表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/85

別動隊

「……どういうこと?」


 ドロテアは固い声で答える。



 黒頭巾の女は、くすくすと笑う。


「あら。物分かりが悪いわね……。


 いいわ。分かりやすく言ってあげる。―――あなたが住んでいたあばら家に、暗殺者(アサシン)を差し向けたの。


 貴女が情報を吐かないというのなら……。さあ、どうなるでしょう?」



 黒頭巾の女は、その細い指で、ドロテアの顎を、くい、と上げさせた。


 頭巾の隙間から覗く、意志の強そうな瞳がドロテアを捉える。


「貴女が強情を張って、飽くまでも情報をひた隠しにするというのであれば……。


 その選択のせいで、哀れ親愛なる使用人たちは生涯を閉じることになってしまう、ってわけ。


 そんなことにはなって欲しくないでしょう?」


 からかうように囁きかけてくる。



 ドロテアは、黒頭巾の女の瞳に囚われる前に、慌てて視線を外そうとする。


 しかし、顎を掴まれているので上手くいかなかった。


 せめてもの抵抗として、伏し目がちにして吐き捨てる。


「……ひ、人質のつもりか……?汚いぞ……!」



「ふふ。何とでも言えばいいわ。


 それより、その集めた情報で人の足を引っ張ろう、っていう貴女たちの方が汚いとは思わないのかしらね?


 まあいいわ。夜はまだ長いんだもの。―――ゆっくり愉しみましょうか?」



 女は、手を差し出す。他の黒頭巾から、革の鞭を受け取った。



 ひゅん、と風切り音を立てて、鞭を床に叩き付ける。


 ぱしん、と、もう片方の手に柄の端を打ち付ける。



 怯えるドロテアの表情を目の当たりにし、黒頭巾の奥で、女の瞳が喜悦の色に濡れる―――。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ところ変わってあばら家。



 ここの周囲にも、宵闇に紛れ、黒頭巾の一団が包囲していた。


 その人数は6人。指示を下している中心人物は2人いるようだ。



 その中心人物の2名のみが、頭巾をずらし、素顔を露出させていた。


 今から行う作戦内容を、全員に周知させるため、喋る必要があったからだ。



 そこにいた2名は、ジャスミンとベッティナ―――。


 イザベルと行動を共にしていた彼女たちだった。



 作戦の目的は至極単純である。


 あばら家の中にいる、ドロテアの使用人2名を拉致し、”ダンジョン村”事務所まで連行すること。



 偵察を行うため、ジャスミンが黒頭巾をしっかりと被りなおす。


 窓の死角に滑り込み、室内の会話に聞き耳を立てる。



 どうやら、あばら家の室内では夕食の片付けを終え、一休憩をしている最中らしい。


 ……見たところ、室内にいるドロテアの使用人は、初老に差し掛かっている。


 この年代ならば、食後はすぐに眠ってしまうだろう。その寝入りばなを狙って押し入ることとする。



 あばら家の防犯状況を確認するが、鍵の類は設置されていないようだ。侵入は易しい。


 田舎であれば、それも不思議なことではないが。



 また、拉致対象の事前情報を仕入れてはいる。


 室内にいるドロテアの使用人は、元冒険者であるエドワード・ベネディクトと、マーガレット・リンドの2名だ。


 冒険者であった時は、それなりに高名であったそうだが……。


 まだ20代そこそこのジャスミンやベッティナは、彼らの冒険者現役時代のことを知らないのだ。



 とはいえ彼らは、使用人時代も長く、初老に差し掛かっているのだ。


 問題なく制圧できるだろう、と高を括る。



 こういった押し込みで重要となるのは、まず先に腕の立つ方、厄介な方を封じることだ。


 一般的には、女子供より、成人の男から倒すことが定石とされている。


 従って、エドワードを先に襲い、戦闘能力を奪う事とした。



 ジャスミンは一団のところへ戻り、現状を伝える。


 あと30分後、使用人の2人が寝静まったころを見計らい、一気に急襲を掛けることとする。



 黒頭巾の一団は、所定の位置につき、その時を待つ。


 身じろぎ一つせず、時間はじりじりと過ぎてゆく。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 エドワードは、狩りで使うナタを磨いていた。


 食後にぼけーっと猟具の手入れをするのも、気分が休まっていいものだ。



 その後ろでは、マーガレットが食後の片付けが終わって、一息ついている。


 片腕で頬杖をつき、エドワードに話しかけた。


「お嬢様だけど……。大丈夫かねえ。お父さんが実は毒殺されてたなんて……。


 それで、スカイラー侯爵を告発するなんて、話が大きすぎて不安だわ」



 エドワードは、ナタを磨く腕を止め、腕組みをして唸る。


「まあ、それは確かにそうだ。だが、前も言ったかもしれんが、商人ギルドの人たちもついているし、信頼してみようじゃないか。


 ……実際、老いはじめた俺たちが近くに居ても、足手まといになるだけかもしれんしな」


「……そうかもしれないけど、なんだか歯がゆいわねえ」


 マーガレットは、昼間に焼いた焼き菓子を軽く摘まんだ。



 エドワードは、欠伸を浮かべて、マーガレットに言う。


「あふ……。最近、眠くなるのも早くなってきたな。俺はもう寝てくるとするよ。何かあった時も、寝不足じゃ動けないからな」


「ええ。そうね。私も寝るとしましょうか……」



 エドワードとマーガレットは、揃って寝室へ向かう。


 リビングのランプを消す。




 周囲は真っ暗闇に閉ざされる―――。





 墨を流し込んだような漆黒の中。



 あばら家のすぐそばで、6人の目が、凶暴に光った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ