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閑話休題

 ドロテアは、脱いだワンピースを軽く畳んで棚に置いた。



 ニーナがすでに入っている風呂桶へ入る。


 確かに二人入って、なお余る程度の余裕はあるが、そこまで大きなわけでもない。



 浴槽にドロテアの長髪が浮かんだ。


 邪魔になりそうだったので、頭の上で髪を結び直す。



 しばらくの間、2人で風呂を堪能する。


 歩き通し、緊張し通しだった体に、暖かさが染みわたる。


 軽く張った足を手で揉むと、凝りがほぐれていくのが分かる。


 それと共に、体についた汗や埃の類が落とされてゆく。



 ……ひょっとしてこれ、湯船の中が汚れるのではないだろうか。


 そうも思ったが、まあ、出るときに体を拭けばいいだろう。



 風呂桶のお湯で、顔を洗う。


 気にしないことが多かったが、やはり、お湯で顔を洗うと気持ちがいい。


 横を見ると、ニーナも同じように、顔を洗ったりマッサージしたりで、リラックスしているようだ。



 風呂でのんびりしているうちに、お互いに、ぽつぽつと身の上話を始めた。



 ドロテアは、迷宮で金貨を見つけてから、ダンジョン村を立ち上げ、今に至るまでの成り行きを話す。


 商人ギルドには伏せている、自分の出自―――、すなわち、実は貴族の令嬢だという事は隠して喋る。



 ニーナは、両親も商人ギルドで働いているらしい。4人きょうだいの次女だという事だった。


 年齢は、ドロテアとちょうど同じだという事も分かった。


 長男がしっかりした人間なので、自分は割と自由に過ごしている、と楽しそうに語る。



 話していて気付く。彼女は活発で陽気な性格のようだが、それだけでなく頭も回るようだ。


 ギルドマスターのカトリーヌから護衛を任されるくらいだから、それなりに優秀だということだろう。



 こちらの話に嫌味なく相槌を打ち、いかにも楽しそうに話を聞き、喋る。


 ただのお喋り好きでは、ここまでスムーズに話を続けられないものだ。……多分。


 ドロテアも割と最近まで引きこもりのような生活を続けていたので、言い切るとこまではいかないが。



 それでも、久しぶりに話して楽しいと思えたのは事実だ。



 エドワードやマーガレットと話すのも楽しいのだが、年の近い人物との会話は、また違った様子で、これはこれで楽しい。



 思えば、幼少の頃は、田舎貴族の令嬢と言われて、周囲と距離をとっていた。


 父が亡くなってからは、周囲から心を閉ざした。



 ……同年代と親しく話すのは、これが初めてかもしれない。



 気づけば夢中になって会話を続けていた。


 話題はたわいのないものだった。


 ドロテアの通っていた図書館で読んだ、面白い本のこと。

 エドワードの狩りについて行って、ローパーに追いかけ回されたこと。

 マーガレットの作ってくれる美味しい料理のこと。


 特にオチも何もない、聞く人が聞いたら、何て無意味な内容だと鼻で笑い飛ばすような話題。



 それでも、ニーナは楽しそうに聞いてくれた。


 時折、ニーナ自身も体験談を返してくれる。ローパーの味付き触手を口いっぱいに頬張って、窒息しかけただとか。


 そんな話でも、身振り手振りで面白おかしく話してくれるので、ドロテアは笑いが止まらなかった。


 そんなドロテアを見て、ニーナも嬉しそうな表情を浮かべるのだ。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 風呂桶にもたれながら長話を楽しんでいたが、お湯が冷めてきたことに気付く。


「あ……結構お湯が冷めてきちゃったね。そろそろ出る?ここで体冷やしちゃったらもったいないし」


 ドロテアがそう言うと、ニーナは頷いた。


「そうだね。体があったまってる内に出よう!」


 ニーナは、さっと立ち上がる。



 張りのある体から、お湯がすべり落ちてゆく。


 こけないように風呂桶をまたぎ越えると、バスタオルを2つ手に取る。



 ドロテアが上がってくるのを待って、手渡してくれた。


 礼を言って受け取ると、体を拭く。



「ふう。結構お風呂良かったね。……髪も洗えたらよかったかな。でもなんか、癖になりそうかも」


「だね。私は髪が短いからいいけど。……ドロテアは綺麗な髪だからいいよね」


 ニーナとは砕けた調子で話すようになっていた。同年代だという事が分かったし……、何せ、それがくすぐったくて楽しかったからだ。



「そう?……ありがとう。この髪は、お父さんからの遺伝なんだ。そう言ってもらえて嬉しいかな」


 ドロテアは、慈しむように自分の髪を撫でる。


「へえ。お父さんからねえ。ドロテアのお父さんって、何してるの?」


 ニーナは、体を拭きつつ聞いた。



 ……ニーナには、商人ギルドの皆にも、ドロテアが、実は地方貴族の令嬢だという事は、伝えていない。


 でもまあ、秘密にするほどの事でもないか、と思い直し、父の事について話すことにした。




 ―――誰か、親しい人に、父の事を聞いてほしい、という気持ちもあるかもしれない。




「そうだね。私のお父さんは、ウォルバーの領主だったんだ―――」



 驚いた顔をするニーナに、今度は伏せずに、自分の身の上について話し始めた。





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