表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の処女を奪ってください  作者: キノシタ ユウ
1/1

私と母

 20××年、11月下旬。秋。

 ロングTシャツ1枚にパーカーだけを着て歩くのはこの時期になると寒い。家からアルバイト先である薬局まで徒歩5分だが、この格好は少し調子に乗りすぎた。ファーストダウンやコートを羽織るのは少々面倒で、軽い服装で他出することは昔からの癖だ。自分でも寒いと分かっている。

 無線のワイヤレスイヤホンでお気に入りのバンドを聴いているが、風が颯颯と吹いているので、いつもより音量のゲージを増やしてしまう。悴んでいるせいか、手の感覚も少し気になる。暗闇の中でも休むことなく営業している自動販売機でホットの缶コーヒーを買おうかと少し迷うが、家は徒歩5分。節約の選択肢を選ぶ。


 もうすぐ暖かい部屋へと帰ることができる。否、暖かいのは部屋の温もりだけと加えておこう。


 家は10階建マンションの1階の一番手前の101が、私と母が二人で住む部屋である。オートロックのマンションは4桁の暗証番号を入力すると自動ドアのロックが解除される。

 部屋の扉をしずかに開ける。手首の腕時計を見る。0時10分。0時上がりにしては上出来な帰宅時間である。


 アルバイト先の薬局の営業時間は0時までで、0時になると社員はレジの精算や自動ドアの施錠といった終業点検を行い、アルバイトは定時での退勤となる。私は0時になった瞬間パソコン画面の退勤ボタンを押し、そのまま早歩きで休憩室まで服を着替えに行く。「店長!お先です!」私は深夜0時とは思えない活気ある声を発し、店の裏側にある店員専用の出入り口から外へ出る。


 部屋の扉を開けると明かりが点いてある。「お母さん、早く寝な。」ただいまの一言も言わずに、母に告げる。いつも23時には就寝している母であるが、珍しいことに0時10分になっても起きている。「分かってる。もう寝るから」と言い、寝室へと姿を消す。


 母とは仲が悪いわけではないが、私が小学校6年生の頃のある喧嘩が原因で会話が少なくなった。


 会話は少ないが、お互いを思う気持ちはあるのか、私がアルバイトを終え早く帰宅するのは就寝している母を万が一起こしたとしても、出来るだけ早い時間の方が良い。静かに帰宅するのも、母を起こさないようにするためで、静かにドアを開け、シャワーも夜明けに済ます。


 私と二人暮らしである母はスーパーでパートとして9時から17時半まで働いた後、近くのうどん屋で18時から21時までアルバイトをしている。その収入で家計を支えてくれているのだ。


 私は母の大変さを知っているし、少しでも休んで欲しい。心配な気持ちは変わらない。だが母に隠している事がある。それが小学校6年生の頃の喧嘩の理由である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ