身辺調査
レオン・スカイラーの正体を暴くべく、ドロテアは、早速行動を開始した。
まず、”ダンジョン村”に滞在する商人のネットワークを使い、奴の情報を集めることとした。
当然、ドロテア自身が聞いて回るのではあからさますぎる。
ミハウに、さり気ない様子で、商人たちへ聞き取りを行うことを指示する。
ドロテア自身も、物陰に隠れ、レオンの動向を見張る。
どうやら、レオンは未だに”ダンジョン村”の宿屋に滞在しているようだ。
最初に見た時の通り、レオンは、大体においてハーレムを引き連れていた。
奴が外出する時も、最低2人は傍についている。
観察していくうちに気付いたが、どうやら、ハーレムの4人の中でも序列があるらしい。
ドロテアが潜入した時に見た2人……、確か、イザベル、そしてマーナと呼ばれていた2人が、上位に立っているようだ。
イザベルは、回復職のような出で立ちの女だ。胡散臭いほどの母性が、表情から滲み出ている。常に余裕に満ちたその表情は、底が見えない不気味さを与える。
そしてマーナは、壁職のようだ。女性ながらも逞しい体を持っている。常に、鋭い視線を四方に配っている。彼女の不意を突くことは非常に難しいように思えた。
他の2人も、その身のこなしから、結構な実力者である印象を受けた。
これほどの実力者たちを侍らせているのだ……、やはり、レオンには、何か秘密があるはずだ。
ドロテアは、その確信を強くしてゆく。
そんな監視が数日続く。
事務所内で小休止していたドロテアへ、ミハウが話しかけてきた。
「ああ、どうもお嬢様……。今日もお疲れさまですな。商人たちの噂やらなんやらを集めてきましたぜ」
ミハウは、ドロテアの手に冷えたジュースを渡す。
礼を言って受け取ると、早速口をつける。
「どうもありがとう。……それで?あのレオンって奴は、本当に上級貴族の一族っぽいの?」
「ええ……どうやらそのようで。
今、実は、スカイラー一族は後継者争いで揉めているようでしてな。どうやら、スカイラー侯爵の体調があまり優れないとか。まあ、おおよそ長男と次男との争いなのですが……」
「……へぇ?まあ、普通に考えたら長男が継ぐんでしょうね。それの何が問題なの?というか、レオンと何の関係があるの?」
疑問を浮かべるドロテアに、ミハウは愉快そうに口を歪める。
「ええ。それなんですが……。
どうやら、公表されている長男は、実は長男ではないのではないか、という噂が流れていまして……」
思わず、ドロテアは座っていた椅子からずり落ちそうになった。
「それって、もしかして……!」
「ええ……。後継者争いから逃げるように辺境へやってきた男、レオン・スカイラー。
……彼こそが、真のスカイラー侯爵の長男だと噂されております」
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ドロテアは、事務仕事を行っているカトリーヌの元へ行く。
それに気が付いたカトリーヌは、書類に落としていた目をドロテアへ向けた。
「お、ドロテア。元気?」
ひらひらと手を振るカトリーヌに、ドロテアが詰め寄る。
「カトリーヌさん!調べたいことがあるんです!」
ずかずかと近寄ってきたドロテアに若干引き気味になりながら、カトリーヌが返す。
「わ、分かったから落ち着いて。そんなに興奮してどうしたの?」
「ええ。ここに投宿している、レオン・スカイラーですが……、奴が、スカイラー侯爵の曰く付きの長男である可能性が出てきました。
これを調べることで、スカイラーへ先制攻撃を与えられるかもしれません!」
興奮して捲し立てるドロテアに向かって、カトリーヌは相槌を打つ。
「……なるほど?それは興味深いわね。ちょうど私も、その辺のことについて調べていた所なのよ。
……ほらこれ」
カトリーヌは、手元にあったメモ用紙をドロテアに差し出す。
そこには、几帳面な字が書かれていた。
『スカイラー侯爵の元へ献金を納めに行った時だった。ドアの向こうで侯爵がぼやいているのを聞いてしまった。
どうやら、メアリーも、その子供も邪魔だとかどうとか?しかし、スカイラー侯爵の妻はメアリーという名前ではなかったはずだ。何となく、秘密の香りがする。このことは覚えておいてもいいだろう』
「……このメモは?」
顔を上げたドロテアに、カトリーヌが答える。
「ピーターの奴が隠していた書類の中に埋もれてたのよ。
……どうやら奴も、スカイラーの息子について、キナ臭い物を感じていたようね」
「なるほど……」
ドロテアは考え込む。
―――その数分のち。
ドロテアは、何かを決意した顔で、カトリーヌを見つめる。
「カトリーヌさん……。私、中央都市に乗り込みます!
この手でスカイラー侯爵の闇を暴き、この”ダンジョン村”を……商人ギルドを守ってみせます!!」
ドロテアは大見得を切る。
これは、やり遂げなければならないことなのだ。
今は、後継ぎ騒動でごたごたしているようだが、それが終われば、矛先はこの商人ギルドへ向くだろう。
それまでに、スカイラー一族に、一撃を与えておかねばならない。
残された猶予は、そう多くないだろう。
ドロテアの中の闘志は、激しく燃え上がっていた。