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尋問

 エドワードとマーガレットは、暗殺者たちの話を聞いていた。



 彼女らの話を簡単にまとめるとこうだ―――。



 彼女たちに、暗殺の指令を下したのは、やはりスカイラー侯爵だった。


 スカイラーは、ドロテアが盾突こうとしていたことに気づいた。


 その為、彼女が集めていた証拠を抹消し、ドロテア自身も亡き者にするため、暗殺者を差し向けたということだ。



 話を聞き終えたエドワードは呟いた。


「やけにあっさりと殺しに来るもんだな……。とすると、これが初めてじゃないな?」



 睨まれたジャスミンは、居心地が悪そうに尻を動かす。


「ん、そうね……。と言っても、私たちがイザベルさんのチームに加わったのは割と最近だから。私たちはそんなには関わってない。


 聞いただけでよくは知らないけど、これまでも結構あくどい事をしていたみたいね。


 何てったって歳入庁の親玉が黒幕なんだから、相当な悪事が揉み消されてきたはずよ」


 自らも暗殺を何度となく行っていたであろうに、ジャスミンは他人事のように言ってのけた。



 エドワードは、やれやれと首を振る。


「……まあ、あんたらの倫理観の欠如にどうこう言ってもしょうがないな。


 さて、話は聞けたから、次はドロテアのところに案内してもらおう。


 当然だが、弾避け……、というか、道先案内人としてついて来てもらうぜ」



 暗殺者―――、ジャスミンの縛られた腕を掴み、強引に立たせる。


 横で、マーガレットもベッティナの腕を掴み、同じように立たせる。腕を折られているベッティナは、ここでも悲鳴を上げた。


 出かける前に、床に伸びている暗殺者たちの頭を再度強く蹴り、夜が明けるまでは目覚めないようにした。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ”ダンジョン村”事務所では、ドロテアへの尋問が始められていた。



 逃れられないよう、身体は柱に縛り付けられている。


 黒頭巾を被った女が、嗜虐的な笑みを浮かべ、革の鞭を振り上げる。―――振り下ろす。


 鋭い音を立て、ドロテアの身体に食い込んだ。



 激痛を感じたドロテアは、金切り声を上げて苦悶する。


 鞭で打たれた場所は、服が切り裂かれ、血が滲んでいる。


 黒頭巾の女が使っているような革の鞭は、使い手次第で、木の枝程度なら切断できるほどの威力を発揮する。



 鞭で打たれ苦悶するドロテアを、黒頭巾の女は恍惚とした瞳で見つめる。


 再度振りかぶり、今度は脚へと一撃を加える。身をよじって(かわ)そうとしたが、縛り付けられているので、それは叶わなかった。


 太腿へと食い込んだ鞭は、ワンピースのスカートを切り裂いた。白い腿から赤い血が流れる。


 相次ぐ鞭打ちに、俯いて浅い息を繰り返す。垂れ下がった髪の先から、脂汗が滴った。



 女は、さらに鞭を振りかぶり、打ち据えようとする―――。


 と、脇に控えていたもう一人の黒頭巾が、耳打ちをする。


「イザベル。尋問が目的だ。……履き違えるな」



 耳打ちをされた黒頭巾の女は、しばらく固まっていたが、そっと鞭を下ろす。


「……嫌ねえ。分かってるに決まってるじゃない。こういうのは、最初に痛めつけておかないと。ね?」


 黒頭巾の女は、肩を竦めてドロテアに近づいてくる。



 苦痛に顔を歪めているドロテアの近くに、顔を寄せる。


「さあ、早く吐いて楽になりなさい……。貴女が、スカイラー侯爵の不正の証拠を隠しているのはどこ?協力しているのは誰?」


 ぞっとするような艶やかな声で囁く。



 ドロテアは、それでもハッタリをかまし続けることを選んだ。


 ―――正直に答えれば、それこそ殺されることを直感で悟っていたのだ。


「信頼できる人物に託してある、としか言えない……。さっきも言ったけど、私たちを殺したら、自動的に情報はバラ撒かれることになってるのよ。


 お願い。見逃してくれたら、貴女たちのことは言わないでおくわ。約束する」



 懇願するドロテアだったが、黒頭巾の女は、そんな彼女を一笑に付した。


「まだ立場が分かっていないのね……。情報がどうなろうと、貴女、死んじゃったらそこでおしまいなのよ?


 ……まだ楽しい事は人生にたくさんあるっていうのに。それを経験しないまま、死んでもいいのかしら?」


 黒頭巾の女は、ドロテアの耳に、ふっと息を吹きかけた。ドロテアの二の腕を優しく撫でる。



 身震いするドロテアに、重ねるように言葉を掛ける。


「……それに、そろそろ別動隊がここに着く頃合いね。


 貴女の使用人、2人をここに連れてくるように言ってあるから……。


 彼らがいたぶられても、同じような態度でいられるかしら?」



 エドワードとマーガレットのことに話題が及ぶと、ドロテアは嫌々をするように頭を振った。


「……彼らは関係ないじゃない!何でそんなことするの!?」



 徐々に追い詰められてゆくドロテアの顔を、黒頭巾の女は愉し気に見つめている。


 ドロテアの頬に手を当てて、自らの方を向かせた。


「ふふ。良い表情。……まだ夜は長いわ。ゆっくり愉しみましょうね」




 ―――黒頭巾の女がそう呟いた時だった。



 事務所の扉がゆっくりと開く。


 一同の視線が、一斉にそちらへ向く。



 黒頭巾の女が、口を開く。


「ああ……。別動隊が到着したようね。さあ、入っていらっしゃい」




 事務所の扉は、徐々に開いてゆく。




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