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行方不明事件

 その翌日。



 ドロテアが目を覚ますと、やけに室内が明るい。


 ベッドから起き出し、カーテンをはぐってみると、太陽は既に高い位置へ昇っていた。



「……よく寝たなあ」


 欠伸を噛み殺しながら、寝起きでぼさぼさの髪を掻く。


 深夜まで語り合っていたのが原因だろう。


 普段、夜更かしなどはあまりしないので、その分だけ起きるのが後ろにずれたのだ。



 隣のベッドで軽くいびきをかいているニーナを揺り起こす。


 寝返りを打って抵抗していたが、半目で目を擦りながら、ニーナが起きる。


「あ、おはよう……もう朝?」


「朝どころかもう昼だよ。……支度して、ウォルバーに戻ろうか」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 結局、そのあとゆっくり支度してから出発したので、ウォルバーに帰り着いたのは夕方過ぎだった。



 ……時間はかかってしまったが、仲良くなったニーナと話しながらの身繕いは楽しかったし、一緒にとった軽食屋での昼食も楽しかった。


 恐らく、一人で来ていたとしたら、ここまで前向きにはいられなかっただろう。


 今後、どう動くかについても、まだ悩んでいたに違いない。



 そういう意味では、護衛という形で、ニーナをつけてくれたカトリーヌには感謝だ。




 ウォルバーに降り立った足で、”ダンジョン村”事務所へ向かう。


 今や、商人ギルドのほとんどの機能がこちらへ移っている。



 そこにいたカトリーヌに、帰還と現地で判明したことの報告を行う。


 相槌を挟みながら聞いていたカトリーヌは、よくやったと(ねぎら)った。



 また、ニーナとしばらく行動を共にしたいと相談する。


 カトリーヌは快く了承する。



「正直、ドロテアが一人で色々行動するのは結構不安だったのよね。……私も本業で忙しいから、いつもついている訳にもいかないし。


 ニーナは差し当たって仕事もないし、ぜひそうしてちょうだい。その方が私も安心だわ」


 申し出が問題なく通り、ドロテアとニーナは、ほっと胸を撫で下ろした。



「でね、こう言うのも理由があって……」


 カトリーヌは表情を真面目に引き締める。


「最近、この”ダンジョン村”で、女性冒険者が行方不明になる事件が起きているらしいの」



 ニーナは、ぎょっとした顔で言う。


「えっ、行方不明って……結構な事件では?」



「ええ。まあ、普通はそうなんだけどね。でも、ここに集まっているのは冒険者がメイン。言っちゃ悪いけど、ダンジョンの中で行き倒れたり、ふらっと何処かへ行ってしまう事は日常茶飯事なわけ。


 ……なんだけど、どうも最近、冒険者が、特に女性の冒険者の行方不明者が多い気がするの。


 別に統計を取っている訳じゃないから、表沙汰にはしていないんだけど。こんな話が公表されたら、”ダンジョン村”の客足が落ちるしね。


 でも、……二人は気を付けてね」



 ドロテアとニーナは、顔を見合わせると、頷いた。




 事務所を出ると、周囲は薄暗くなってきていた。


 今日は起きるのが遅かった分、移動と準備だけで終わってしまった。



 家に帰るニーナを見送る。


「じゃあ、また明日ね。ここで落ち合ってから、ウォルバー城に行こうか」


「了解!……じゃあ、また明日!」


 聞いてみると、家の場所はそう遠くはないらしい。手を振ってニーナは帰っていった。


 ドロテアは、ニーナが角を曲がって姿が見えなくなるまで見守っていた。



 見送ったのち、事務所に併設された食堂に向かう。



 ふと見るが、カトリーヌは書類仕事で忙しそうだ。一人で夕食をとることにする。


 今日の昼は、ニーナと喋りながら食べたので、一人での夕食がやけに寂しく感じた。



 味気ない夕食を終え、事務所に間借りしている部屋へ戻る。


 正直、昼まで眠っていたのであまり眠くはないのだが……。


 しかし、明日は朝から行動開始だ。いつもの時間に寝なければならない。


 ため息をつくと、顔を洗い、歯を磨いてパジャマへ着替える。



 ベッドに潜りこみ、ランプを消す。


 じっとしているが、眠気はちっとも訪れない。むしろ目が冴えてくるようだ。



 ぼけーっと天井を見つめる。


 ランプは消したが、外からの星明りが意外と明るい。


 夜目が効いてくると、普段は気にも留めない天井の木目がよく見えた。


 それをじろじろ眺めても、何かが起きたりするわけでもない。



 結局、ドロテアはそのまま眠るのを諦めて、ベッドから這い出した。


 時間的には、まだそんなに遅いわけではない。



 少し、散歩してから寝よう。


 そう思い直し、パジャマの上にガウンを羽織る。


 サンダルをつっかけて、事務所の外へ出る。



 まだそこまで遅くないが、事務所は既に閉まっていた。人気(ひとけ)はない。


 普段賑やかな場所が無人だと、それだけで何か不気味に感じる。



 ドロテアは外に出るのを止めようかと思ったが、ここまで来たんだからと、そそくさとドアを開ける。


 ”ダンジョン村”事務所は、繁華街の方面からは少し外れている。



 従って、賑やかな雰囲気こそ伝わってくるが、明かりや喧騒といったものは、そこまで届かない。


 むしろ、微かに届く声と光は、リラックスできるような、心地よいボリュームだった。




 星明りに照らされる事務所の周辺を、ゆっくりと歩く。


 心が休まる瞬間だ。




 ―――すると、夜目が効くようになったドロテアの視界に、不自然なものが映る。



 雑木林の方面、木立の間で、誰かが走っている姿が見えたような気がした。


 思わず、ドロテアは近くの茂みに隠れる。



 恐る恐る、そちらへ目を凝らす。


 人影は2人のようだ。



 追う側と、追われる側―――?



 すると、追う側が、追われる側に飛びかかる。




 小さく、絹を裂くような悲鳴が聞こえた―――。




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