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大学生になっても買うもの

  ✰    ○    ✰


「懐かしいなあ」


「ね」


 大学内にできた新しいカフェ。小さい丸い机と椅子。


 そこで僕は、菜夢と一緒に一つのパソコンを見ていた。


 一緒に大学の課題をやっていたはずなのに、つい、昔の努力の成果を振り返りにいってしまったのだ。


 菜夢と付き合い始めてからはもう一年経っている。


 予定が合えば毎日一緒に大学で過ごしてるし、デートにも色々と行ったし、一緒に泊まったことも何回もあるし。


 当然絆は、この、観光発信部の時よりも深いはずだけど。


 でもなんか再体験したくなる。


 あの、二人で水族館に通っていた時のあたりを。


「最近……大学周辺以外の近場のデート、してないね」


「そうだな」


「水族館、行かない?」


「いいね」


「明日二人とも午前しか授業ないでしょ。明日行こうよー」


「わかった」


 久々だ。水族館なんて。でも、また特別な気持ちになりそうだ。


 なんて言っても、菜夢と僕が、お互いの小さな魅力を見つけて、伝え合えた場所だからだ。


「ま、今は今日締め切りの課題やんないとだね」


「ほんとだよな。つい全部の記事を読みたいと思って、時間を使い過ぎた」


「……でもなんか思い出せて嬉しい。なんか私、あの水族館に行ってた時から、好きだったなあ。先輩が」


「僕も、菜夢が好きだったなあ」


「ふふっ。じゃあよかったっ。二人でまた行けて。ちゃんと付き合ってるし」


 そう言って菜夢は、僕に身体をくっつけつつ腕も握って、僕の頬を指先で小さくいじったりした。




 あの時と違ってもう高校生の料金ではなくて大人の料金。


 しかも年パスは持ってないのでチケットを買った。


 だからまるで、初めて水族館に来た小さな子のように、チケットに描かれているウミガメを眺めたりしていた。


「だいぶ展示の雰囲気とか、いる生き物とかも変わってるみたいだね」


「そうだな。特に最近は深海の生物がどんどん増えてるみたい」


「へー、あれだ、あのすごく大きいやつ。あのダンゴムシみのある」


「ダイオウグソクムシとか」


「それそれ!」


「それもいたはずだよ」


「ああいうの、実は可愛いじゃん。ちゃんと見た人だけ可愛いってわかるところが好き。ま、先輩も同じだけどね」


「……?」


「つまりは先輩も、ずっと一緒にいる私は可愛いって知ってるってこと!」


「可愛いんだね僕は」


「そう、ポジティブを総合的に合体させたかわいさとして考えると、まあ、とにかく私の好みってことだよ。あ、言うと恥ずかしいね、はいはやく入場するよ」


 急に菜夢が受付へと走り出した。


 もう入場前から、珊瑚礁が見える。


 はやくあそこに二人で突入したい。


 そして一緒にたくさん話しながら、ゆっくり、ほんとすごくゆっくり回りたいな。


 僕はそう思ったから、菜夢の後を追った。


 チケットを切ってもらって、望みの珊瑚礁の空間へ。


 その空間はいろんな環境の海、そして川へと繋がっていた。


 そんなつながりを二人で体感しようと誓うように、僕たちは手を繋ぐ。


 ものすごく離したくない。


 もっといちゃいちゃした雰囲気になることなんて、きっと色んなところである。


 だけど、ここで僕たちは会って、そして色々想いを生み出して、伝え合いもしたから。


 緊張するし、一番、菜夢が好きって叫べる場所。


 でも実際叫べないから、手を握って、そして鼓動か、熱か、それか指の動きを通して叫びを伝えるのだ。


 そんなことをしながら水族館を回っていくだけで、結論は出てしまう。



 餌やりショーがもうすぐ始まる大きな水槽の前で。


 子供たちが餌がどんなのか予想し合ってたり、高校生カップルが見つめ合いながら待っていたり。


 そんな中、僕たちも繋いだ手を整えて、そして口をひらいた。


 二人とも言いたいことは同じかも。


「なんか……チケット今日買っちゃったけど……」


「年パス買おっか」


「うん」


 水槽の水が動き出し波が起き、そして菜夢と僕たちの前で、懐かしく思えるに違いない、餌やりショーが始まった。


お読みいただきありがとうございます!

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