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号令

 ”ダンジョン村”の宿屋にて。



 そこには既に、複数人の商人ギルド、冒険者ギルド、自警団でごった返していた。


 人混みを掻き分け、ドロテアたち3人は、騒動の中心へ分け入ってゆく。



 ドロテアは、問題の部屋の前に立った時、おや、と気付いた。


 この部屋は、見覚えがある―――。



 室内へ入った時、思わずドロテアは鼻を手で覆った。


 そこには凄惨な光景が広がっていた。


 乾きかけている血の匂いが、鼻に侵入してくる。幸せだったパンの香りを、一瞬にして掻き消した。



 部屋のあちこちに血が飛び散っている。


 その中心には、小柄な女性が倒れていた。


 少し見ただけで、その遺体が見るに堪えない状況だという事が分かる。


 ここまで人体を乱暴に扱えるなんて、()()()()()()()()()()()



 いったい、この部屋で何が行われたというのだろうか……?



 部屋の様子を見るに、商人ギルド副マスター・ザラヴィスと、自警団隊長・ヒューが現場を仕切っているようだ。


 カトリーヌが、ザラヴィスに尋ねた。


「ああ、おはようザラヴィス。とんでもない朝だな。状況を教えてくれ」



 ザラヴィスは、カトリーヌに対して礼を返す。


「カトリーヌさん。おはようございます。


 ……ええ。昨夜の火事―――放火とのことですが―――の対応があらかた終わったのち、現場検証を行っていたのですが。


 その時、宿屋の方から青い顔をした女将が走ってきましてね。相当取り乱していたものだから、何事か聞いたところ、この部屋に死体があるとのことで。我々もこちらへ急行した、という次第です」



「そう……。遺体の身元は分かった?」


「いえ。それがまだ。色々探したのですが、身分証や財布の類は一切身に着けていませんでした。犯人が持ち去ったのかもしれませんね」


「この部屋に宿泊していた客じゃないの?宿泊者台帳は確認した?」


「ええ。いの一番に確認しましたよ。……それがこれです」



 ザラヴィスは、傍の机に置いてあった帳簿を拾い、カトリーヌに差し出す。


 カトリーヌはそれをめくる。後ろからドロテアとニーナが覗いた。



 この部屋に宿泊していたのは―――。


 男1名と女4名。


 男の名は、レオン・スカイラーだった。



 カトリーヌは、はっとして顔を上げる。


「これって……。どう考えても、レオンは重要参考人だろう。確保できたのか?」


 ザラヴィスは首を振る。


「いえ。我々が到着した時には、誰もいませんでした。室内を調べましたが、個人の特定に繋がるような物証はありませんでした」


「そう……他の女4人の身元はどうだった?」


「記入されているのは、何の変哲もないありふれた名前ですね。職業欄などには一切記入無し。偽名の可能性もありそうです」



 ザラヴィスの返答に、ドロテアが答えた。


「……ここに居たのは、レオンと、その取り巻きであるイザベル一味よ。


 私、一度ここに変装して偵察したことがあるから、覚えてるの」



 ザラヴィスは、方眉を上げる。


「それは本当ですか?……ならば、これはどういう事ですかね……?


 何らかの理由で仲違いし、女の1人を処刑して、逃走したとか……?いやしかし、ならば死体をここまで派手に損壊して置いていく理由も分からないし……」


 考え込むザラヴィスだった。カトリーヌとドロテアも、どうしたものかと悩んでいる。



 その成り行きをはらはらしながら見守っていたニーナだが、ふと、あることに気付いた。



 クローゼットの扉が、開きっぱなしになっている。


 その中に、何着もの服が突っ込まれていた。


 さすがに女性4人が泊まっていたとあって、その服の量はそこそこ多い。



 別に服に名前が書かれている訳でも無い。身元に繋がる情報は無いのだが……。


 ニーナの脳裏に、微かに引っかかるものがあった。



 そのクローゼットの中には、目立つ柄の服が掛けられていた。


 そう、見覚えのある、凝った柄の服。



 思わずニーナは、その服のところに走り寄る。


 服を引っ張り出す。男物の服だ。状況的に、レオンの物だろう。


 目の前に広げてみる。



 その服は、割合凝った柄と、いかにも高級そうなメタルボタンがついている。


 それに―――、服の一部が破れている。




 そうだ。騎士団遊撃課により、無理矢理捜査打ち切りにされた、あの血まみれの現場―――。



 あそこに落ちていた布の切れ端。()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ……ニーナが叫ぶ。


「あの血まみれ事件を起こしたのは―――、レオンだったんだ!」



 その声に、部屋中の人物が振り向いた。


「……それは、どういう事?」


 質問をするカトリーヌに、ニーナが答える。



 ドロテアが見つけた、血まみれの現場。


 そこに残されていた布切れと、レオンが着ていたと思しき服の破れが、柄、メタルボタンで一致すること。



「なんてこった……」


 ザラヴィスが唸る。


「ひょっとして、騎士団遊撃課が捜査を打ち切りにしたのも、スカイラーの手が回されていたからなのか……?」



 ドロテアが叫ぶ。


「カトリーヌには話したけれど、私が変装してこの部屋に入った時、あいつに勢い任せに襲われそうになったの。


 ……奴は普通じゃなかった。ここにある死体も、彼が関係している可能性は大きいと思う。


 奴を放置したら、被害が増えるかもしれない。至急、包囲網を敷いて、奴を狩り出しましょう!」



 ドロテアの叫びに、カトリーヌが同調した。


「それも最もだな―――」




 カトリーヌは息を吸い込み、大声で号令を下す。



「商人ギルド・冒険者ギルド、並びに自警団の皆様方。


 全員に告げる!


 総力を挙げて―――、犯罪者、レオン・スカイラーを炙り出せ!」




 部屋の中にいた一同は、拳を振り上げそれに応えた。


 ”ダンジョン村”内に、この号令は素早く伝達される。



 商人ギルド・冒険者ギルド・自警団。



 ”ダンジョン村”総力で、捜索が始まった。




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