君の名は
「この度は助けていただき誠にありがとうございました」
漆黒の鎧を着たその女剣士は、正座をして、まるで旅館の仲居のように手を添えて丁寧なお辞儀をする。
「いやぁ、助けてもらったのはこっちの方で…」
「いえ!お腹が減ってこの際あのクソまずいデスベアーでも良いかと思って斬ったは良いけど調理する余力は残っていなかったところに偶然あなたがいたおかげで助かりました!」
一気に捲し立てると、勢いよくもう一度お辞儀をした。
いやお辞儀というよりは土下座のようにも見えてなんとなく息苦しい。
しかしなるほど、彼女からすると偶然居合わせたのはオレの方で、しかもギリギリの状態だったらしい。
「ぜひ、お名前を聞かせてください!」
あ、そういえば。
「中村一歩です。えっと、君は…」
先に命を助けてもらったのに名乗ってないし名前も聞いていなかった。ちょっと反省するオレのことなどまるで気にしていない様子でその謎の剣士は
「ノエリアと申します。ぜひ、ノエリアと呼んでください!」
ノエリアと名乗った彼女は、ぐいっと距離を詰めてそう言った。さすがデスベアーを一撃で仕留めた剣士だけあって距離の詰めかたが一瞬だ。
「あ、ありがとう…ノエリア、おかげで助かったよ」
そう言うと、ノエリアはちょっとだけ砕けた笑顔をオレに向けた。
なんか、ちょっと可愛いかも…
そんなことを思っていると、堕天使がとことことオレの横に歩み寄ってきた。
「あ、そうそう私はねぇ」
「いや、お前はいい」
オレをこんな目に合わせた張本人である堕天使が、図々しくも会話に割り込んでこようとしやがった。
「あー!なんでよぉ!私の方が早くあったでしょうー!なによなによなんなのよぉ!」
「やかましいっ!メンヘラ女かお前は!大体お前のせいでこんな目に遭ってるのがわからんのか!」
「あー!そういうこと言うのね!なによぉ!せめてものプレゼントで若返らせてあげたじゃない!」
激おこぷんぷんなのはお互い様だが、それを聞いてオレははっとする。
「え…じゃぁやっぱり若返って…」
オレは魔法で若返らせてもらった、もしくはこの天使がくれたギフトってやつなのだろうか。
「そ、そうか。わるかっ…」
「そうよぉ!せっかく精神年齢に合わせた見た目になる魔法をかけてあげたのよ!」
…は?
「セイシンネンレイ?」
呆けるオレを無視して堕天使は声高々にほーほっほぅと笑う。
「そうよぉ!出会った瞬間私の勘がいったのよね。一歩さんは大人になりきれていない子どもだわって。しかも安心しなさい?この魔法は寿命をまっとうするまでは解けないの、だから」
ごつん
「いったぁ〜〜〜!!なによ、殴ったわわね!天使の私を殴ったわね!神様にも殴られたことないのにっ!」
「やかましい!逆にお前を殴ったことのない神様は本当の神様だ!神以外だったら全員なぐってるわ!」
「お前じゃないわよ!エルンよ!え・る・ん!」
しかも解けないならそれは魔法じゃなくて呪いというやつじゃないか。
あぁ、これからどうする。どうなる一歩。
次回、それぞれの理由。