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また水族館に来た

 だけどその次の日に、僕は自ら、あの女の子に会いに行ってしまったのだ。


 第二文化部棟なんていう、行ったこともないところへ歩く僕。


 この建物のどこかに、観光発信部がある。


 どこかな。


 建物の中に入りさらに歩き回る。


 案内図もなくて、なんか小さな文化部がこっそり活動してる感じで、探すのが難しそうだ。


 と思ったけど運がよくて、ちょうど扉に観光発信部と書かれた部屋があった。


 扉の中は見えない。


 けど、いるかな、昨日会った、女の子。


 どうしてそこまで女の子に会えるのを期待しているのか。


 それを自分で考える前に、もう扉をノックしてしまっていた。


 そしてすぐに出でくる女の子。


「あ、昨日の先輩……ですね」


「うん」


「あ、もしかしてですけど、観光発信部に興味あったりするってことですか!」


「そう、だねうん」


「おおお。ならもうぜひ一緒に活動しましょう。めっちゃ狭いけど一人じゃ空きまくりの部室にお入りください」


 僕は女の子にそう歓迎されて、観光発信部の部室に入った。




「いやでもそれにしても、たまたま水族館で会った先輩がこうして来てくださるなんて……あ、私は美堀菜夢といいます」


「僕は、棚町優夜です」


「はい、そうですよね」


「あれ、名前知ってた?」


「あ、いえ……」


「そうか」


「あ、じゃあこの部室の紹介とかしますね。でそれで、もし楽しそうであればぜひ正式に入部してくださると、嬉しいです」


「うん、ありがとう」


「まずは……どこからでしょうかねー。あ、これは記事を書くための部のパソコン。あとはこの掲示板に貼ってあるのが、まだ複数部員がいた頃の活動写真ですね。あとそれと、この記録帳が今まで行ったところのリストと取材メモなどで……」


 女の子は色々と説明してくれて、僕も興味がすごく出た。


 そして……。


 そうだ。やっぱり魔法使いのような部屋だな、と大げさに言えば思えた。


 まあそういう変な例えは置いておこう。


「入りたいな」


「え? ほんとですか? 今地味な紹介しかできてないところなんですけど、ほんとに入ってくれるんですか?」


「うん」


 少し、いやとても。こういうことが僕はしたい。今。




 そしてそれから、なんとまた水族館に来てしまった。


「今日もまた、記事のネタ集めをしたかったんです。年パスも持ってますし」


「そうだね」


 僕はうなずき、昨日と少し違うかもしれない、大きな水槽を眺めた。


「今日からこの大きい水槽に、コブダイの幼魚が入ったらしいんですよ」


「あ、そうなの?」


 どうやらほんとに違うところがあったみたいだ。


「というわけでたくさんのお魚の中からコブダイの子供を見つけたいです」


「見つけたいね。写真はどんな感じなの?」


「水族館のホームページによれば、こんな感じらしいです」


「おお、大人のコブダイとは全然違うんだね」


「そうなんです。そこが面白いですよねー」


 そういいながら大きな水槽の周りを回っていく美堀さん。


 僕はその美堀さんが歩いたルートをたどった。


「そういえば……先輩」


「うん」


「前に入ってた部活って、美術部ですか?」


「よくわかったね」


「見たことあったんですよね。先輩の名前を。市の展覧会でしたかね。あれも観光発信部の取材で行ったんですよ。まあもっともその時も一人でした」


「ああ……その時に。てことは去年の終わりかな。まあ……その時は、きっと美堀さんとは正反対のことをしていたんだと思う」


「……」


 そして水とマッチするBGMが響く。


「あ、あれかな、コブダイの幼魚」


「あ、あれです! よし動画撮らないと……」


 美堀さんがスマホのカメラを水槽の中に向ける。


 ちょっと離れたところからそれを見れば、ダイビング好きな女の子みたいだ。


 美堀さんのノリで見ると、魚がゆっくり泳いでるように感じるし、魚じゃない生き物だって、ちゃんと目に留まる。


「結構ちゃんと撮れましたよ。ほら」


 美堀さんが撮れた動画を僕にも見えるように近づいて再生。


「お、すごい」


「もうこれは記事にしたいですね。コブダイも豆知識も添えて。あと他にも……あ、先輩は、なんか記事にしたいことありますか?」


「うーんと、あー。僕は……もう少し考えるよ。まあ水族館の中見ながら何か思いつくかもしれないし」


「わかりました。なんでも言ってください!」


「ありがとう」


 僕は笑った。


 なんだか僕も少しはね、思い出してきた。


 何もないように見えてたくさん見どころがある。そんなことに気づくと、すごく楽しいって。


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