表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

学園ノーベル

作者: 津辻真咲

『ノーベル物理学賞は王連寺梨々花氏』

 新聞にはその記事が一面になっていた。

「いいよな。お前は受賞出来て」

 六角結城ろっかく ゆうきは新聞から目を離すと彼女に言う。

「は!? 君も受賞してたでしょ! 去年! ノーベル化学賞」

 彼女、王連寺梨々おうれんじ りりかは結城に言い返す。が。

「連続受賞を狙っていたんだ」

 結城は淡々と答える。

「ちっ、贅沢な!」

 梨々花は彼を睨む。

「贅沢ではないね。この学園ノーベルに通うくらいならそれぐらい出来て、当たり前だろう?」

 結城は梨々花を見る。

「お前の親友の岸も平和賞二連続だろうに」

 結城は少し、呆れたように言う。すると、梨々花は怒る。

「うるさーい!」ドカーン!

 結城は驚き、椅子ごと後ろに倒れた。

「ったく」

 梨々花は激怒しながら、立ち去る。

「あ、あいつ……」

 結城は倒れた椅子の下敷きになりながら、呆れた。


「先輩! おはようございます」

 後方から、声が聞こえて来た。振り返ると、後輩の古賀亜衣こが あいが笑顔でこちらを見ていた。

「かわいー!」

 梨々花は彼女に抱きつく。

「優しいのは亜衣ちゃんだけだよー!」

「せ、先輩」

 亜衣は少し困惑していた。

「ったく、これだから梨々花はやんなっちゃいますね」

 足元から、声が聞こえて来た。

「へ?」

 梨々花は下を見る。すると、そこには小さなロボットがいた。

「あ、ごめんなさい。次回の機械コンテストの試作品なの」

 亜衣はしゃがみ、そのロボットを抱き上げる。

「へぇ。今度は何を競うの?」

「古くなった気象衛星の落下位置予想」

 亜衣は笑顔で答える。

「どうやってするの!?」

 梨々花は驚く。

「それは企業秘密」

 亜衣は再び、笑顔。

「そっか」

「うん」

 亜衣の笑顔が華やぐ。すると。

「やっぱり、かわいー!」

 梨々花は彼女に抱きついた。

「離れろ! 物理オタク!」

 亜衣の抱えていたロボットが叫んでいた。


「今度は優勝でしょうね?」

 後方から、声がした。振り返ると。

「あ、史乃。どうしたの? 授賞式は?」

「リモート」

 親友の岸史乃きし ふみのは淡々と答える。

「あ、そっか」

「あなたもリモートでしょ」

「ごめん、そうだった」

 梨々花は苦笑いをしながら、答えた。

「ほら。早く教室へ行くよ?」

「あ、うん。今行く。じゃね? 亜衣」

「はい」

 亜衣は史乃と立ち去る梨々花に笑顔で手を振った。


 ヒュ。ドサッ。

――え?

 すると、後方で何か鈍い音がした。梨々花は振り向く。そこには中山和樹なかやま かずき先生の死体があった。

――え!? どういうこと!?

「キャー」

 周囲の生徒が騒ぎ出す。梨々花は上を見る。

――もしかして、屋上から、落ちてきた?

「救急車!」「誰か!」


「まさか、あの中山先生が落ちて来るなんてね」

「怖い。もし、殺人だったら?」

「自殺じゃないの?」

「まだ、捜査中だって」

「そっか」


「色々な噂が飛び交っているね」

 梨々花は史乃に話しかける。しかし。

「そうだな」

 結城が答える。

「……」

「何で君が答えるのよ。私は、史乃に話かけたのに!」

 梨々花は怒る。

「だって、俺、お前の隣の席だし。丸聞こえだ」

 結城は少し、呆れながら、淡々と話す。

「もういい! 揚げ足取り!」ぷい。

「あーあ。怒らせた」

 後ろの席の史乃はにやりと笑う。

「っていうか、お前、何持ってんだ? それ」

 結城は梨々花の手のそれに気付いた。

「え? あ、ほんとだ」

 梨々花は手のひらを開く。

「だから、何なんだよ、それ」

「わかんない」

「は?」

 結城は少し、苛立つ。

「足元に落ちてた、あの現場で」

 梨々花はきょとんと答える。

「ちょっと! それまずいんじゃない!? 現場荒らしてるじゃない!」

 史乃は慌てる。

「え!? そうなの!?」

 梨々花は驚く。

「返して来いよ。俺も行くから」

「だ、誰に?」

 梨々花はパニくる。

「だから、警察だよ!」

 結城は少し、声を荒げる。

「えー! 出来るかな。もし、疑われたら」

「だから、俺も行くから」

 結城は再び、苛立つ。

「そうした方がいいかも」

「ほら見ろ、岸もそう言っているし」

「うん。分かった」

 梨々花は結城と共に教室を出て行った。


「あのー。警察の方ですか?」

 梨々花は尋ねる。

「お前。それ当たり前だろ。制服警官なんだから」

 結城が呆れる。

「そうですね」

 制服警官が答えた。

「刑事さんですか?」

 梨々花は再び、尋ねる。

「んなわけないだろ。どう見ても、人員駆り出されて、現場保存している駐在さんだろ!」

 結城は呆れる。

「そうですね」

 駐在さんは笑顔で答えた。

「どうしようか?」

 梨々花は結城の方を見て言う。

「不安だからって、俺に説明をさせるなよ」

「どうされましたか?」

 駐在の巡査が聞く。

「あの、実は、このバレッタが事件現場に落ちていて」

 梨々花はバレットを見せながら、説明する。

「え!?」

 巡査は少し、驚く。

「足元に落ちていたものを持ってきてしまって。返しに来たんです」

 梨々花は申し訳なさそうにしていた。

「分かりました。刑事さんのところへ案内します」

 巡査は笑顔で案内してくれた。


 ガチャ。ドアが開く。

「どうしましたか?」

 刑事の木村了きむら りょうは椅子から立ち上がりながら、巡査に問う。

「この子たちが捜査一課の刑事さんたちに用があるようで」

「どうした?」

――かくかくしかじか――

 巡査は経緯を説明した。

「なるほど。証拠品かどうか、調べる必要がありそうですね」

 木村はバレットを受け取る。そして、部下の橋本直治はしもと なおはるに指示を出す。

「では、預かります。鑑識呼んで」

「はい」

 橋本は鑑識を呼びに、席を外した。

「君たちは、他の先生の指示にしたがって、教室に」

「はい」

 木村は梨々花たちに優しく、言った。


 廊下

「ここの廊下、向かいの屋上がよく見えるな」

 結城は窓の外を見ながら、言う。

「本当だ」

 梨々花もそちらを見た。

「ん?」

 結城は何かに気付いた。

「どうしたの?」

「争った形跡がある」

 結城は指さす。

「本当、足跡がたくさん」

「警察がげそこんを取ったあとでも、分かるな」

「うん、そうだね」

「犯人は女性かもな。足跡、少し小さいみたいだ」

 結城はそう言う。

「じゃあ、あのバレッタって、犯人が揉み合って?」

 梨々花は結城の顔を見る。

「警察もそう判断しそうだな」

「そうだね」

 かたかたかた、かた。後方から、音がした。

「ん?」

 梨々花は振り返る。

「あれは! 亜衣のロボ3! 何でこんなところに!?」

「いや、違うだろ。これは、ロボ2だろ」

 結城はそのロボ2を持ち上げながら、言う。

「へ?」

 梨々花はきょとんとする。

「いや、新しい試作品のロボ3は古賀が持ってるだろう」

「そっか、それじゃ、このロボは前作の試作品」

「でも、何でこんな所に」

 結城はロボ2をまじまじと眺めながら、言う。

「あ。そうか」

 梨々花は気付く。

「何だ?」

「あの部屋に帰る途中か」

梨々花は呟く様に言う。

「え? どういうことだ?」

「ほら、あの突き当りが亜衣の所属するロボット工学部の部室。みな、あそこで作っているんだ」

 梨々花は指をさす。

「なるほど。帰巣本能みたいなものか。まさか、そんなものが搭載されているなんてな」

 結城は手元のロボ2をまじまじと見る。

「部室空いてるかな? ついでに届けに行こう」

「そうだな」


 ガチャ。ドアを開ける。

「あ。空いてる」

 梨々花は少し。驚き気味。

「さっさと届けるぞ」

「うん」

 ピピ。その音と共にパソコンの電源が入る。そして、画面がつく。

「え!? 自動!?」

 梨々花は驚く。

「そういうふうに改造したんじゃないか?」

 結城は冷静に言う。

「そっか」

 梨々花の視線が動く。すると、彼女は気付く。

「ん? これって!」

「どうした?」

「すごーい。気象衛星の落下予想位置だ」

 梨々花は目を輝かす。

「ったく、脅かすなよ。そんなの練習だろう?」

 目を輝かす梨々花の隣で、結城はあることに気付く。

「ん? 落下予想位置?」

「どうしたの?」

 梨々花は結城の顔を覗き込む。

「梨々花、生徒会室へ行くぞ」

「え!? 何で!?」

 梨々花は結城の言葉に驚く。

「そこには、数学と生物学のスペシャリストがいる!」

「もしかして! 生徒会長と副会長!?」

「あぁ、そうだよ!」

 結城は梨々花の手をひくと、走り出した。


 コンコンコン。ノック音。

「どうぞ」

 中から声がした。結城はドアを開ける。

「失礼します」

「結城君、どうしたのかな?」

 生徒会長の桝明大ます あきひろは彼に聞く。

「生徒会長、副会長、お二人にお聞きしたいことが」

「何?」

 副会長の西辺瑠唯にしべ るいは結城を見る。

「今回の事件のことです」

 結城は答える。すると、明大は笑顔になる。

「詳しく聞かせてもらおうか」

「はい」

「この落下予想位置のロボを応用して、事件のあった位置に人間を別の棟から落下させられますか?」

 結城は聞く。

「分かった。計算しよう」

 明大は黒板の前に立ち、チョークで計算していく。

「瑠唯、人間の体で何か必要事項は?」

 明大は彼女に尋ねる。

「人間の体は、地面に激突しても、バウンドはしない。そのまま地面にとどまる」

「分かった」

 明大はそのまま、計算を続ける。

「それから、当たり前だが、頭部は重い。先に落ちるぞ」

「あぁ、知っている」

 明大は瑠唯の助言を聞き、振り向かずに微笑む。

「できた」

 計算が終わった。

「可能だ」

 明大は結城の方を見る。

「ありがとうございました」

 結城は頭を下げる。

「行こう」

「うん」

 二人は走り去る。

「あれで、犯人が分かるのかな?」

 瑠唯は頬杖をする。

「さぁね。期待するしかないね」

「そうね」

 二人はそれぞれ、口角を上げて、あの二人に期待した。


「犯人が分かったの?」

 梨々花は結城に聞く。

「あぁ。これから、この棟の屋上へ行く。犯人はこの棟から被害者を死に追いやったんだ」

「もしかして、証拠捜し?」

「あぁ、もちろんだとも」


 屋上。ひゅるぅぅぅ。風が吹く。

「何もないね」

 梨々花は辺りを見渡す。

「一足遅かったか」

 結城は落ち込む。

「目星はついてるの?」

 梨々花は聞いてみる。

「あのバレッタ。蝶の形してたよな?」

「うん」

「確か、古賀って、あのバレッタつけてなかったか?」

「あ、そうかも」

 梨々花はそれを思い出す。そして、結城に聞く。

「でも、それがどうしたの?」

「あの落下予想位置ロボも古賀」

「まさか、疑っているの!?」

 梨々花は驚く。

「いいや、逆だ。彼女ははめられている」

「ということは」

 梨々花は恐る恐る聞く。

「あぁ、彼女を犯人に仕立て上げられる人物がいる」

「え!?」

 梨々花は結城の言葉に驚く。

「一体、誰が!?」

 梨々花はまだ、驚きを隠せない。

「古賀の部活の顧問の先生だ」

「!」

 梨々花が驚いていると、後方から声が聞こえた。

「分かってしまったのね」

 振り返ると、顧問の先生、小野景子おの けいこがいた。

「やはり、お前か!」

「そう、犯人は私。まさか、見破られるとはね」

「自首して下さい!」

 梨々花はそう叫ぶ。

「出来るわけないでしょ。今から、あなたたちを殺すのに」

 小野はにやりと笑う。

 バチバチバチ。火花が散った。

――スタンガン!

――そんな!

「安心して? スタンガンで気絶したあとに殺してあげるから、苦しくはないわよ」

 小野は近づいて来る。


「そこまでだ!」

「!?」

 後方から声がした。小野は振り返る。そこには刑事たちがいた。

「どうして!」

 小野は慌てる。

「生徒会長と副会長が教えてくれた! 今回の殺人トリック!」

 刑事、木村は叫ぶ。

「だから、ここが分かったというの!」

「そうだ! もう、観念しろ!」

「くっ!」

 小野の視界に梨々花が入った。そして、スタンガンを捨て、ナイフを取り出した。

 グイッ!

――え?

「梨々花!」

 小野は梨々花を人質に取る。

「もう、諦めろ!」

 刑事たちは銃を向ける。

「離れて! 殺すわよ!」

 小野は叫ぶ。

「……」

 木村は銃で小野の右腕を撃ち抜いた。

「!」

 小野が怯んだ。そして、梨々花を取り逃がした。すると、刑事、橋本は小野の腕を掴み、ナイフを落とす。そして、そのまま制圧した。

 木村は小野の手に手錠をかけた。

「連行しろ」

「はい」

 橋本は、木村の指示に従い、小野を連行する。

「大丈夫かい?」

 木村は梨々花に聞く。

「はい」

 梨々花は答える。

「君も」

 今度は結城に聞く。

「はい。大丈夫です。ケガはありません」

 結城は冷静に答えた。

「それは安心した。君たちにも、あとで事情聴取するから」

「はい」

 木村は立ち去った。


 次の日

「まさか、小野先生が犯人だったなんてね。しかも、古賀さんを犯人に仕立てていたなんて。驚き」

「そうね」

 梨々花は史乃の話に元気なく答える。

「なんか、元気ない?」

 史乃は気にする。

「亜衣がかわいそう。信頼していた先生に裏切られるなんて」

 梨々花は俯いて、呟く。

「心配?」

「うん」

 史乃は梨々花の顔を覗き込む。

「それじゃ、お昼休みに会いに行く?」

 史乃はそう提案した。

「うん」

 梨々花は笑顔になる。

「じゃあ、俺も」

 結城が名乗りを上げる。

「何で!?」

 梨々花は驚く。

「暇つぶし」

 結城はきっぱりと答える。

「はぁ!?」

 梨々花はその言葉に怒った。が。

「やれやれ、仲いいですね」

 隣の史乃に呆れられた。

「それはない!」

 梨々花はそれを即座に否定した。が。

「あら、あなたは否定しないのね。結城君」

「けっ」

 結城はそっぽを向いた。

「ちょっと! 否定しなさいよ!」

 梨々花が怒鳴る。

「うるせー」

 結城は舌を出して、梨々花をおちょくった。それを隣で見ていた史乃はくすくすくすと笑う。

「ちょっと、笑わないで!」

 梨々花は顔を赤くして、困惑した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ