えんぴつは恋心の指針になりえるのか?
例えばの話なんだけど。
新品の鉛筆が一本あったとして、使わないのにペンケースにずっと入れておくってどう思う?
いざという時の予備?テストの時は鉛筆だし。
いやぁでも中学3年間入れっぱなしなんですよ、玄太郎君。
削られていないとはいえあちこち傷だらけなんですけど。
「すずなちゃん、その答えわかってるのに私に聞く?」
まえちゃん、そんな事言わずに友だちとして、考えを聞かせてほしいのよ。
「玄太郎君の好きだった人が小6の担任の先生で、卒業記念にクラス全員にプレゼントしてくれた鉛筆をお守りの代わりにしているというか、好きだった人からもらった物を大切にしてるだけでしょうよ。」
流石まえちゃん、私と同じ意見で良かった。
「というか、私としてはそんな玄太郎君が小学生の頃からずっと好きで『やったぁ、おそろい☆』とかいう気持ちで自分もその鉛筆を使わずに大切にペンケースにしまっているすずなちゃんもどうなのよ。」
ま、いいじゃないの。あの時のクラスのみんな(まえちゃんを含む)があの鉛筆を使いきる中で私と玄太郎君だけまだ新品なのって凄くない?
「・・・もう、いっそ告白しちゃえば?」
無理。
「どうして?」
だって、あの鉛筆を大事にしている限り、玄太郎君は先生の事、まだ好きって事じゃない?
ぶっちゃけ先生の事を一途に思っている玄太郎君がかっこいいな、と思うわけでさ、ここで私の事を好きになってほしいかとと言うとちょっと違うような…。
「それって玄太郎君の事本気で好きじゃないって事?」
ううん、好きだよ、絶対好き。幸せになってほしいし、ずっと笑っていてほしいし。
でも小学校の時の、あの絶対に叶わない事確定の恋をして切ない目で先生を見ていた玄太郎君もいいな、って思う。
「…重症。」
やだなぁ、もう!あ、そろそろ掃除の時間だ。私、昇降口の当番だから行ってくるね!
「はいはい。…ふぅ。」
「あれ、前田?すずなは?」
「もう掃除場所に行ったよ?玄太郎君も行きなよ。」
「おう。」
「…バカだよねぇ、どうすんの、これ。卒業までになんとかなる?」
玄太郎君があの鉛筆を使わない理由、誰かすずなちゃんに教えてよ。
自分の辛い恋を一生懸命応援して見守ってくれたすずなちゃんの事いつの間にか好きになって、いつまでも一緒に同じものを持っていたいから、なんていう痛い理由だって。