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水族館で出会った後輩

お読みいただきありがとうございます。


本作は全6話完結の予定です。もしよろしければこれからもお読みいただけたら嬉しいです。

 さて、陰キャが一人で涼しく楽しく過ごせる場所とはどこだろうか、と考えて、水族館と結論を出した僕は馬鹿だろうか。


 馬鹿だねうんほんとに。


 僕はため息をついた。


 この辺の湾にいる魚をたくさん飼っている、すごく大きい水槽。


 そこの一番底を、のんびり座って眺めていた。


 もうすぐ、この水槽に飼育員の人が潜って、餌やりショーをしてくれるらしい。


 というかもう餌やりショーの流れもよくわかってしまっているが。


 今日で水族館に来るの五回目だし。


 なんで五回も来ているのかというと、年パスのもとをとるためである。


 なぜ年パスを買ったかといえば、冒頭の通りである。


 まあしかし、水族館というのは子供達やらカップルやらで騒がしいので、全然ゆっくりできない。


 近所にあるとはいえ、わざわざ何度も一人で来ても、ただ体力が消えていくだけだ。


 しかしそんな僕のネガティヴさはものすごい力によってふっ飛ばされる。


 といっても僕の隣にムキムキの人が来たわけではなくて、いやむしろすごく小柄な人が来た。


 女の子。


 可愛い。


 まあそれくらいなら、おお、可愛いなあ、と思うだけなんだけど、女の子は制服を着ていた。


 僕と同じ高校の。


 そして一人。


 まさか僕以外にぼっち水族館タイプな高校生がいたとは。


「……? あ、同じ高校」


 女の子がこっちを見てつぶやいた。あ、魚がいるみたいなくらいのテンション。


「こんにちは」


 とりあえずお昼の挨拶をしてみる。


 まあ水族館の中は暗いし、こんばんは説もあるよな。もう夕方だし。


「……年パス! ですか」


 僕の首から下がっているカードを見て、女の子はびっくりしていた。あ、すごい変な魚がいるみたいなノリだ。


 しかしびっくりしたのは僕もで。


 だって女の子も年パスを首にかけていた。


「年パスですね」


「そうです私も買いました。あの……何年生ですか?」


「高二です」


「あ、私は高一です」


 そしてイワシの群れが僕たちの前を通る。


 いつも水面付近にいがちなのに、下の方を珍しく通ったようである。


「この水族館が……好きなんですか?」


 僕は訊いてみた。なぜ訊いたかといえば、僕と違って女の子は退屈そうでは全然なかったからである。


「好きです。今度部活のテーマにしようと思いまして。まあ部活……部員一人なんで個人活動ですけど」


「部活……何部なんですか?」


「あ、あの私後輩なんで、タメ語というかなんでもお好きな口調でお願いします。あ、それで、部活は観光発信部です。この街の観光地を発信するサイトや新聞を作る部活……が潰れる寸前ですね」


「なるほど」


 部活が多い我が高校には、絶滅しそうな、それこそ魚だったら水族館で繁殖を本気で研究しそうな、そんな部活もたくさんある。


 その一つとして、観光発信部があるんだろう。


「どんなこと取材してるの?」


「うーんと、ウェブサイト送った方が早いのであー、どうしようかな、なんかメールでもメッセージアプリでも……」


「はい、あ、じゃあこれで……」


 この水族館史上最もまともな理由で、出会ったばかりの女の子と連絡先交換をしている僕。


 そう思う根拠は大してないけど、少なくともこの水族館の五回の訪問の間だけで、世の中ナンパたくさんあるんだねえ、と感じるくらいではあった。


 まあそれはいいか今は。


 早速友達登録したばかりのアカウントから、サイトのアドレスが送られてきた。


 開いてみる。


「おお、なんか見やすい」


「先輩たちのデザインの成果ですから。私はサイトの更新しかしてません」


 そう謙遜する女の子。だけど、一人でこのサイトを潰さないために部活を続けてるとしたら、すごい。


 水族館でいろんな生き物見てると、みんなすごい生態で、全部の生き物に対してすごい認定が可能だ。だけど人間という謎な生き物は、すごい人とすごくない人がいる、というのが僕の最近の調査の結論である。調査なんもしてないけど。


 僕はサイトの最新の記事を、何個か見ていった。


 水族館のことが連載形式で綴られていた。


 注目の魚とか、穴場の展示とか、床のわかりやすい表示とか、魚のキャラクターの由来とか。


 そっか。僕が退屈してたこの空間も、目の前の可愛い女の子には、こんなすごい面白い場所だって思われていたのか。


 すごい。


 そしてこういう記事を読むと、やっとのことで僕も退屈しなくなってくるのだ。


「今から始まるのって、餌やりショーですよね?」


「うん」


 小さく話しかけてくる女の子に、僕はうなずいて、そして水槽を見渡した。


 上から来る光か照明のせいか、さっきよりも水面が明るい気がした。



 それから二人で餌やりショーを見て、そして僕と女の子は別れた。



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