初めてのデスベアー
グルル…
熊である。
熊といえば元いた世界ではなかなかな人気なキャラクターであり、黄色くて蜂蜜が大好き、本人は幸せそうな顔をしているので見落としがちだが、オレなら蜂蜜のツボに手を突っ込んだらベタベタして気持ち悪いからやりたくないな。オレのやりたくないことをやってるあいつとはきっと分かり合えないに違いない、と思っていた。
今なら言える。ハチミツの壺でもなんでも突っ込んで舐めるから許してもらえないだろうか、と。
「おい、堕天使さん」
「なによ」
「あそこに熊がいるよ」
「バカねぇ、あれはクマじゃなくてデスベアーよ」
なんと禍々しい名前だろうか。
「こっちを見て目を光らせてるんですけどぉぉ!」
おまけによだれを垂らしている。
どうする!どうするんだこんな時!死んだふりか!?いやあれはやってはいけない行為の上位に入っているはず!そもそもオレのいた世界の常識がこの名前からして安直にやばいやつと想像できるようなデスベアーとかいう魔物に通用するのか?!
ふと、横を見ると、堕天使はオレの顔をみてニヤニヤしている。
「はは〜〜ん、さてはあんた怖いのねぇ」
「怖いに決まってるだろ!あんなもん!天使なんだったらなんとかしろよ!」
「なるほどねぇ。でもそうねぇ、人に頼むときはそれなりの態度が必要なんじゃないかしら。ほら、大事な七文字があるでしょう?」
なんなのだこいつは、半○か?半○直樹なのか!?
ほれほれ、と見るからに堕天使にふさわしそうなダークな笑顔をこちらに向けているのを見て憤まんやる方ないが背に腹は変えられない。
ちなみに背に腹は変えられないってどういう日本語なのだ?背に腹ってなんだよ。
いや違う!すぐに脱線する思考をするのはオレの悪いクセだ!
異世界にきて早々に死んでゲームオーバーなどやはりコスパが悪い!
悔しいがここは堕天使様のお力を…
「お〜ね〜が〜い〜s…」
そこまで言ってオレはふと疑問が出てきた。
「お前、本当にあの魔獣倒せるの?」
「はぁっ?なぁに失礼なこと言っちゃってんのよ!あんな初級編の魔物倒せるに決まってるでしょう!?」
「いや、でもデスベアーだっけ?名前にデスってついちゃってるくらいだからものすごく強いんじゃないかなぁ〜」
「かぁ〜これだからシロウトは困るのよね!そんな名前人間の目線からつけたものなんだから私ら天使の目線からしたらテディベアよテディベア!」
「いやぁ、そしたら一度デモンストレーションなんて見てみたいなぁ〜。ほら、製品売る時って大体お試しがあるもんじゃないかなぁ〜。本当かどうかわからないもんなぁぁ〜」
「ちっ」
ちって言ったか今?!
しかし次の瞬間。
うがぁっ!
しまった…
つい無駄話、もとい交渉に気を取られてデスベアーの存在を一時的に架空のものへと追いやってしまった。
見るからに屈強な体、そして牙と爪を持ちオレの体なぞ一撃で肉玉に帰してしまうような突進。
どうなるオレ!