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裁判に向けて

 スカイラー侯爵が、国王、並びに裁判所によって、審判を下される―――。



 その情報が、メイソン侯爵を通じ、公表よりも一足早く、ドロテアたちの元へ伝え聞かされる。


 ドロテアは、喜びの声を上げた。


「よし!これでついに、奴に裁きが下るのですね!


 ……それで実際、どんな処罰が下されると思いますか?」



 メイソンは、額を指でこねる。


「うーむ……。そこは何とも言えませんね。


 一応、我々一部の上級貴族も、裁判の場には出席することになっていますが……。


 実際に裁きを下すのは、裁判官の判断と、国王のお気持ち次第といったところです。我々が口を出せるところは多くはありませんね。


 ただ、これだけ世間を騒がした事件だ。流石に、お咎めなしというわけには行かないでしょう。厳しい処分にはなると思います」



 ドロテアはもどかしい気持ちを覚える。


「そう……。どうなるかも分からない裁判の結果を、やきもきしながら待ってるっていうのも癪ね。


 何とか、こちらからできる事はないでしょうか?」



 カトリーヌが、ふと思いついたことを口に出してみた。


「……そうだ。前、レジナルドが言っていたけれど、スカイラーの『隠し財産』……。それって、どんなものか、見当はつく?


 それを奪う事はできないかしら?」



 レジナルドは、腕を組んで答える。


「え?……そうだな。えーと。金を、墓か何かの中に掘って埋めるとか?


 ……メイソン侯爵。ご存知でしょうか?」



 『隠し財産』があるだろう、とは言ったものの、レジナルドはそれについて詳しいわけでもない。


 同じ上級貴族に聞くのが早いだろう、と、メイソン侯爵に聞いてみた。



 メイソン侯爵は、苦笑いで応える。


「まあ、あくまで一般論ですが……。レジナルドさんが仰ったように、物理的に隠すことも、ままあります。貴族の屋敷というのは、色々と隠し部屋が設えてあったりするものですからね……。


 とは言え、おそらく、スカイラーは屋敷を接収されるでしょう。なので、屋敷の中に隠すことはしないでしょうね。屋敷ごと、隠した財産まで巻き上げられることになるのですから」


「すると、他にはどんな方法があるのですか?」


「まあ、色々あると思いますが……。何せ、スカイラーは他人名義の土地、家屋、会社、口座を山ほど持っていますからね。抜け道をさがそうと思えば、どれだけでも考えられるでしょう」



 ドロテアは、唸りながら問いかける。


「なるほど。それで、スカイラー侯爵は、すでにそのような財産隠しをしたと思いますか?」


 メイソン侯爵は頷いた。


「褒章授与式から逮捕されるまで、十分な時間がありました。


 抜け目ない彼の事です。おそらく、その辺は万全でしょうね」



 その言葉に、カトリーヌが口を挟んだ。


「しかし……今回の逮捕劇は、奴にとっても急な出来事だったと思います。


 急いでその作業を行ったのなら、必ず抜けがあるはず。何より、あいつはこの国内にいる限り、何もできないはずです。


 ですから……、何としてでも、スカイラーを国内に勾留しておいてください。仮に、国外へ逃がしてしまった場合、取り返しのつかない事態になってしまう恐れがあります」



 カトリーヌの言葉に、メイソン侯爵は頭を掻いた。


「言ってくれますが、スカイラーの処遇を決めるのは裁判官と国王ですよ?いかに私が上級貴族とは言え、私一人の力では、どうにも……」



 弱音を吐くメイソン侯爵に、ドロテアは、真っすぐな視線をぶつける。


「お願いします。メイソン侯爵。スカイラーを倒し、奴の腐った財産を奪う事は……。


 私たち全員にとって、意義がある事です。私たちの出番が来たら、私たちは全力で協力することをお約束します。


 ですから―――、今は、どうかお力をお貸しください」



 ドロテアは、勢いよく頭を下げた。


 メイソン侯爵は、そんなドロテアに戸惑いつつ、答えた。


「ええ。分かっています。私としても、スカイラーには何度も煮え湯を飲まされてきましたからね……。

容赦をするつもりはありませんよ。


 ……すみません。私としたことが、弱気になっていたようです。


 全力で、奴を食い止めることを、お約束しますよ」



 そう言うと、したたかな笑みを浮かべる。


 上品な皮を被っていても彼はやはり、海千山千の男であった。



 メイソン侯爵は、ドロテアの顔を見つめる。


「それにしても……、貴女がそこまでスカイラーにこだわる理由は何ですか?


 どうも、商人ギルドの利益、というだけではないような……」



 カトリーヌが、ちらりとドロテアの方を見た。


 ドロテアは頷く。どうせ、遅かれ早かれ分かってしまうだろう。メイソン侯爵に、自らの出自を明かすことにした。


「はい。私は―――、スカイラーによって謀殺された、ウォルバー統治貴族・クラナハ伯爵の娘なのです。


 ですから、此度の騒動は、私の父の敵討ちでもあります。


 奴の首は、すぐ届くところまで来ています。ここで、逃がすわけにはいきません」



 ドロテアは、揃えた膝の上で、強く両手を握った。



 メイソン侯爵は、驚いた表情を浮かべた。


「そうだったのですか……。いや、どことなく高貴な顔立ちをされているとは思っていましたが。


 そうであれば、なおさら失敗する訳にはいきませんね。


 分かりました。今から、準備をしてきます。また、いいご報告ができるよう、頑張ってきますよ」



 彼は、椅子から立ち上がると、会釈をして通信貿易ギルドから出ていった。


 会議室に残ったドロテアたちは、その後ろ姿を見送った。




 メイソン侯爵が、スカイラー侯爵を足止めできるか。


 それは、復讐が果たされるかどうかの分水嶺だ。




 ―――ドロテアは祈る。



 全てが、うまくいきますように。




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