表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/85

鎮圧

「来るぞ!……マーガレット!」


 こちらへ襲いかかろうという黒頭巾の暗殺者たちを前に、エドワードが声を張り上げる。



 マーガレットは一つ頷くと、手早く強化(バフ)魔法を詠唱展開する。


「精霊よ……彼の者を護り、導き給え」


 仄かな光が、指先から迸る。エドワードの筋力と運動能力が、一時的に増加した。



 正面から突っ込んでくる一人に、軽く拳を放つ。


 だが敵もさる者で、体を少しずらして、最小限の動きでそれを避ける。そしてそのまま、エドワードの胸へ短刀を突き出した。



 ―――それこそがエドワードの狙い目だった。


 軽く放たれた拳は、敵の動線を誘導するためのフェイントだ。



 突き出された短刀を握る手首。それを掴み、捻じり上げる。


 暗殺者は、思わず短刀を取り落とす。それを、後ろへ控えるマーガレットの方へ蹴り飛ばした。



 もう一人の暗殺者が、短刀を体の正面に構え、突っ込んでくる。


 エドワードは、その勢いに合わせ、手首を捻り上げていた暗殺者の体を投げつける。



 突っ込んできた方は慌てて短刀を引こうとしたようだが、遅かった。


 短刀の切っ先に、投げつけられた暗殺者が突き刺さる。


 そのまま体重を受けた暗殺者は、2人まとめて倒れる。


 折り重なって倒れた暗殺者たちに、エドワードは走り寄る。頭を強く蹴り、意識を失わせた。



 ……これで、残っているのは隊長格の黒頭巾2人のみとなった。



 エドワードが、静かな声で告げる。


「さあ、降参しろ。そして、お嬢様の―――、ドロテアの元へ案内するんだ」



 黒頭巾たちは僅かに動揺したが、すぐに冷静さを取り戻す。


 無駄口を叩かずに、短刀を構えなおす。順手で短刀を握り、足を軽く開く。


 腰を沈め、バネを溜めたと思いきや、一気に開放して飛びかかる。



 さっきまでと違い、動きに隙が無い。さすがは隊長格といったところか。


 狭い寝室の中なので、大きく逃げ回るわけにはいかない。


 ベッドのシーツを掴み、暗殺者に向かって投げつけた。


 それは緩やかに広がりながら纏わりつくが、空中で難なく切り裂かれる。



 だがその一瞬の隙を逃すエドワードではなかった。


 切り裂かれたシーツで短刀の切っ先を確認すると、構えの体勢に戻られる前に、その腕を掴む。


 肘の関節を逆向きにすると、流れるようにそれを自らの膝へ叩き付ける。



 生木がへし折れる音がして、暗殺者の腕は、通常と()()()へひん曲がった。



 深夜、虫の音すら寝静まった闇夜に、絶叫が木霊する。


 もう一人の暗殺者が、慌てて短刀を振りかざす。逆手に持ち替えている。


 しゃがむ格好になったエドワードの首筋を一突きしようとしているのだ。



 短刀は振り下ろされ、エドワードの首を貫こうかというその刹那。


 暗殺者は予想外のところから衝撃を食らい、転げた。


 そして体勢を立て直す前に、首筋に短刀が突き付けられる。



 信じられない思いで前を見ると、そこには、冷たい視線を放つマーガレットが立っていた。


 その手には、暗殺者から奪った短刀が握られている。



 2人がエドワードだけに気を取られていたところ、隙をついて体当たりをかましてきたのだろう。



 ―――ただのババアだと思って油断していた。完敗だ。



 暗殺者は、黙って両腕を高く差し上げた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……で、貴女たちの素性は?目的は何なの?」



 黒頭巾の暗殺者、その隊長格の2人は、腕を縛られて座らされていた。


 今は黒頭巾は取り去られ、素顔をさらけ出しているが。


 他の4人は、未だに気絶して、床にのびている。


 一応、マーガレットが全員に、最低限の手当てを施した。死にはしないだろう。



 隊長格の暗殺者は、顔を背けて口を噤む。


「……誰が言うか。くそ、油断した……」



 マーガレットはため息をつくと、折れた腕を固定している添え木を小突いた。


 暗殺者は、脂汗を流して悶絶する。


「あのねえ。強情張らないでちょうだい。


 殺しに来た相手の傷まで治してあげてるんだから、感謝の印にそれぐらい喋ってもいいんじゃないの?これ以上意地を張るなら……もう一回折るわよ?」



 暗殺者の目に怯えが走る。マーガレットの目は本気だった。



 2人のうち、腕を折られた方の暗殺者が、もう片方に涙声で話す。


「ジャスミン……。ごめん、受けた指示について喋ることにするよ。このままじゃ、2人とも殺される……。そこまでの給料は貰ってないよね?


 ……私が吐いたって、イザベルさんには言わないでくれる?」



 もう一人の暗殺者―――ジャスミンと呼ばれた方―――も、苦い顔をして呟いた。


「……ベッティナ。私の名前を言わないでって。


 まあ、早々にやられて降参したってのがバレたら、どっちみち馘首(クビ)か斬首ね。


 ……ねえ、貴方たち。私たちが指示について吐いたって、後で言わないでくれるかしら?」



 マーガレットは、苦笑して答える。


「拘束されてる身分だっていうのに、ずいぶんと注文が多いのね……。


 まあ、貴女たちのことはどうでもいいから、そうしておいてあげるわ。だからさっさと吐きなさい。


 ドロテアは……、今、どんなことになっているの?何に巻き込まれているの?」




「ええ、そうね。私たちが指示を受けたのは……、そして、目的は……」



 ジャスミンとベッティナは、此度の襲撃について、その詳細を語り始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ