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道筋

 思いがけない所からの提案だった。



 上級貴族であるスカイラーを倒すべく、同じく上級貴族であるメイソン侯爵が、協力することを申し入れてきたのだ。



 カトリーヌは、メイソン侯爵の提案に乗り気だった。


 特権階級であるスカイラー侯爵を倒すために、同じ特権階級の者が味方に居た方が、何かと心強いのは間違いない。


 自分たちが知らない、『貴族ならでは』の情報も、色々と知っていることだろう。



 カトリーヌは、ドロテアやレジナルドの方へ振り向き、意見を募る。


「……メイソン侯爵にはこう言って頂いているけど、皆はどう思う?」



 レジナルドは、諸手を挙げて賛成した。


「通信貿易ギルドとしては、願ってもない事だ。


 これによって、上級貴族との繋がりができるっていうんなら、それは大歓迎の事態だしな」


 ドロテアも頷く。


「ええ。味方は多い方が良いと思うし、カトリーヌが賛成なら、私も賛成だよ」



 一同の意志を確認したカトリーヌは、メイソン侯爵に返答をする。



「分かりました。本来は我々だけで事を進めるつもりでしたが―――。


 侯爵のお力をお借りできるというのであれば、有難くその話をお受けいたします」



 それを聞いたメイソン侯爵は、満足そうな表情を浮かべる。


「そうですか。それはよかった……。


 レジナルドさんもご存じだし、この際だから言っておきますが、我がメイソン家とスカイラー家は相容れない関係でしてね。


 奴を倒す機会を、耽々と狙っていたのですが……。敵もさるもので、中々尻尾を掴ませませんでして。


 それに……、まあ、彼ほどではないにせよ、上級貴族とは脛に傷を持つ者が多いものでね。


 下手に突っかかると、反撃を喰らう恐れもあったので、これまで、思い切った行動を取ることができなかったのです」



 レジナルドは納得した。


「なるほど。そこに、私たちが現れた。


 偶然にも、貴方が敵視する、スカイラー侯爵を倒そうとしていた。


 私たちは、貴方―――、メイソン侯爵と関係が無い第三者だ。


 私たちに、いわば便乗することで、反撃を恐れることなくスカイラー侯爵に攻撃ができる、ってことですね」



 露悪的な言われ方ではあったが、メイソン侯爵は冷静に言葉を続ける。


「誤解を恐れずに言えば、その通りです。我々は、上級貴族として、できればリスクは負いたくないのでね……。


 だが、勘違いはして欲しくないのですが、決して貴方たちを体の良い身代わりという風に考えているわけではないのです。


 出発点は違えど、今の私たちは、『スカイラー侯爵を倒す』という目的の下、集った同士だ。


 立場は対等だと理解していますよ。表舞台には出にくい分、資金や公的手続きの件で、全力で支援したいと考えています」



 カトリーヌは、それに同意する。


「そうね。本気でスカイラー侯爵を追い詰めようと思ったら、どうしても法の力を借りる必要がある。


 その際に、上級貴族の協力があるのは、とても有難いと思います」




「ご理解を頂けて光栄です……。


 さて、それで、具体的な話に移りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」



 メイソン侯爵が、会議室に座る一同を見渡した。


 一同は、居住まいを正す。



 それを見届け、メイソン侯爵は口を開く。


「まず……。この後の行動は、どのように考えておられますか?


 スカイラー侯爵を追い詰めるための、具体的な道筋は、どのように考えておいででしょうか?」



 その問いに、ドロテアが答えた。


「はい。まずは何より、スカイラーの汚職を全市民に周知するのが先決だと考えています。


 今後、スカイラーを追い詰めるにあたって、市民感情が後押しになると睨んでいるからです。


 その為に、奴の不正を暴く新聞を、小出しにして連日打ち続けます。当然、飽きは来るでしょうから、1週間程度を考えています……。


 それと前後して、騎士団を焚きつけて、スカイラーを逮捕する方向へ働きかけようと思っていました」



 ドロテアの回答に、メイソン侯爵は頷く。


「なるほど。良さそうだ。しかし、騎士団を焚きつけるとして、どうやって?


 騎士団の中にも、スカイラー一派はいるはずです。彼らに通報が握り潰される可能性も十分ありますが」


 予想していた返事だ。ドロテアは自分の考えを述べる。


「ええ。騎士団の中にも、スカイラー一派がいることは承知しています。


 ―――というのも、実際、スカイラー一派の騎士を、捕らえているからです」



 それを聞いたメイソン侯爵は目を剥いた。


「何っ、スカイラー一派の騎士を、捕らえている……?それは、どういう……」



 戸惑うメイソン侯爵に、ドロテアは経緯を話す。



 スカイラーの隠し子、レオンが殺人を犯したこと。


 それを、スカイラー派の騎士、ジェーンが揉み消そうとしたこと。


 そして、再度現れたジェーンをその場で捕縛したこと。



 話を聞いたメイソン侯爵は、息を吐いて顎に手をやる。


「……しかし、騎士を拉致するとは、思い切ったことをするものですね。


 とは言え、殺人鬼と化していた隠し子を庇おうとしたのは重罪だ。


 なんとかどさくさに紛れて、貴女たちに罪が行かないようにしてみましょう」



 ドロテアは、メイソン侯爵に頭を下げ、話を続ける。


「ありがとうございます。


 ―――それで、騎士団には、ジェーンの犯した悪行を伝えようと思うのです。


 スカイラー憎しの世論と、騎士団の不正の事実があれば、スカイラー家を捜査せざるを得なくなる……。


 と、考えているのですが、いかがでしょう?」



 しばらく黙って考え込んでいたメイソン侯爵だったが、顔を上げると、頷いた。


「……いいでしょう。そのシナリオで行きましょう。


 では、細かい打ち合わせが必要ですね―――」




 三者連合は、会議室で机を寄せ合い、会議を行う。



 スカイラーを討ち、新しい世を開くための―――。




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