純文学に傾倒しているカップルの会話
「今宵、晴れた夜空に浮かぶはずの満月も、傍らに君の温もりを感じつつ共に眺めることができないのなら闇に塗りつぶされた朔と何等変わらず虚しさに襲われるだけだ。絵の中に描かれた玉兎が光を放たぬように、僕の心を明るく照らすことは決して叶わないだろう(今晩、家行ってもいい?)」
「見えない自由の翼の羽ばたきを夜の静寂に響かせて、あらゆるしがらみを過去へと置き去りにしたい。二人占めの世界を探す果てしない冒険へと踏み出そう(今日は親いるし、久々にどこか遊びにいきたいな)」
「居心地のいい温かな暗闇にこの身を預け、弾ける甘味を携えて鮮やかに映し出され紡がれる珠玉の物語に飛び込めば、僕らの心に穏やかに沁みてゆくフィルムが、二人の時を祝福し七色に彩るだろう(映画はどう?)」
「時計の針のようにすれ違う感受性と褪せた写真のように薄れゆく関心が、私を抱きかかえ、スクリーンから遠ざけていく(今上映てる作品は、あんまり興味ないかも)」
「互いに奏でる旋律が鼓膜を震わせ、魂を酔わせる。滾るパトスは乱気流を生み、胸の内に溜まったガラクタを残らず水平線の彼方まで吹き飛ばし、色とりどりの景色へと僕らを導いてくれる(じゃあカラオケとか?)」
「二人の影のように重なり合った心が、既に共鳴し激しくビートを刻んでいる(いいね)」
「未来のプロットを電子の波に乗せて届けるよ(じゃあ後でRINEするよ)」
「波打ち際で海を眺めて砂粒を数えている(分かった。待ってる)」