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第2話 レンタル彼女柚希夏乃

いよいよ土日。

どうにかしてその町一番のレンタル彼女を借りた俺は、近場の駅前で当人と待ち合わせをしていた。


「え~とプロフプロフ」


俺は彼女の情報をもう一度確認する。

柚木夏乃ゆずきなつの。本日からの美少女新人! 18歳のピチピチ』


歳が一番近く高校生らしいので、柚木さんにしたが、残念ながらどんなに目を凝らしてもモザイクがかかっていて顔が見れない。


「不安だ……」


あれだけ大口をたたいたんだ。せめて普通レベルじゃないと、またしても俺は小悪魔なあいつにからかわれてしまう。

影でこそっと言われるんだ。


『うわぁ‥…あれだけ大口叩いていたのに、私の方がかわいいじゃん! マジ雑魚!プププ』


それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。

顔面蒼白。炎天下だというのに、冷や汗のせいで涼しく感じられた。


「え―と……晴幸君ですよね?」


少し前かがみの姿勢でこちらを見ている黒髪美少女がいた。

少しだけ垢ぬけていない田舎美少女みたいな感じの子だ。


「え? はい。もしかして柚木夏乃ゆずきなつのさん……?」

「はい。初めまして柚希夏乃です。よろしくお願いします」


ちょこんと頭を下げた夏乃さんは、少し幼く感じた。

俺がいつも見ている上級生とは思えない。

感覚でしかないのだが、顔が少しだけ幼さが残っているような気がした。

2年生の俺が言うのも変だが。


「それでえーと……これからどうしましょうか?」


夏乃さんは、少しだけ首をかしげる。

俺はそのかわいらしい表情を見て、勝ちを確信した。

いける、いけるぞ。

夏乃さんが俺の彼女なら、あのドSな白奈にマウント返しができる。


「あ、えーと俺の彼女を演じてほしいんです。ちょっと厄介なあまり仲が良くない幼馴染がいて、俺をからかってくるので、それで」

「仕返しですか?」

「そこまでじゃないですけど、俺もからかいたいんですよ。俺にだって可愛い彼女がいるんだってところ見せつけてやりたいんです」


すると夏乃さんは、力強く頷く。


「分かりました。見返してやりましょう! 陰の力を……えーとその……がんばりましょう!!」

「陰?」

「陰の力が必要、そうつまりレンカノとして一生懸命頑張るってことです」

「よくわかりませんが、よろしくお願いします」


俺は頭を下げると、夏乃さんの厳しい声が聞こえてきた。


「晴幸くん。そんなことしてたら、本当の彼女じゃないみたい」

「た、たしかに。すみません」

「敬語もおかしいと思う」

「……あ、そっか。でも、敬語を使う彼女って紹介しちゃったんです」

「じゃあ私だけ敬語を使いますね」

「お願いします。じゃなくてお願い」


俺はそう訂正すると、もう1点、夏乃さんに伝えなきゃいけないことを思い出した。


「その、去年の夏にドブに落ちた夏乃さんを助けて付き合い始めたって展開で、そのよ、よろしく」

「ド、ドブ!? ドブってあのドブですか?」


不思議そうに顔を横に傾けた夏乃さん。


「その、女の子との出会い方が分からなくて。ドブにはまっている女の子を助けたら理想的かなと」

「少々奇妙な出会い方ですけど……わ、分かりました」


スラスラとそう言う夏乃さんだが、動揺しているのか目が泳いでいた。

やはりこの出会い方はおかしいかったのだ。

ラノベでのせいで苦労する俺、17歳。


ドブは無かったか。汚いしな。


「入道雲モクモクの夏。ドブにはまった私は、姿勢を維持できずに倒れてしまいます。そこにやってくる晴幸くん。『大丈夫?』と手を差し出す」

「……え?」

「『ばあちゃんち近いんだ。服貸すよ』そう言う晴幸くんは、私の手を強引につかむ。家に着くと、家族はいない。二人だけの夏が今始まるって感じですね」

「多分そんな感じで」


少し変わった人だなと思いつつも、否定する気にもなれずに適当にそう言うと


「いい出会い方ですね。趣があって」

「ドブから始まる恋愛生活ですけどね」

「でもドブも素敵です。ドブってあぜ道とかにあるんですよね?」

「多分……」

「想像してみてください。炎天下、田んぼの近くにあるドブですよ。綺麗ですよ」

「た、たしかに!?」


俺は相槌を打つが、言っていることは全く分からなかった。

でも俺と夏乃さんでは、想像力に違いがあることは容易に分かった。


俺が想像できない領域まで、しっかりと想像したうえでそう判断したのだ。


「ああ、素敵な出会い方ですね」


恍惚とした表情でそういう夏乃さんは、急に穏やかな表情で御辞儀をした。

何事かと思い、振り向くと白奈が目を丸くして立っていた。

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