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こぼれ話①トンカツリベンジ


第一部皇都編『第十一章―ルガレドの実力―』と『第十二章―忠臣の帰還―』の間の話となります。


***



「レド様───今日は…、一緒にトンカツを作りませんか…?」


 私が恐る恐る提案すると、レド様は眼を見開いた。


 初めて和食を作った日────すなわち、トンカツを作った日からそんなに日は経っていない。


 いつもなら、同じメニューを作るのは、もう少し時間を置いてからにするところだが────初めてレド様と一緒に和食を作ったのに、あんなことになってしまったので、もう一度トンカツを作って、楽しい思い出に塗り替えたかった。


 それに、あのとき、レド様は嫌な気分を抱えていて、きっとトンカツをちゃんと味わっていない。だから、もう一度食べて欲しいというのもある。


「その…、リゼは───あのときのことを思い出して、嫌な気分になったりしないか…?」

「やっぱり、思い出して…、嫌な気分になってしまいますか?」

「俺は大丈夫だ。リゼが嫌でなければ、作りたい」


 レド様は、無理して言っているわけではなさそうだ。私はほっとして、緊張していた表情を緩めた。


「それなら────今日はトンカツにしましょう」



 オーク肉の赤身と脂身の間にある筋に切り込みを入れてから、レド様と手分けをして、包丁の背で肉を満遍なく叩いていく。


 レド様の方を横目で窺うと、レド様は何だか楽しそうに肉を叩いていて────私は、またもや、ほっとした。


 それだけ確認すると、私は肉を叩くのに没頭した。


 サンドウィッチにする分やストック分も一気に作るつもりなので、肉はかなりの枚数になる。


 レド様も私も一心不乱に叩き続けた。




 肉を叩くのが終わると────次は、塩胡椒を振りかける。


「今日は、ソースではなくお醤油をかけようと思っていますので、夕食の分は塩を前回より控えめにします」

「醤油を?」

「ええ。ソースでも美味しいですけど、お醤油で食べるのも美味しいですよ」

「そうなのか。それは、楽しみだ」


 レド様は、口元に小さな笑みを浮かべた。


「明日は、カツサンドにするつもりです。その…、前回は一緒に作れなかったですし────明日は一緒に作りましょう」

「ああ」


 レド様は、嬉しそうに笑みを深める。私も嬉しくなって、笑みを零した。




 前回は、私以外の分はナイフとフォークだったから、そのままお出ししたけど───今回は、皆お箸で食べるので、予めトンカツを切り分けることにする。


 今回も色鮮やかな狐色に揚がっているトンカツに、ナイフを入れる。


 サク、と衣がいい音を立てた。切り分けると、満遍なく色の変わった肉の断面が露になる。うん、中まで火が通ってる。


 サンルーム産の張りのあるレタスと千切りキャベツを敷き、櫛切りトマトを添えたプレートに、切り分けたトンカツを載せていく。


 次は、ご飯とお味噌汁だ。


 今では、レド様も、ジグとレナスも───お箸だけでなく、ご飯茶碗と木のお椀を使っている。


 皆の分のご飯とお味噌汁をよそっていると、何だか懐かしいような───不思議なような気分になって、私は口元を緩めた。


「リゼ?」

「あ、ごめんなさい、レド様。何でもないんです」


 ジグとレナスの分は、私が【潜在記憶(アニマ・レコード)】から創り出した───“給食”のときに使うようなスクエア型の一人用のお盆に、それぞれ載せる。


 これまた【潜在記憶(アニマ・レコード)】から創り出した、二つの小さな“お醤油さし”にお醤油を入れると、ジグとレナス用に一つだけお盆に置いた。


「ジグ、レナス、夕飯ができたので、取りに来てください」


 私が声をかけると、すぐさま、ジグとレナスが目の前に現れた。


「やった、トンカツだ」


 レナスが嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、言う。レナスのその様子に私も嬉しくなったが────表情に出さないように気を付ける。


 私はお盆を持ち上げ、レナスの方が近かかったので────それをレナスに渡そうとすると、横からジグがさっとお盆を取り上げた。


 レナスが、ちょっと怪訝そうにジグを見る。


「ありがとうございます、リゼラ様」


 ジグはレナスの視線など気にせず、いつもより少し柔らかい声で、私にお礼を言った。


 どうやら、ジグはレナスに渡そうとしたトンカツの方が良かったようだ。

 なるべく大きさを揃えたつもりだったけど、ジグには違って見えたのかもしれない。


「いえ」


 レナスほどではないにしても、嬉しそうな雰囲気を醸すジグに、笑みを零してしまわないよう、ただ頷いた。


 レナスにも、残った方のトンカツを渡すと、レナスはすごく嬉しそうに受け取ってくれた。


「ありがとうございます、リゼラ様」

「いえ」


 私は、ただ首を振る。



「ジグ、レナス?俺も一緒に作ったんだが?」


 レド様が不満げに、口を挟んだ。


「どうせ、ちょっと手伝っただけでしょう。それに、オレたちの食材はリゼラ様が負担してくれているはずですよ」


 レナスは、ジト眼でレド様に返す。


「そんなことないですよ。レド様には覚えてもらうつもりで、色々とやってもらいましたから」

「…そうなんですか?まあ、リゼラ様がそう言うなら────ありがとうございます、ルガレド様」

「何か、不服そうなのが気になるが…、まあ、いい」


 レド様がジグに視線を向けるが、ジグは何も言わない。


「ジグ?」


 痺れを切らせたレド様が声をかけると、ジグはしれっと答えた。


「自分のは、リゼラ様が作ってくださったトンカツですので」


「「は?」」


 レド様とレナスの声がハモる。


「ですから────レナスの方はルガレド様が手伝ったトンカツですが、自分のはリゼラ様が作ってくださったトンカツですので」

「あっ、てめぇ、それでさっき…!」


 ああ、それで、そっちのトンカツの方が良かったんだ。


 でも、別にレド様が手伝ってくれたからといって、変わりはないと思うけど。レド様は作り慣れていないから、不安だったのかな。


 それにしても────


「すごいですね、ジグ。上からずっと見ていたとはいえ、よく見分けられましたね」


 私たちの護衛のために、ずっと見ていたからって、すごいと思う。


「ええ、まあ。そちらはリゼラ様が作ったもので、こちらはルガレド様が手伝ったものです」


 ジグは満更でもなさそうに───私とレド様のトンカツに関しても、教えてくれた。


 レド様の席に置いた方が、レド様が手伝ってくれたトンカツで───私の席に置いた方は、私が自分一人で作ったトンカツらしい。


「それでは、有難くいただいていきます、リゼラ様」


 ジグはそう言い置いて、さっさと厨房を出て行った。


「あ、待て!ジグ、この野郎…!────リゼラ様、いただきます!」


 レナスもそう叫びながら、ジグの後を追って出て行く。


「ふふ…」


 仲が良さそうな二人に、思わず笑みが漏れて────私は、はっとする。

 あ、でも、ジグもレナスももういないし、大丈夫だよね…?


 恐る恐るレド様を伺うと────レド様は、眉を寄せて、何だか難しい顔をしている。


「あの…、レド様…」


「リゼ────もしかして…、あの二人の前では笑わないようにしているのか…?」


 言いかけた私を遮って、レド様が訊く。どう答えればいいのか解らないでいると、レド様の表情が曇った。


「すまない、リゼ。俺のせいだよな…。俺が────サンルームで、あんなことを言ったから…」


「!」


 口を開こうとした私を、レド様が制した。


「リゼ、そんなことはしなくていい。ジグとレナスの前でも───他の誰かの前でも…、笑いたくなったら笑ってもいいんだ」


「でも…」

「大丈夫だ。もう不安になったりしない。それに────それよりも、俺のせいで、リゼが我慢することの方が嫌だ。だから────笑うのを我慢したりしないでくれ」


「でも…、本当に────大丈夫ですか…?」


「ああ、本当に大丈夫だ。リゼが一番大事なのは…、ジグでもレナスでもなく、他の誰でもなく────俺なんだろう?だったら────リゼが誰に笑いかけようと、大丈夫だ」


 レド様は、私の頬にその大きな手を添えて、朗らかに笑った。

 その笑顔に嬉しくなって、私も笑みを返す。


「まあ───リゼが笑みを見せてしまっても、こっちでどうにかすればいいだけの話だしな…」

「え?」


 レド様が呟いた言葉が聞き取れなくて、聞き返したけれど────レド様は、にこやかに笑うだけで繰り返してはくれなかった。


 きっと大したことではないのだろう。


「ほら、リゼ。冷めないうちに食べよう」

「そうですね。そうだ───レド様、トンカツを交換しませんか?私、レド様が手伝ってくださった方をいただきたいです」

「いいな。俺も、リゼが作ってくれた方を食べたい」

「ふふ、では、そうしましょう」


 これから始まる楽しい食事に、私の声音も弾んだ。



***


 これは、元々、『第十一章―ルガレドの実力―』に組み込むつもりでした。この章は熱が出ていることに自覚がないまま執筆したために、投稿してからタブレットで読み返して初めて、書くつもりだったエピソードや説明が色々と抜けていることに気づいて慌てた───という経緯があります。


 後から書き加えようかとも考えましたが、読み直してもらってまで必要なエピソードではないかなと思い、やめました。

 しかし、リゼラがルガレド以外の男性と接するシーンを書いていると、リゼラの性分ならルガレドの気持ちを慮って談笑するなんてできないよな───と、どうしても考えてしまい、やっぱり書くことにしました。


 それにしても、この話───何だかルガレドが器の小さい男になってしまっている気がします。それに、ジグもどこか変態っぽい…。


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