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商人ギルド

 ミハウから呼び出しがあったのは、その翌日だった。



 指定されたのは都市の中心部にある商人ギルドの本部だ。



 エドワードとドロテアは、門を叩く。


 ミハウが門を開き、内へ促す。


「よお。よく来てくれたな。……うちのボスがお待ちかねだ。ついて来てくれ」



 ミハウが先導し、建物内を進む。


 商人ギルドの内装は、やはりというか、ぱっと見で高級そうな調度品がそこかしこに設えられている。


 それでも、嫌味に感じられないのは、配置の妙なのか。



 ドロテアが、しげしげと柱時計を眺めていると、背後から声を掛けられる。



「その柱時計が気になるのか?……なかなか良い目をしてるじゃないか」


 振り向くと、妙齢の女性がそこに立っていた。


 年としてはドロテアより二回り程度上に見える。



 印象的なのはその長く伸びた漆黒の髪だ。

 色白な肌と対比をなし、良く目立っている。


 濡れたように艶やかな髪は、腰の下あたりまで真っすぐ落ちている。

 前髪は顔の前に垂らし、ちょうど目の辺りを覆い隠している。そのため、詳しい表情は窺い知ることができない。


 ドロテアを見て、にっと笑う。薄い唇から歯が覗く。



「ああ、ボス。この人たちが昨日言ってた人たちでさぁ」


 ミハウが、その女性をボスと呼ぶ。



 ドロテアは、軽い驚きで女性を見る。


 何となく、商人ギルドの長と言えば、いかにも悪徳商人みたいな太っちょのおじさんか、魔女みたいな老婆を想像していたのだが、意外だ。



「ああ、なるほど。聞いてるわ。凄腕猟師と綺麗なお嬢さん、ね。


 ……初めまして。私は、このウォルバー商人ギルドのマスターをしている、カトリーヌと申します」


 カトリーヌは、サテン地のスカートを軽く摘まみ、優雅に礼をする。



 ドロテアは、それにつられて慌てて頭を下げた。


 エドワードも礼を返す。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ドロテア達は、改めて長テーブルに着いた。



「―――それで」


 カトリーヌは、懐から金貨を取り出すと、親指で真上に弾く。


 空中で掴むと、上に掲げて光に当てる。


「この金貨を数十枚も手に入れたってことだったわね?


 ……結果から言うと、これは本物の金よ。金貨としては数百年昔の東帝国で流通していたもののようね。その筋の愛好家からしたら垂涎の品でしょう。


 価値としては、これ一枚で、そうね。100万クラウンは下らないでしょう」



「えっ、1枚で100万クラウン!?」


 ドロテアは素っ頓狂な声を上げる。100万クラウンと言えば、普通の務め人であれば、1年の年収に相当する。


 それが、数十枚もある……。


 現実感が無く、くらくらする。頬をつねる。痛い。夢ではないようだ。



 カトリーヌは話を続ける。


「でもね。それと買い取るかどうかは別。高いものだけあって、やっぱ出所は知りたいわけ。


 ……これを拾ったのは迷宮だって言ってたけど。具体的にどこの迷宮で、どの辺の階層で拾ったのか、教えてくれない?」



 カトリーヌの目が狡猾に光った―――。気がした。


 前髪で目を隠しているのは、この眼光を悟られないためなのかもな。と、ふと思った。



 カトリーヌの言葉には、エドワードが答える。


「ふむ。それを聞いてどうなさるおつもりかな?……教えるにしても、買い取ると宣言してくれたら考えんでもないが。

 ……そもそも、その迷宮はさる方の所有物でな。勝手に踏み荒らされても困るぞ」


「へえ。所有者付きの迷宮か……。

 ならせめて、迷宮から取ってきたって証拠かなんかない?あとその迷宮の所有者の許可書かなんかはある?さすがに、盗品を買い取るのもアレだからね」


「それもそうだな……」



 エドワードは、どうする?とドロテアへ視線で問う。


 ドロテアは頷く。変に隠し立てして、金貨が売れなければ何にもならない。



「ああ、分かった。これを拾ったのは、こちらの―――、ドロテアが保有する迷宮だ。


 証拠になるかは分からんが、その迷宮でレッサーキマイラと戦い、首を取った。剥製にして、売りに行こうと思っていたのだが……。

 現物は家にあるが、見に来るか?これを見てもらえたら、少なくとも、迷宮に潜ったという証明にはなるだろう」



 カトリーヌは驚いた顔を見せる。……相変わらず目は隠れているので、よくは読めないのだが。


「へえ……このお嬢さんが迷宮を持ってるの?

 それで、この辺りでレッサーキマイラがねえ。しかも、それを倒せるとは……。猟師ってのは魔物も倒せるものなの?」


「まあ、猟師もいろいろいるからな。そんなのが居てもおかしくないだろう。それで、どうだ?信じてくれるか?」



 カトリーヌはしばし考える素振りを見せたが、頷く。


「……いいでしょう。信じましょう」


 エドワードはほっとした顔で返事をする。


「ああ、良かった。では、金はいつ貰えるんだ?」




「ええ、それなんですが……」


 カトリーヌは、薄い唇を歪めて笑う。



「どうせなら、金貨だけじゃなく、()()()()()()()()をしてみませんか?」




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