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孤立無援

 それから1週間。



 中央都市は、スカイラー侯爵の悪事の話題で持ちきりだった。


 普段は雲上人である上級貴族を、表立って非難できる機会など、そうそうあるものではない。


 ここぞとばかりに町ゆく人々は、こぞってスカイラー侯爵への不信、不満を口にする。



 それを、通信貿易ギルドは的確に煽った。


 日ごとに、飽きがこないよう、少しづつ角度を変え、様々な種類の悪事、不正、汚職を明らかにしてゆく。


 人々は夢中になって新聞を読み漁った。そのため、新聞は例を見ないほどの部数を売り上げることとなる。



 その渦中の人物であるスカイラー侯爵だが、1週間前の褒章授与式から、ぷっつりと姿を見せなくなっていた。


 彼の屋敷の前には、連日野次馬が押しかけてきていた。


 しかし、そこには番兵が張っているだけで、本人は梨の(つぶて)だった。



 姿を見せず、報道について何の釈明もしないスカイラー侯爵に、不満は否応なく高まってゆく。




 その状況に、国王がついに動き出す。


 スカイラー侯爵を国王の下へ召還し、事情を聴きとる事を決定したのだ。




 ―――といった話を、メイソン侯爵から聞く。



 ドロテアたちが、スカイラー侯爵への悪評を撒く工作をしている間、メイソン侯爵は、貴族間での動きを逐一報告してくれていた。


 通信貿易ギルドの会議室に座っていたカトリーヌは、質問を投げかける。


「なるほど……。国王の動きは分かりました。それで、大人しくスカイラーは表に出てくるんでしょうか?」



 メイソン侯爵は、眉をひそめて答える。


「いや……、一応返事はあったらしいですが、しばらく待ってくれ、という話だったようです。


 恐らくですが、少しでも時間を稼ぎ、急いで悪事の証拠を隠滅しようとしているのでしょうね」



 レジナルドが、感心したように呟く。


「さすが、ここに至っても諦めないのは凄いな。まあ、それだけ意地汚くなければ、ここまでの不正もしなかっただろうが……」



 ドロテアが、懸念を挙げる。


「やはり、相手に時間を与えれば与えるだけ、言い逃れをされてしまう可能性が増えますね。


 さっさと公の場に引き摺り出してやらなければいけませんが……。


 騎士団に対する工作を進めても構いませんか?」



 メイソン侯爵が頷く。


「そうですね。国王の召還を待っているのでは遅そうです。もう、工作を始めても構わないでしょう。


 中央騎士団に、ヘンリーという男がいます。この男は、我々の一派です。


 ですので、彼をせっついて、捜査に踏み切るように仕向けようと思います。


 ……一応、証拠の確保と身柄の安全を確認させるために、拉致したジェーン騎士を渡してもらえますか?」



 カトリーヌは、問題ないと返事をする。


「ええ。構いません。レオンもつけてお渡ししますよ。どの道、あんな奴らを長い間うちの領土に置いておきたくはないですしね……」




 お互いの意思を確認し、中央騎士団への工作が開始された。



 騎士団に対し、密告を行う。


 スカイラーに内通し、不都合な事件や証拠を握り潰してきた一派が存在すること。


 そして、その一派が、殺人鬼と化したスカイラーの隠し子を庇っていたこと―――。



 最近の情勢に敏感になっていた騎士団は、即座に対応を行った。


 当然、メイソン侯爵の後押しもあったのだが、理由はそれだけではない。


 今、市民に嫌われているスカイラー侯爵と繋がりがあると思われては堪ったものではないからだ。それに、タレ込みの内容も重大なものだった。この情報が市民に流れたら、騎士団も相当なバッシングを受けるだろう。


 先手を打つべく、騎士団内で、緊急の監査が行われた。



 既に、スカイラー一派の騎士達は、騎士団内で、その立場を失いつつあった。


 後ろ盾であるスカイラー侯爵が社会的に非難を受け、姿をくらましているのだから当然だ。



 浮きつつあったスカイラー派の騎士が、続々と逮捕される。


 その騎士達は、尋問を受けるまでもなく、スカイラー家の秘密を次々と暴露し始めた。


 存在自体が消えている今、律儀に情報を守ってやる義理もないのだ。むしろ、黙っていれば、共犯を疑われ、罪が重くなるかもしれない。


 汚れた騎士達は、我先に罪を吐露していった。




 彼らの聴取を行った騎士団は、『膿を出しきった』として、スカイラー家へ強制捜査に乗り出すことを、内外へ宣言した。


 実際は、騎士団の身内でスカイラーに加担した者がいるのだから、騎士団自体に責任を問われそうな物なのだが……。


 『悪いのはスカイラー侯爵だ』という姿勢を全面に出し、騎士団そのものへの批判の矛先を逸らそうとしているようであった。




 どちらにせよ、この流れは、ドロテアたちにとって好ましいものだった。


 今や、スカイラーは、市民にも、国王にも、騎士団にも敵意を向けられている。



 ―――奴が倒される時も近い。



 ドロテアは、迫りつつある最終局面の空気を感じ、気合を入れ直すのだった。




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