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大立ち回り

 あばら家の周りは静まり返り、微かな虫の声しか聞こえない。



 6人の黒頭巾の一団は、気配を消してあばら家へ侵入する。


 彼らの靴底には、特別に柔らかく鞣された革が使用されており、歩く際にほとんど音を立てない。



 先述の通り、あばら家に施錠はされていない。


 そのため、扉は軽く押すだけで開く。



 しかし―――、あばら家だけあって、立て付けは悪かった。


 軽く開いたドアではあったが、割合大きな軋み音を立てる。



 黒頭巾の一団は息を呑み、その場に固まって様子を窺ったが、家人が起き出してくる気配はないようだった。


 ほっと息を吐き出し、寝室へと向かう。


 寝室と思しきドアに当たりをつける。


 そもそもこのあばら家は広くはないので、見当は簡単についた。



 今度は音を立てないように、慎重にドアを開ける。


 細目に開いたドアから、そっと寝室の様子を窺う。



 使用人の2人は、揃って粗末なベッドに横たわっていた。


 胸元は規則正しく上下している。眠っているようだ。



 それを確認した黒頭巾の1人は、胸元から殴打用の武器を取り出す。


 手ごろな革袋の中に砂と石を詰め込んだものだ。ブラックジャックと呼ばれている。見た目は地味ではあるが、その実、威力は高い。使い手によっては、頭蓋骨を粉砕することも可能だ。


 また、結局のところ、ただの革袋であるから携帯性や隠密性も高く、その打撃の衝撃は皮膚を傷つけず、体内に損傷を与える。暗殺にはもってこいだ。



 高いびきをかいて眠りこける、エドワードの枕元に立つ。


 軽く振りかぶり、脳天に狙いを定める。


 殺してしまってはまずいので、ほどほどの力で振り下ろす。


 ブラックジャックが、エドワードの額を叩き割る―――。



 刹那、エドワードは身をよじりそれを(かわ)す。


 多少ふらついたが、ベッドから飛び降り、頭を振る。額からは僅かに出血している。ブラックジャックが掠ったのだろう。


 間一髪で、奇襲を避ける実力―――。



 この元冒険者の使用人を、甘く見ていたのかもしれない。


 黒頭巾の一団は、エドワードが立ち直る隙を与えまいと、即座に追撃を放つ。



 しかし、なにぶん狭い寝室の中だ。一度に対峙できるのは1人が限度だった。



 黒頭巾が数回攻撃を(かわ)されるたび、エドワードは目を覚ましてきたようだ。


 距離をとるステップが機敏になってくる。



 それを見た隊長格が、部下の黒頭巾に指示を飛ばす。若い女性の声だ。


「女の方を……。マーガレットを盾にして脅せ!」


 指示を受けた黒頭巾が、ベッドから半身を起こし、何が起こっているのかよく理解できていない様子のマーガレットに飛びつくと、後ろ手に縛り上げて拘束する。



「クソっ……マーガレット!」


 エドワードの注意が逸れた一瞬に、黒頭巾のブラックジャックがこめかみへ直撃する。


 咄嗟にスウェーバックして衝撃を減らしたものの、思わずふらついて倒れそうになる。


 何とか踏ん張って睨み付けるが、視界が歪んでしまっている。



 そんなエドワードに向かい、隊長格の女が、勝ち誇ったように言い放つ。


「エドワード・ベネディクトだな?これ以上抵抗するな。抵抗するなら、マーガレットの命は無いものと思え……。


 夜分遅くに申し訳ないが、我々に同行してもらうぞ」



 エドワードは、自らの額を平手で叩きつつ、それに答えた。


 ついでに、殴られた場所を、ベッド脇に置いてあった手拭いで押さえる。


「いてて……。こんなジジババに何の用なんだ?悪いが渡せる金なら無いぜ。見ての通りのあばら家なんでな」



 ふん、と鼻を鳴らし隊長格の女は言葉を返す。


「別に金を期待してるわけじゃない……。”ダンジョン村”の事務所で、面白いものを見せてやろうと思ってな」



「……”ダンジョン村”?それ、どういうこと?」


 拘束され、縛られたままのマーガレットが尋ねた。



「ん?そうだな。そこであんたらのご主人様も拉致されてるんだ。


 口を割りやすいように、お互いの顔を見せてやろう、という心遣いなわけだな」


 もう、2人の使用人を支配下に置いたと思った隊長格の女は、得意げに自らの計画を喋った。



「……拉致?どういうこと?ドロテアは……、何をされているの?」


 マーガレットがさらに質問を被せる。


 縛り上げられているとは思えないほど、冷静な声だった。



 それに若干の気味悪さを覚えつつも、隊長格の女は答えた。


「ふん。奴らは今頃、情報の隠し場所を尋問されているはずだ。ご主人様が心配なら、さっさと行って、素直に答えるように説得してやればいいだろうよ」



「そう……。今、ドロテアは、”ダンジョン村”事務所で、尋問されているのね」


 マーガレットは呟く。それは、酷く冷静で、恐怖を微塵も感じていないような声色だった。



 隊長格の女は、微かな苛立ちを感じた。


 このババアは、自分も縛り上げられ、拉致されているというのに、なぜ怯えていないのだ……?



 少し怖がらせてやろうと、腰に差した短刀を抜いた時だった―――。




 マーガレットとエドワードは、お互い、視線を交わし合う。


 ―――それは一瞬だった。



 エドワードは、額を押さえていた手拭いを、近くにいた黒頭巾の頭に向かって投げつけた。


 視界を手拭いで奪われた黒頭巾の頭を、勢いをつけた肘打ちで打ち据える。


 崩折れる黒頭巾の腰から短刀を奪い、そのままの体勢で、マーガレットの方へスローイングした。



 マーガレットは、いきなりしゃがみ込む。


 マーガレットを後ろで縛り上げていた黒頭巾は、呆気にとられて固まっていたが、エドワードが投げた短刀を頭に受け昏倒した。



 人数こそ差はあるが、形勢は一気に逆転した。



 マーガレットはエドワードの方へ走り寄り、手首を縛る縄を解いてもらう。



 たじろぐ黒頭巾の一団に、エドワードとマーガレットは、腕を鳴らし、首を回して宣告する。



「さあ……。お嬢様を尋問していると言ったな?


 ……そこまで案内してもらおうじゃないか?」



 隊長格の女は、気圧される一団に喝を入れ直す。



「ビビるんじゃねえ!


 ……奴らは現役を引いた、ただの老いぼれだ!さっきのはまぐれに決まってる!


 まだこっちは4人いるんだ……。行くぞ!!」




 黒頭巾の暗殺者たちは、白刃を抜き放ち、一斉に躍りかかってくる。




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