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証拠は出揃う

 イザベルが、宿屋のへやに、かえってきた。


 ひとり、女の人をつれて帰ってきた。


 その女の人は、ちょっとこわい顔をしていた。



 それから、いつもの4人―――イザベル、マーナ、ジャスミン、ベッティナ―――と、つれてこられた1人とで、ずっと話をしていた。


 ぼくにはなんの話なのか分からなかったから、へやのはしっこでぼーっとしていた。



 そのうち、イザベルたちいつもの4人は、へやから出ていってしまった。


 いったい、どうしてしまったんだろう?



 ぼくがふしぎに思っていると、つれてこられた女の人が、ぼくにむかって話しかけてきた。


「こんにちは、レオン様。私は、ローズって言います。今日は、私と一緒にお留守番をしましょうね」



 ……今日は、ローズって言うらしい女の人が、ぼくを見はるようだ。


 ぼくは、小さくうなずいた。


 ローズは、ぼくがうなずいたのを見ると、つくえに行って、何か書きものをはじめた。




 つまんないの。ぼくは、ぼーっとしている。



 この前、おいかけっこをしてから、なんだか他のあそびが、そんなに面白くなくなってしまった。


 おいかけっこで、おいつめて、めちゃくちゃにするのが楽しいんだ。



 それは、今までぼくがしてきた、どんなあそびよりも楽しかった。


 だけど、見はられるようになってから、おいかけっこもできなくなっちゃった。……つまらない。




 ……ふと、ローズのほうを見る。


 つくえで、書きものをしているローズの後ろすがたを見ると、あることに気づいたんだ。



 ―――()()()()()()()()()()()



 さいしょ、顔がこわかったからあまり分からなかったけど。


  イザベルや、マーナや、ジャスミンや、ベッティナは、ぼくより背が高かった。


 だけど、ローズは、ぼくより背が低い。




 ……なんだ、とぼくは思った。



 これなら、()()()()()()()()()()()()()()()



 背をむけているローズの後ろへ、そっとしのびよる―――。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ”ダンジョン村”事務所内にて。


 日は落ち、周囲は暗くなっていたが、事務所の一室に明かりが灯っていた。




 ―――ドロテアとカトリーヌが、ニーナが広げている書類の説明を聞いている。




「なるほど……、大発見じゃない!」


 ドロテアは、興奮して声を上げる。



 ニーナは、誇らしげに鼻をさすってみせた。


「ええ。公文書保管局へ行って、登記簿の謄本を取り寄せてみたのですが……、大当たりでした!


 ウェイン伯爵は、ドロテアのお父様……、すなわちクラナハ伯爵が亡くなる1週間前、唐突に養子縁組が組まれています。


 ……この時期からクラナハ伯爵は『相続の秘薬』によって臥せっており、自身の意思で養子縁組を行ったとは思えません。


 恐らく、スカイラー侯爵が偽造書類を提出して進めたであろうことは想像に難くありません。



 ともかく、それによって、ウェイン伯爵は、クラナハ伯爵の息子という扱いになり、遺産の相続を受け取ることができたのです……。


 それだけではありません。その他にも数人と養子縁組が組まれ、お父様の思い出のレストラン、『アン・デン・ケン』も、赤の他人の手へと渡っていました。無論、その後ろにはスカイラー侯爵が控えていることは間違いありません」



 カトリーヌは、膨大な証拠書類を指先で弄ぶ。


「……この不正相続に、ドロテアのお父さんが探し当てた、カジノによる不正蓄財。あと消えた隠し子の母。そして、クラナハ伯爵の毒による暗殺。


 ―――しかしまあ、ほんとに不正の総合商社みたいな奴ね。


 これだけ揃ってきたら、そろそろ勝負を仕掛けられるんじゃないかしら?」



 ドロテアは、腕を組んで唸る。


「ええ。そうですね。スカイラー家の後継ぎ騒動が終わる前には、勝負に行きたいです。


 具体的にはどうしたものでしょう?すぐに思いつくのは、報道機関や騎士団に、広く打ち明けるってところですが……」



 カトリーヌが答える。


「……そうね。まあ、時間もあるかどうか分からないし、早めに手を打ちましょうか。


 中央都市に、通信貿易ギルドの知り合いがいるから、彼に頼んでみるわ。


 ―――それまでに、このへんの情報をまとめておかないとね」



 その言葉に、ニーナがふん、と気合を入れる。


「そうですね。でも、ここまで来たらもう一息です!最後まで、気を抜かずに頑張りましょう!」



 ドロテアは、カトリーヌとニーナに頭を下げる。


「2人とも、ありがとう……。2人がいなかったら、ここまで来れなかったよ」



 カトリーヌは、照れくさそうに手を振った。


「そんなの……。まだ終わってないんだから、その時まで取っといてよ。


 今からが大変なんだからさ。……スカイラーがどう出てくるか分からないし、まだ全然油断はできないよ」




 ―――ドロテアたち3人が、”ダンジョン村”事務所で話し合っているその時。



 事務所の外に、闇に隠れた数人の人影が見える。


 彼らは、室内の様子を窺い、今現在、事務所内にはドロテアたち3人しか残っていないことを確認する。



 人影は、視線で囁き交わす。


 ハンドサインで、この後の手筈を再確認しているようだ。



 その時、室内の明かりが僅かに漏れ、一人の人影を照らした。




 ―――慈母の微笑を不敵に漏らす、イザベルがそこにいた。




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