悪役令嬢は思考の海で揺蕩う
王家に秘匿された王子がいたことが発覚したり、それがダグラスだと分かったり、前世のことを思い出したり、それはそれは精神的に疲れることの連続だった一日を終えて、私はぐったりとベッドに沈み込んでいた。
うつ伏せから仰向けに体勢を変えれば繊細な彫刻が施された天蓋が目に入る。
ピンクオークル色のベッドは以前のエレナの趣味だ。
今の私にとっては可愛すぎるが、それでもこの部屋が落ち着くのは体が馴染んでいるからだろうか。
ダグラスが王子…ねえ。
隠しキャラだということを考えれば別に意外でもなんでもないのだが、ダグラスには王子様感が感じられない。
暗部の長と言われた方が違和感がないかも?
性格も俺様系王子と言えないこともないけれど、Sっ気が強い分王子様っぽくはない。
あれは素で私の反応を楽しんでるよね。
まぁ、言っても私もダグラスとの掛け合いを面白がっている部分があるけど。
ゲーム内の時間も個別ルートへの分岐を過ぎ、残すところ五ヶ月を切った。
エレナが断罪されるイベントは年度最後に行われる舞踏会だから、これからの小さなイベントも積み重ねという意味では重要になるのだろうか。
『母は毒殺だった』
そう告げたダグラスの瞳の奥に見えたのはどんな感情だったのだろう。
恨みか、憎しみか。
私には想像することすら難しいと思う。
兄はライアンの代わりに第一王子が王太子になればいいのではないかと言っていたけど、その相手がダグラスとわかったからにはどうするのか。
まさか王家とウェルズ家の契約内容がライアンとではなく王太子との婚約になっているなんて思ってもみなかったよ。
もし王太子がダグラスに変わったら私は自動的にダグラスの婚約者になる。
いやいや、冗談はやめて。
あのダグラスだよ。
言ってみれば、じゃれあっていた男友だちが突然恋人になったみたいなそんな感じじゃない?
あーでも、前世でそういう話にキュンキュンしたこともあったわ。
口喧嘩したり冗談を言い合ったりしていた相手が突然真面目な顔で口説いてくるっていうシチュエーションに萌えたのよね。
…いや、だからダグラスはそういう対象ではないでしょう!
思考があちこち飛ぶに任せるまま私はつらつらと考える。
エレナはどうして欲しかったのかな。
そもそも彼女の意識はどこにいってしまったのか。
まさかまさかで乗っ取ってたら嫌だよね。
乗っ取っていたとしても私の意志では無いのよー!
それでもエレナの体に入ってしまったからには断罪の回避は絶対だ。
ついでに浮気をしたライアンにはお仕置きを。
それから、前世の知識を悪用して周りの人の気持ちも考えずに暴走するエマにはお灸を据えたい。
だいたいにしておかしいのよ。
もしどうしても婚約破棄したいなら王家とウェルズ家の間だけで話し合いをすればいいものを、なぜ舞踏会なんていう公的な場所で発表するのか。
浮気した方が悪いのに悪役令嬢というだけで断罪されるのも納得いかない。
しかもその悪役というのも冤罪臭いし。
エマなんて横恋慕したくせに『私は悪くないですぅ』って言ってるのがなんとも腹立たしいわ。
所詮ゲームの話と思ってやってる時でも胸くそ悪かったのに、これが現実となるのであればそれどころではない。
本当、理不尽!
思い出しただけで怒りが湧いてくる。
…いけない、思わずヒートアップしてしまった。
エマのせいで無駄に精神力を消耗する必要は無い。
そういえば、クレアから届いていたお茶会の招待状、日にちは明日だったっけ。
ウトウトとしながら頭の片隅で思い出す。
そして私の意識はゆっくりと眠りの海に誘われたのだった。
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