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第3話 ギャル白奈、レンタル彼女の夏乃に会う

「初めまして……えーと……」

「楓原白奈です……」

「白奈さん。柚木夏乃です。今日はよろしくお願いします」

「よろしく~」


白奈は短くそう言うと、俺の袖を引っ張った。


「晴幸くん! 絶対嘘でしょ! 夏乃ちゃんめっちゃかわいいんですけど!!」


俺はにやりと笑って首を振った。


「なら聞いてみるといい」


どや顔でそう言うと、白奈はむっとした表情で袖を放す。


「二人はどこで出会ったの?」


白奈の質問に、夏乃さんは恍惚とした表情で答える。


「田舎のドブです」

「ドブってそんなわけないでしょ~」

「私がドブにはまってしまったとき、偶然晴幸くんに助けてもらって」


白奈の顔は歪んでいた。

おちょぼ口になって、肺に溜まった空気を吐き出したそうだった。


「本当です!!」


必死にそう言う夏乃さん。

ついに白奈は吹き出した。


「ドブって!! まさか! 冗談はやめてよね! この間の話、まだ引きずるの!」


腹を抱えて笑っている白奈。

ラノベの知識で対処しようとしたのが悪かったのだ。

白奈に偽の彼女だとバレてしまったのか……?


「本当です!! 青天の日で、キラキラした田んぼと山の美しさに見惚れてしまい、前に進んでしまったところドブに落ちちゃったんです。そこに晴幸くんがきて……」


すると夏乃さんは、少し恥ずかしそうに俯いた。


「助けてもらったんです……かっこよかったです」


凄い演技だ。

まるで名女優のような演技をしてくれた夏乃さんのおかげで、白奈は真顔になった。


「でも、晴幸君平凡な顔してるし、テストの結果も平凡だし、体育祭でやったサッカーでボールからぶってたし……平凡だし平凡だし平凡だしオタクだしオタクだし? え? ええええええええええ!!」


白奈は動揺して体をブンブンと前後左右に動かした。


「嘘! 絶対嘘!! 春幸くんに、こんなかわいい彼女がいるなんて嘘だもん!」

「だから言ったろ! 可愛い彼女しか見えないんだよ」


どや顔でそう言う。勝った。


「俺の勝ちだ、白奈ァァ!!!」

「そんなっ! 嘘嘘! 夏乃ちゃん、晴幸君のどこがいいの?」

「全部です♡」


白奈は愕然とした。

無表情で立ち尽くしている白奈を見ていると、俺の中で『からかいたい欲』が湧き起こってくる。


「オタクで平凡な俺をからかうのはやめるんだな! 晴幸17歳、高校生は彼女がいるんだよ! そりゃー会うたびに裸で愛し合う仲さ」

「それって……せ、せっ」

「聞こえないなぁ!」

「うっ……せ、セックジュ!!! って言えるわけないでしょ!」

「白奈さん、セック〇ですよ」


ドストレートだった。

清楚系の夏乃さんには相応しくない言葉だった。


今なんて? 嘘だろ! 夏乃さんってもしかして経験豊富なのか!?

少なくとも白奈や俺よりも、未来に生きているに違いない。


俺は尊敬のまなざしで夏乃さんを見る。

夏乃さんは声を発せずに、唇を動かした。


『よかったですね!』


微笑んでいやがる。


これが経験者の余裕ってやつなのか……??


「白奈さん。白奈さんは経験があるのですか?」

「……っえ!? そ、そ、そりゃーまぁ……」

「そうですよね? だって、晴幸くんから聞いてましたよ。彼氏さんがいるとか」

「そりゃー女子高生だし! い、いて当然というか」

「じゃあキスってどんな味か知ってますか?」

「キ、キスね! 当然知っているよ! えーと……イチゴ! リップ付けてたからさ~当然と言うか」

「じゃあ、最終段階はどんな感じですか?」


俺はその質問を聞いた途端、胸が高鳴った。

最終奥義ってのは、一体‥‥…

どういう形なんだ。

不覚にも白奈が最終奥義を行おうとしているところを想像してしまう。


技と技のぶつかり合い。

極限までぶつかり合った先には、何があるんだ。


「さ、最終段階……」


白奈は口を閉じた。


「最終段階は……最終の、段階は、それは、最終の段階で……」

「白奈さんは未経験者だってことですね」

「クッ……ち、違うもん! 私だって最終奥義くらい持ってるし」


俺と同じことを言ってやがる。

つまり、多分白奈は未経験者だ。


今までの悪戯は何だったのか。

何故自分は真っ白なのに、俺に悪戯をしていたのか。


自分だって経験がなかったくせに!

むしゃくしゃしてきた。

負の感情が湧きおこったとき、夏乃さんは、微笑んで白奈の口に人差し指を当てた。


「聞いてください。あれは1年前の夏。湿度のせいで入道雲がはっきり見えない夏の日。向日葵が汗をかきそうな夏の日です」

「向日葵って汗かくの?」


すると夏乃さんは、また口に人差し指を当てた。


「田舎の古い家ってどういう形か知ってますか? 山の中にあって、庭が見える縁側があるんです。そこで、風鈴がなる中、最終奥義が起こりました」


ごくり。


「最終、奥義……」

「そう、最終奥義です。全てが無となる必殺技です。風鈴の音が奥義後の体を優しくすずめてくれます。あれほどの気持のよい瞬間はないでしょう」


夏乃さんはそう言って、白奈の耳に両手を被せて近寄った。


「……え?」


夏乃さんが何を言ったのか分からないけど、白奈の顔は真っ赤に染まっていた。


「何を言ったの?」


平静を装いながら俺はそう言うと、夏乃さんは小悪魔な笑みを浮かべた。


「内緒です!」


見る男を恋に落としそうな笑み。

口がぽかーんと開いているのを、再度意識するのは白奈の姿が視界に入ってきた時だった。


ぽかり。


むっとした表情をした白奈は、俺の胸を軽く叩いた。


「見惚れすぎじゃない! 晴幸くんのくせに!」


いつも通りの白奈に戻っていた。

白奈は腕を組みながら、頬を膨らませた。


俺はそんな白奈を見て、溜息をついた。


「あのさ楓原。まだ俺を弄るのかよ」

「楓原じゃなくて、白奈でしょ」

「……そこかよ!」


思わず大声で突っ込んだ。


「だって幼馴染で、一応だし。だから、白奈って言うのが普通じゃない?」

「そ、そうなのか……?」


俺は今まで白奈のことを、楓原と呼んできた。

幼馴染とはいえ、アニメやラノベのような超絶仲が良い関係ではないからだ。


いわば、隣の家に住んでいるだけの同級生。

生活音やたまに変な声も聞こえてくるが、ただそれだけの関係だ。


そんな白奈に、白奈と呼んでいいのか。

アニメやラノベでは、下の名前で呼ぶ女の子は、ある程度主人公と親しい関係だ。


「いいから白奈ってよんでよ」

「……え、あ、うん分かったよ白奈」


なんか妙に艶っぽいな。

なんてことを考えていると、夏乃さんは俺の腕に絡まり付いてきた。


「これからどうしましょうか?」


石鹸のいい匂いと柔らかい感触。


最高かよ。


「晴幸くん、彼女できたからって鼻の下のばしすぎ! 下心あると夏乃ちゃんに嫌がられるよ?」

「大丈夫ですよ」


すると白奈はグヌヌヌと歯を歪めた。


「ゲーム! ゲームをしない! 喫茶店で!」


切れ切れの単語だった。


「出会ったばかりでゲームはなぁ」

「いいですよ!」


俺の言葉を遮るように、夏乃さんは微笑んだ。


「ゲーム楽しそうじゃないですか。でも、喫茶店にゲームはあるのでしょうか?」

「それなら大丈夫! ビデオゲームじゃないから!」


自信満々にそう言う白奈は、ポケットからスマートフォンを取り出した。


「王様ゲーム!!」


王様ゲーム。

合コンとかでやるやつだ、俺でも聞いたことがある。


「却下」

「なんで!」

「だって、勝者の命令を敗者は聞かなければならないんだろ? 却下だ」


白奈のとんでもない命令なんて聞いてられないからな。


「晴幸くんゲームもざっこいのー! ざーこざーこ♡いわれたくもないし」

「そんなこと流石にいわないよ! 何想像してるのざーこ♡」


白奈は吸血鬼のような犬歯をむき出しにして笑っていた。


「白奈さんってお人形さんみたいで可愛いですね」


夏乃さんは小声で囁く。


俺にとってはただ厄介な幼馴染。

ただ、夏乃さんの言葉を否定する気にはなれなかったので、黙って頷いた。


「二人で何話してるの?」

「いや別に」

「ふーん、まぁいいや。それよりルールを先に説明するね」


1.王様ゲームスマホ版をプレイ

2.勝者は敗者にディスプレイに表示された罰を与える


というモノで、いつの間にか俺たちは白奈の空気に飲まれてゲームをすることになっていた。

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