嬢は情報を提供する
「あなたが求めているのは妹さんの居場所でしょう?」
「そうだ。だがなぜお嬢ちゃんがそのことを知っている?」
情報を専門に扱うギルドが手を尽くしても得ることができない情報。
それをたかが小娘が知っている違和感。
他にもデュランの中ではさまざまな疑問が渦巻いているのだろう。
「あなたが妹さんの居場所を求めているのを知ったのは私が情報ギルドに取り引きを持ちかけるに当たって調べたから。そして妹さんの居場所を知ることができたのは…貴族だからですわ」
本当はゲームの知識として元々知っていたのだけど。
「貴族は自分の家の醜聞が公になることを何よりも嫌うのです。どんな手を使っても隠したがる。だから妹さんの行方を探すことは容易ではないと思いますの」
「…!つまり、妹は今どこかの貴族の家に囚われているということか!?」
そう。
デュランの妹は以前からとある貴族に目をつけられていた。
伯爵家の放蕩息子である三男坊。
あまり社交界に出てくることもなく影の薄い彼には人には言えない趣味があった。
自分よりも弱い女性をいたぶる趣味が。
いやだわ。
クズな男が多すぎじゃない?
しかもたちの悪いことに、三男が連れ去るのは声の上げにくい庶民から。
だから事が公になりにくい。
親は気づいていても相手が庶民だから放置しているのだろう。
万が一貴族を連れ去ろうものなら大問題だが、それだけこの世界での身分差は大きく、庶民の命は軽く扱われる。
やだやだ。
ゲームをしていた時はあまり意識していなかったけれど、人権無視も甚だしいわ。
これが実際の世界で起こっているのだと思うと寒気がする。
そうよね。
これは現実。
まだどこかしらゲーム感覚が抜けなかった私も、この世界で生きているんだから。
「私は貴族だからそういった貴族内の事情にも詳しいのです」
綿密に隠された醜聞は貴族内でも知ることは難しい。
しかしデュランは貴族ではないからその辺りの事情は誤魔化せるだろう。
というか、誤魔化すしかないのだけれど。
「わかった。正直なことを言えば、どこからも情報が入ってこず藁にもすがりたい状況だったんだ。教えてくれ。妹はどこの貴族に攫われたんだ?」
「申し訳ありませんが教えることはできませんわ」
私の言葉に、突然デュランが立ち上がった。
と、同時にダグラスが腰の剣を抜く。
あら。
能力が高いとは聞いていたけれど、本当に優秀だったのね。
デュランとダグラスが殺気立った状態で睨み合う。
あのどことなく人が良さそうなマスターも入り口のドアの前に立って警戒していた。
「いやですわ。誰も妹さんを助けないとは言ってませんわよ」
平然と、私は言葉を続ける。
デュランは決して私を殺せない。
私を殺してしまったら妹の情報を手に入れられないし、貴族の令嬢が消息を絶ったともなれば事件に発展してしまうから。
「どういうことだ?」
殺気はそのままに、デュランが問う。
「妹さんを助けに行くのはあなたではなく私です」
「なんだって!?」
あまりに予想外の言葉だったからか、デュランから殺気が抜け落ちた。
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